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大学・研究所にある論文を検索できる 「非ヒト霊長類ES細胞由来オルガノイド複合体を用いた脳モデルの構築」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

非ヒト霊長類ES細胞由来オルガノイド複合体を用いた脳モデルの構築

小寺, 知輝 名古屋大学

2023.05.22

概要



報告番号

















論文題目

非 ヒ ト 霊 長 類 ES 細 胞 由 来 オ ル ガ ノ イ ド 複 合 体 を 用 い た
脳モデルの構築



小寺 知輝



論 文 内 容 の 要 旨
精神疾患領域における新規治療薬開発の成功率は他領域と比較して低い。その要因
は,非臨床試験で主に使用される齧歯類では正しく薬効を評価できおらず,ヒトへの
外挿性が低いことにあると指摘されている。そこで,精神疾患研究の新たなモデル動
物 と し て コ モ ン マ ー モ セ ッ ト (Callithrix jacchus) が 注 目 さ れ て い る 。マ ー モ セ ッ ト は
ヒトと似た脳構造を有し,音声を用いたコミュニケーションを行うなど,高い社会性
を示すため,精神疾患研究のための優れたモデル動物である。しかし,倫理的観点か
ら 侵 襲 的 な 実 験 は 限 定 さ れ る た め , in vivo の 代 替 と な る よ う な マ ー モ セ ッ ト 脳 の in
vitro 評 価 系 が 必 要 と さ れ て い る 。そ こ で 本 研 究 で は ,マ ー モ セ ッ ト を 用 い た 脳 研 究 を
階層横断的に促進させるため,遺伝子レベルから神経回路レベルまで解析可能なマー
モ セ ッ ト in vitro 脳 モ デ ル を 構 築 す る こ と を 目 指 し た 。
マ ー モ セ ッ ト 脳 の in vitro モ デ ル を 作 製 す る た め に , 本 研 究 で は オ ル ガ ノ イ ド に 着
目した。オルガノイドは多能性幹細胞から分化誘導して作製される 3 次元の細胞凝集
塊を指し,様々な臓器の構造や機能を一部再現できる。しかしながら,現在の技術で
は生体において離れた異なる領域をオルガノイド内部に同時に誘導することができな
いという問題がある。生体脳の神経回路は大きく分けて興奮性神経細胞と抑制性神経
細胞から構成される。大脳皮質のこれらの細胞種は発生中に大脳皮質脳室帯と基底核
原基という異なる領域から産生されるため,単一オルガノイドでは大脳皮質の神経回
路形成を再現することができない。そこで,本研究ではこれら 2 種の細胞種を産生す
る領域を別々に誘導し,融合させることで神経回路形成を再現可能なオルガノイド複
合 体 (ア セ ン ブ ロ イ ド ) を 作 製 す る 手 法 を 用 い , マ ー モ セ ッ ト の 神 経 回 路 形 成 過 程 な
ら び に 神 経 機 能 を in vitro で 再 構 成 し , 以 下 の 新 知 見 を 得 た 。
これまでにマーモセット多能性幹細胞から脳オルガノイドの誘導は報告されていな
い 。そ こ で 本 研 究 で は ま ず マ ー モ セ ッ ト 胚 性 幹 細 胞 (ES 細 胞 ) か ら 大 脳 皮 質 オ ル ガ ノ

イド,基底核原基オルガノイドへの分化誘導法を検討した。検討した誘導法をもとに
作製したオルガノイドがそれぞれ目的の大脳皮質と基底核原基へ分化したかを評価す
る た め qPCR を 行 っ た 。そ の 結 果 ,大 脳 皮 質 誘 導 条 件 で は 背 側 終 脳 マ ー カ ー で あ る Emx2
の 発 現 が , 基 底 核 原 基 誘 導 条 件 で は 腹 側 終 脳 マ ー カ ー で あ る Nkx2.1 や Lhx6 の 発 現 が
認められた。また,オルガノイド内部の組織構造を免疫染色により検討したところ,
大 脳 皮 質 オ ル ガ ノ イ ド 内 に は 生 体 脳 の 層 構 造 と 類 似 し た 極 性 構 造 を 有 し て い た 。一 方 ,
基底核原基オルガノイドは,抑制性神経前駆細胞,抑制性神経細胞マーカーを発現し
ており,それぞれのオルガノイドが生体脳の対応した領域と類似した特性を有するこ
と を 示 唆 す る も の で あ っ た 。 以 上 の 結 果 よ り , マ ー モ セ ッ ト ES 細 胞 か ら 大 脳 皮 質 オ
ルガノイド,基底核原基オルガノイドへの分化誘導法を確立した。
次に,興奮性神経細胞と抑制性神経細胞との神経回路を模倣するために,これら 2
種 の オ ル ガ ノ イ ド を 融 合 し ,皮 質 -基 底 核 ア セ ン ブ ロ イ ド の 作 製 を 行 っ た 。ま ず ,蛍 光
タ ン パ ク 質 を 恒 常 発 現 す る レ ポ ー タ ー ES 細 胞 株 を 樹 立 し ,大 脳 皮 質 オ ル ガ ノ イ ド と 基
底 核 原 基 オ ル ガ ノ イ ド を そ れ ぞ れ 異 な る 色 の 蛍 光 タ ン パ ク 質 で 標 識 し た 。皮 質 -基 底 核
原基アセンブロイドを作製したところ,基底核原基オルガノイドから大脳皮質オルガ
ノイドへの細胞の移動が観察された。このアセンブロイド内の細胞移動は基底核から
皮質へと一方向に生じていた。生体の脳において,基底核原基から大脳皮質への細胞
移 動 に は Lhx6 の 発 現 が 関 与 す る こ と が 報 告 さ れ て お り , 皮 質 -基 底 核 ア セ ン ブ ロ イ ド
に お い て も 基 底 核 オ ル ガ ノ イ ド 側 か ら 移 動 し た 細 胞 は Lhx6 を 発 現 し て い た 。 以 上 の
結 果 よ り , マ ー モ セ ッ ト ES 細 胞 由 来 オ ル ガ ノ イ ド か ら 作 製 し た 皮 質 -基 底 核 ア セ ン ブ
ロイドは,生体脳と同様のメカニズムで基底核原基オルガノイド由来の抑制性神経細
胞が大脳皮質領域へ遊走することが明らかになった。
最後に,本研究で作製したオルガノイドの神経細胞が脳活動に相当する機能を有す
るかを評価するために,組織の深部まで観察可能な 2 光子顕微鏡とカルシウムセンサ
ー で あ る jGCaMP8m を 組 み 合 わ せ た Ca 2+ イ メ ー ジ ン グ を 行 っ た 。ア デ ノ 随 伴 ウ イ ル ス
ベ ク タ ー を 用 い て jGCaMP8m を オ ル ガ ノ イ ド に 発 現 さ せ た 。 培 養 50 日 台 の オ ル ガ ノ
イ ド の Ca 2 + イ メ ー ジ ン グ を 行 っ た と こ ろ ,オ ル ガ ノ イ ド 内 部 の 神 経 細 胞 は 同 期 的 な 活
動パターンを示した。この神経活動パターンがオルガノイドの成熟に伴い変化するか
を 検 証 す る た め ,培 養 70 日 台 の オ ル ガ ノ イ ド を 用 い て 同 様 の 実 験 を 行 っ た と こ ろ ,同
期的な活動は消失し,非同期的な自発活動を示した。さらに,神経細胞の時間あたり
の活動量を定量したところ,オルガノイドの成熟に伴い活動量は増加した。以上の結
果より,オルガノイド内部の神経細胞は自発的な活動を示し,その活動パターンはオ
ルガノイドの成熟に伴い非同期的に変化していくことが分かった。
ま た , 単 一 遺 伝 子 変 異 が 神 経 回 路 へ と 影 響 を 及 ぼ す よ う な 疾 患 を in vitro で 解 析 す
る こ と を 可 能 に す る た め , 精 神 疾 患 関 連 遺 伝 子 を 欠 損 さ せ た ES 細 胞 株 を 樹 立 し , 病
態モデルの確立にも取り組んでいる。
以 上 , 本 研 究 で は マ ー モ セ ッ ト ES 細 胞 由 来 オ ル ガ ノ イ ド か ら 皮 質 -基 底 核 ア セ ン ブ

ロ イ ド を 作 製 し , 生 体 脳 の 神 経 回 路 形 成 を 模 倣 し た in vitro 脳 モ デ ル の 構 築 に 成 功 し
た。本研究成果は,マーモセットを用いた階層横断的な神経科学研究や系統学的な進
化の研究,オルガノイドや分化細胞の同種移植による再生医療研究,薬物スクリーニ
ングなどの創薬研究に大きく貢献することが期待される。

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