宮城県における食品放射能汚染への対応と測定結果の推移
概要
東日本大震災に伴って発生した東京電力福島第一原子力発電所事故(以下,「原発事故」)によって広く拡散された放射性物質は,広範な土壌,水,農林水産物の汚染を引き起こした.本稿の目的は,福島県に隣接する宮城県において,食品への放射能汚染がどの程度生じたのか,またその実態がどのように表面化し,それに対してどのような対応が迫られたのか,汚染実態把握と対応の経緯を明らかにすることである.原発事故後の食品と放射能汚染をめぐっては,放射能汚染と農業の再生・復興を論じたもの,市場における「風評被害」を問題とするものなどがあるが,それらの多くは福島県を対象に議論されることが多い(注1).
しかし「放射能汚染問題は福島県に限らないことを改めて認識することが必要」(小山, 2013)との指摘がある通り,被害の広域性に鑑みれば,隣接県に及んだ影響と対応策の課題を抽出しておくことは,広域に及ぶ原子力災害に備えるうえで不可欠である.また原発事故後の住民不安への対応として,今日リスクコミュニケーションや「正しい知識の啓発」が基本的取り組みとされてきているが,そもそも原発事故後の政策対応過程において,住民の不安がどのように生起されていったのかについて,十分な検証がなされてきたとは言い難い.これらを検討する手がかりとするためにも、事故後対応の推移とその課題を抽出し,今後の原子力災害に備えてどのような予防的措置が必要とされるかについて考察を行いたい.