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大学・研究所にある論文を検索できる 「信頼性手法に基づく斜面の安定性評価に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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信頼性手法に基づく斜面の安定性評価に関する研究

佐竹, 亮一郎 サタケ, リョウイチロウ Satake, Ryoichiro 群馬大学

2020.03.24

概要

近年,土木工学分野における多くの設計基準・指針が信頼性理論に基づく性能照査型の設計法へと移行しつつあり,地盤工学分野においても信頼性設計法の導入が急がれる。一方で,地盤工学においては,他の工学分野と異なり材料物性の空間的なばらつき(不均質性)が他の工学分野で扱われる材料と比較して極めて大きいという課題がある。地盤工学分野における信頼性設計法の導入,普及には上記課題を前提とした地盤工学独自の信頼性手法の構築が必要であり,上記の各要因が,構造物の性能の不確実性へどのように寄与しているのかを,統計,力学の両面から定量的に把握することが必須である。

上記の背景のもと,本検討では特に,不確実性の中で材料の不均質性を中心課題として掲げ,盛土斜面の信頼性評価を問題として取り上げた。盛土は人工構造物であることが多く,その材料は一般には一様であると考えられている。加えて盛土は斜面を有する構造物であり,斜面の安定性は局所的な弱部に強く支配されるという性質を有する。材料の不均質性を考慮するということは地盤内の局所的な力学的弱部の存在を仮定することと同義であり,斜面構造物においては材料の不均質性がもたらす弱部の存在がその性能を左右する可能性は高いと考え,上記のような問題を対象とした。本検討では乱数解析手法のひとつであるモンテカルロ・シミュレーション(MCS)に基づき有限要素法(FEM)による数値解析を繰り返し行うことで,構造物の性能を示す指標(安全率,変位量など)の確率分布を求め,統計,力学の両面から不確実性要因の影響を検討した。

以下に本論文の内容をまとめる。
1 章では,現在の地盤工学分野について,他分野を含む周囲の状況,地盤工学における課題などの背景を述べ,本論文の目的,概要を示した。

2 章では,現在の主要な設計コードの紹介,本論文で対象とした斜面の設計照査法など,設計法について取りまとめた。また,先行研究について,地盤工学分野における信頼性設計手法への取り組み,今後の展開について述べ,本論文の着目課題を示した。

3 章では,本論文で用いた数値解析手法についてここでとりまとめた。4 章,5 章で示した検討では,この章で示した手法に基づき検討が行われている。

4 章では,常時の安定性について,著者の既往の研究 1)から,せん断強度低減法を適用した FEM を各試行とした MCS により安全率 Fsの確率分布を求め,材料の相関,変動係数,自己相関距離,斜面傾斜,推定誤差などの不確実性要因が解析値の不確実性に与える影響を検討した事例を示した。また,これまで設計上安全を担保するために用いられてきた割増係数(安全係数)について,その妥当性を検証すべく,破壊確率に基づき割増係数を設定することを考え,Fs の変動係数と割増係数の関係から整理した。不均質性を考慮する物性値はせん断強度を規定する粘着力 c,内部摩擦角 tanΦの二種とした。

その結果,材料の不均質性を反映させたケースでは,安全率 Fsの分布の平均値は均質を仮定した解析(均質ケース)の結果を常に下回っていることを示した。また,解析結果の変動係数の増加に伴い,均質ケースの解析値に対する超過確率が減少する傾向が見受けられた。加えて,材料の軟弱さを強調するような解析条件では,解析値の不確実性が非常に大きくなることを示した。従来の設計法のように,均質材料を仮定することは,設計照査上危険側の評価となり,発生しうる被害を精度よく評価できない可能性が高いことを示した。また,割増係数の妥当性について検討したところ,ケースによらず,割増係数は解析結果の変動係数の増加に伴い指数的に増加する傾向が得られた。このことから,割増係数は変動係数に依存する値であり,設計安全率を基準に斜面を設計することの妥当性は乏しいという事実を示した。

5 章では,地震動を受ける斜面の残留変位量について,2 次元動的弾塑性 FEM に基づく時刻歴応答解析を各試行とした MCS により,材料物性値の不均質性が解析値の不確実性に与える影響を検討した。4 章の結果より,解析値の不確実性に与える影響の程度は物性値の変動係数が特に大きかったことから,5 章では物性値の変動係数の変化が与える影響について検討を実施した。まず物性値の変動係数を固定した上で,地震波形の加速度振幅が変化した場合について検討を行い,次に地震波形を固定した上で物性値の変動係数を変化させ,不確実性への影響を検討した。最後に,震度法に基づく円弧すべり解析による安全率 Fsと残留沈下量δの相関関係を利用し,Fsからδを推定することを考え,両者が不確実性を伴う場合に関して検討し,推定式について意見を述べた。

検討の結果,地震波の加速度振幅 A の増加は残留沈下量δの平均値と標準偏差の増加をもたらすが,変動係数の変化は乏しく,解析値の不確実性自体は増加しないという結果を得た。また,物性値の変動係数Ⅴの増加に応じて残留沈下量δの変動係数も増加するという結果を得た。この傾向は全ての物性値で共通であった。また,本検討では対象地盤の土質は tanΦが大きく c が小さい砂質土系材料を想定しているため,確率変数とした物性値の中では tanΦが与える影響が最も大きいという結果を得た。対象土質によって支配的なパラメータは異なってくると考えられ,事前調査から影響程度の大きいパラメータを検討しておくことは設計の合理性,経済性という観点からも重要と考えられる。最後に Fs とδの相関性について,Fs のレベルに応じδの統計的性質がどのように変化するかを整理した結果,Fsの低下に伴いδの平均値,標準偏差はともに増加することが明らかとなった。この結果から,任意の Fsの値において発生しうる残留沈下量を推定する際,推定値を一意に定めることは困難であり,現状の推定式の妥当性は低いものと考えられる。そこで Fsの値に従う平均値成分とばらつきを示すランダム成分の和として表現することを提案した。

6 章では本論文の全体的な総括を行っている。

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参考文献

1) CEN: EN1997-1 Eurocode 7 Geotechnical Design-Part 1:General Rules, 2004, 168p

2) AASHTO: AASHTO LRFD Bridge Design Specifications: SI units, second edition, pp.section1.1- section1.7, 1998.

3) 日本港湾協会:港湾の施設の技術上の基準・同解説, 2007.

4) 星谷勝, 石井清:構造物の信頼性設計法, 鹿島出版会, 1986, 216p.

5) 国土交通省 HP:第 1 回 道路の耐災害性強化に向けた有識者会議 配布資料,http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/sdt/pdf01/04.pdf,2018

6) 日本道路協会:道路土工-盛土工指針(平成 22 年度版),2010

7) 日本道路協会:道路土工-切土工・斜面安定工,2010

8) NEXCO:設計要領 第一集土工編,2015.

9) Newmark, N. W.: Effects of earthquake on dams and embankments, Fifth Rankine Lecture, Geotechnique, Vol.15, pp.139-159, 1965.

10) 蔡飛, 鵜飼恵三, 黄文峰:斜面安定性の評価―極限平衡法と弾塑性 FEM の比較, 日本地すべり学会誌, Vol. 39, No. 4, pp.395-402, 2003.

11) Wakai, A., Ugai, K. (2004): A Simple Constitutive Model for The Seismic Analysis of Slopes and Its Applications, Soils and Foundations, Vol.44, No.4, pp.83-97

12) 佐竹亮一郎, 若井明彦:材料の不均質性が斜面の安定性に及ぼす影響に関する解析的検討, 地盤工学ジャーナル, Vol.14, No.2, pp.95-109, 2019.

13) 佐竹亮一郎, 山本優介,若井明彦:地震動を受ける盛土斜面の全体安全率および残留変位量のばらつきに関する一考察,(投稿中,地盤工学ジャーナル,2019)

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