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大学・研究所にある論文を検索できる 「尾瀬国立公園における施設整備・管理の実態 : 木道、トイレ、ビジターセンターを中心として」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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尾瀬国立公園における施設整備・管理の実態 : 木道、トイレ、ビジターセンターを中心として

趙, 楊然 東京大学 DOI:10.15083/0002004928

2022.06.22

概要

1931年の国立公園法制定から1970年代初頭までの国立公園における「保護と利用の対立」を論じた村串(2014)は、国立公園法により形成された日本の国立公園は「貧しい国立公園財政」と「脆弱な国立公園管理機構」という特質を有していると指摘した。このような特質を背景に、戦前から高度成長期にかけての国立公園では、産業開発計画がおこるとともに過剰利用が発生した。それに伴い、反対運動が繰り返し発生し、「保護と利用の対立」が目立つようになる。近年、国立公園では植生復元事業・自然再生施設事業等の保護施設事業の割合が増加したが、このような事業は「利用」に近い性格を持つ場合もある(並木,2012)。

田中(2012)は関係者が多数存在する日本の地域制国立公園について、「責任主体が不明確」であるから、「弱い地域制」であると指摘し、協議会の設置が望ましいとした。こうした見解に先立って、尾瀬においては、「尾瀬ビジョン」が制定され、いわゆる協働型管理のモデルとして総合型協議会が設立され、一定の前進をみた。一方、村串が論じる公的部門の予算や人員の不足による「脆弱な地域制」が改善されたか否かについては実証研究が乏しい。

地域制国立公園の施設整備・管理について検討するうえで、2005年の三位一体改革による自然公園等整備費補助の廃止に着目したい。これは地方自治体の財政負担を増大させており、尾瀬にも影響を与えている。本研究では、この点を明らかにするため、サテライト勘定を作成した。これまでも、岩手県安代町、北海道美瑛町白金温泉地区、屋久島山岳地域を対象とする森林レクリエーションにおけるサテライト勘定の先行研究があったが、特定の国立公園についてサテライト勘定を作成した研究例はない。

近年、国立公園満喫プロジェクトによって、外国人旅行者の増加とそれに伴う地域活性化・地方財政への貢献が期待されている(水内,2018)。こうした背景から、尾瀬国立公園においても、観光案内や施設案内の多言語対応、標識の統一化などが進んでいるが、外国人利用者の情報はまだ把握されていない。そこで、外国人利用者数1位の富士箱根伊豆国立公園に着目する。同公園は2018年に国立公園満喫プロジェクトの「インバウンド対応の取組を計画的・集中的に実施」する8公園に「準じる公園」としても位置付けられた。こうした富士山のインバウンド状況は、尾瀬国立公園の管理においても参考にできると考えられる。

そこで本論文は「自然保護のシンボル」と呼ばれる尾瀬国立公園をとりあげ、各関係者の取り組み、三位一体改革による施設管理財政面の影響、利用者の意向に注目し、木道、トイレ、ビジターセンターを中心とする施設整備・管理の実態を解明することを目的とする。

研究方法は、まず①雑誌、行政資料、新聞などの文献調査を行い、②主に木道、公衆トイレとビジターセンターについて、環境省、福島県、群馬県、福島県檜枝岐村、東京電力株式会社(以下、東電)の子会社である東京パワーテクノロジー株式会社尾瀬林業事業所、尾瀬保護財団の担当者への聞き取り調査を実施した。また、③富士山の五合目で外国人利用者向けのアンケート調査を実施した。

第1章では本論文の背景と研究目的・方法を説明した。

第2章では、まず歴史資料や新聞記事などを用いて、尾瀬国立公園の基礎情報と歴史を整理した。尾瀬では戦前から戦後、電源開発計画や観光開発、車道建設計画が繰り返し行われた。それに伴って、反対運動も発生した。尾瀬の長い歴史の中で、保護と利用の対立をめぐる議論とその解決策の模索が止むことはなかった。次に行政資料と聞き取り調査から、本論文が主な対象とする木道、トイレとビジターセンターについて、それぞれの基本状況と役割を分析した。木道は計65kmで、トイレは19ヶ所、ビジターセンターは2ヶ所を数える。このうち木道は、湿原を保護しつつ歩行を容易とする。トイレは水や植生を保護しつつ快適な利用環境を提供している。ビジターセンターは利用者に対し自然保護の情報を普及している。

第3章では聞き取り調査をもとに、尾瀬国立公園における施設整備・管理に関わる各関係者の取り組みや、意見交換・意思決定について分析した。環境省、福島県、群馬県、檜枝岐村、東京電力(尾瀬林業事業所)は基本的に自身が設置した木道、トイレあるいはビジターセンターを管理している。尾瀬保護財団は自ら設置した施設はないが、群馬県等から委託されて施設を管理している。なお尾瀬保護財団は施設の維持管理事業だけではなく、利用者向けの自然環境保全情報の普及なども行っている。施設のうち、木道の巡視は各管理者が行っているが、トイレの細かい日常管理については、清掃協議会や近くの山小屋に委託していることがある。実際の作業について、木道の材料やトイレの汚泥処理はヘリコプターに依存する場合がほとんどである。老朽化によって施設自体を建て替える場合もある。尾瀬は現在協働型管理を採用しており、尾瀬国立公園協議会や尾瀬サミットなど様々な場で尾瀬国立公園の管理のあり方が議論されている。

第4章では、まずサテライト勘定の手法を用いて、尾瀬国立公園の施設整備・管理に関する生産勘定を作成し、資金調達について、各関係者間の連携を整理・分析した。木道について、環境省、福島県、群馬県、檜枝岐村は自主財源によって整備をしているが、このうち福島県、群馬県、檜枝岐村は環境省からの補助金や交付金も活用して整備している。トイレの維持管理費については、設置者の管轄になるので、主として設置者が費用負担者である。利用者が多い地域では、トイレチップがかなりの割合を占めている。火災で損壊した沼尻トイレの再建事業では、環境省と福島県が長蔵小屋に対し補助金を支出した。2ヶ所あるビジターセンターの設置者はそれぞれ環境省と群馬県であるので、各自の財政によって管理されている。これらの点を踏まえ、次に三位一体改革による自然公園等整備費補助の廃止に対する地方自治体の取り組みを、福島県を事例として把握した。環境省からの補助金は三位一体改革前から徐々に減少し、2004年度にすでに1000万円しかなかった。その後、2005年度に三位一体改革により自然公園等整備費補助の廃止に伴い0円となった。2004年度から福島県は財源確保の方策を模索して、2004年度から2006年度までは経済産業省の電源交付金、その後は、宝くじ収益金や地域活性化交付金などを活用した。現在は環境省から交付金等の補助があるが、地方自治体の負担は依然として重く、補修できる施設の範囲が少なくなっており、利便性低下が危惧される。

5章では、まず尾瀬国立公園の利用者の推移及び属性を整理した。尾瀬国立公園の利用者数は1996年をピークとし、その後は減少傾向にあるが、土曜日やミズバショウの開花時期、特定の入山口に利用者が依然として集中している。利用者は中高年層・リピーター・日帰りが多いという特徴を有する。これはバスや鉄道の本数が少なく、マイカーでの日帰り利用が可能であることが一因であると考えられる。施設に対する満足度については、休憩場所や待避所の有無が影響している。次に、今後、国立公園満喫プロジェクトの促進に伴って国際対応が進み、インバウンドの増加が予想されることに注目し、富士山を参照事例として、富士山の外国人利用者、特に近年増加してきた中国と台湾の利用者の属性や施設に対する満足度、利用者負担対策の実施状況を分析した。アンケート調査によると、富士山の中国登山者と台湾登山者の間に、年齢層や団体・個人の登山形態、リピーター数、施設に対する満足度などにおける相異が認められた。ここで公園管理の財源不足を解決するための1つの手段として、利用者負担があげられる。近年では「富士山保全協力金」制度の導入を契機に、入園料の徴収という利用者負担の手法が注目されている。トイレチップによる利用者負担は尾瀬でも導入されているが、入山料徴収については1990年代前後から議論されつつも、まだ実現していない。これに対し、富士山においては、保全協力金制度が設置されているが、外国人の事前認識と支払い率は低い状況にある。このような中国と台湾の利用者行動の違いや、インバウンドにおける利用者負担に関する知見は、今後の尾瀬管理に役立つと考えられる。

6章では、以上の結果から明らかになった点を整理し、考察を加えた。尾瀬の既存の協議会は、関係機関が話し合い、意見交換することを可能としているが、その一方で利用者を含めて議論する機会を設ける必要があると考えられる。また、実際の維持管理においては、国よりも地方の方が現場のことをより詳しく知っている場合があるが、それゆえに人員や財政が不足する地方に負担をかけている点も指摘しておきたい。また、サテライト勘定の作成によって、三位一体改革前後の公園財政構造が明らかになり、村串などの指摘する「脆弱な地域制」の実態を裏付けることができた。

なお施設整備・管理の費用については、土屋ら(1997)の指摘した民間部門のデータの入手困難性は現在の尾瀬国立公園においても同様であり、この研究分野に共通する課題であるといえる。また富士山保全協力金制度の事前認識・支払い率の低位性の要因を明確にすることは、インバウンドが増加すると想定される尾瀬国立公園の今後の費用負担の問題を検討するうえで参考になる。今後の課題としたい。

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