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大学・研究所にある論文を検索できる 「インドヒマラヤのウッタラーカンド州における森林パンチャーヤトの資源管理」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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インドヒマラヤのウッタラーカンド州における森林パンチャーヤトの資源管理

長濱, 和代 筑波大学

2021.12.01

概要

持続可能な社会、カーボンニュートラル社会を指向する現在においても、再生可能資源である森林は熱帯林を主に減少が続いている。熱帯林減少の問題は半世紀に及ぶ問題となっているが、その解決に向けて参加型森林管理の重要性が熱帯林を対象とする地域研究や林政学において注目されている。本論文は、森林面積が増加に転じているインドにおける森林パンチャーヤト(Van Panchayat)に注目する。インドの森林パンチャーヤトは参加型森林管理の先駆けと位置付けられ、第二次世界大戦前の植民地時代からインドに存続している。この経緯を踏まえ、本研究はインドの森林パンチャーヤトを研究対象とし、持続的森林管理と地域組織ならびに森林管理に対する構成員の関与との関係を地域研究と林政学の視点から明らかにすると共に、村落コミュニティにおける住民自治組織の森林利用と管理の実態解明を行うことを目的する。本博士論文は全4章から構成されており、以下にその内容の概要を記す。

第1章 研究の枠組み
 世界の森林の減少はその速度は減速傾向にあるが、途上国地域で依然として報告されており、国際社会で認識された課題である。国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)の目標13および目標15に掲げられるように、世界の気候変動における具体的な対策において、森林資源保全に関する政策が必要とされている。持続的な森林管理を実現するために、アジア・アフリカの発展途上国地域では、参加型森林管理(Community-based Forest Management)により政府が実施してきた森林管理が住民へ委譲されてきた。本研究では、参加型森林管理の既往研究とアジア諸国の状況をレビューした後、参加型森林管理に関して国際社会で共通の定義は存在しないという認知に対して、①既往研究を踏まえた定義の試み②既往研究における住民などの参加に関する段階(Arnstein1969; 原科2005)と類型(井上2001;2003)を踏まえた新たな試み③コモンズ論における持続的森林管理の要素、④女性の森林利用と管理、⑤「基礎集団」(在地組織)と「機能集団」(開発組織)の位置づけから地域組織との関係性の究明⑥森林パンチャーヤトの事例を通じて、山内(2015)による参加型森林管理の3つの類型の検証と、持続的な森林の利用と管理に関する要素(要因)を提示することを研究の視座として位置づける。
 本研究では、参加型森林管理の事例としてヒマラヤ山麓に位置するインド・ウッタラーカンド州において、1930年代に制度として位置づけられた森林パンチャーヤトを対象とする。森林パンチャーヤトは、地域住民によって組織された森林管理における自治的組織として、参加型森林管理における組織の先駆けとわれる(Ballabh et al. 2002; Balooni et al. 2007他)。さらに他の国・地域で管理される国有林地区分と比較してパンチャーヤト林には住民に大きな権利・権限が付与されてきた(Ballabh et al. 1998; 2002)。ウッタラーカンド州では、森林面積が微増しているが、森林パンチャーヤトによる管理体制は、1990年代以降、多くの村落において減退傾向が報告されていることから(Saxena 1995; Somanathan et al. 2005; Baland et al. 2010ら)、参加型森林管理における他地域での実践に帰納的示唆を提示できると考えた。
 本研究では州政府および村落における森林パンチャーヤト制度について、持続的な森林管理のための地域組織における(参加の)特徴を明らかにするために、(1)「森林パンチャーヤトに関する州制度および村落コミュニティにおける制度の解明と分析」、(2)「持続的な森林管理を推進するための外部組織との関係性の探究」、および(3)「村落コミュニティにおける住民自治組織の森林管理と実践の解明」をとして研究課題として設定した。
 研究手法として、第1に文献収集と統計資料の収集と翻訳、データおよび資料分析を、第2に24村での先行調査と、活動的な森林パンチャーヤト存在する4村での本調査において構造的面談調査と参与観察を、そして第3に森林資源調査として樹種の同定とビッターリッヒ法を用いた資源調査を実施した。

第2章 森林パンチャーヤトに関する州制度および村落コミュニティにおける制度の解明
 本章では、研究課題(1)と(2)について取り組み、森林パンチャーヤトに関する政策の展開とその制度の変遷、および活動的である複数の村落コミュニティでの森林管理制度と資源利用管理の特性を解明した。
 文献収集と資料分析から、ウッタラーカンド州では、19世紀後半から英領インドの下で林地の囲い込みが進行し、画定林が大規模に設置されていったが、1920年代には地域住民からの大規模な抵抗が起き、商業的価値の低い広葉樹林であった林地をClassI林として、その相当程度の森林を森林局の管轄から除外して規制が緩めらた。州政府による「開発組織」として森林パンチャーヤトが創出されることにより、1931年に「森林パンチャーヤト規則」が制定された。この制度によりパンチャーヤト林における利用権が住民に付与されてきたが、1980年代以降、制度改訂によって森林管理規則が強まり、環境保全政策への移行が森林パンチャーヤトによる管理衰退の要因であると考察した。
 構造的面談調査結果(4村について全131世帯中の113世帯)から、村落での制度については、どの村落でも立木の伐採は禁止されており、柴刈り、飼い葉の収集,放牧は年間を通じて可能であったが、その期間や場所などの利用管理、森林監視人の雇用、罰則の設定については村落に応じて異なっていた。パンチャーヤト林の利用規則は毎月の会合で取り決めていたK村では、利用の制限が存在しており、森林管理への意思決定の場への参加(参加の程度/レベル)が高く、意志決定に影響を及ぼす発言(参加の形態)が強い傾向があった。NGOや森林管理を支援する政府機関やNGOなどの外部組織との関係性が持続的森林管理を高めると考えられた。
 樹木調査からは、VP林はおもにオーク林とマツ林が存在し、オーク林は他樹種と混交して成長し、人にも家畜にも利用され、用途の幅が広く、地域住民にとって生活に必要な樹種ことがわかった。植林地には商業的価値の高い樹木が植栽される傾向があった。世帯当たりのパンチャーヤト林面積は、D村は約0.39ヘクタールで最小であったが、D村ではパンチャーヤト林が生活に必要なオーク林で被覆されており、村落規則が少なく、住民による森林管理への意思決定の場への参画が低いことから、オーク林で被覆されたこの面積量(約0.39ヘクタール)は住民利用に十分な値を提供していると考えられる。さらにオーク林の資源量が住民の利用の程度を超過すると、森林管理への参加を低める可能性がある。世帯での燃料消費費量は世帯平均(6.7人)で年間およそ4.11トンを消費していた。4村中、森林依存度が最も高いM村でのオーク林の世帯当たりの胸高断面積合計は9.1平方メートルで、最低限、必要であると考えられる資源量であると考察できる。

第3章 森林パンチャーヤトにおける森林利用と管理の実際
 本章では研究課題(3)に対応して、第2章で調査した村落の中から、1993年に森林パンチャーヤトが成立したD村において、森林利用と管理の実際と住民の意識について解明した。D村では、VPとして必要とされるマイクロプラン(村落情報や森林管理規則等が記録)があり、1993年にD村においてVP林の導入に関わったVP長でありR氏を森林局から紹介を受けたこと、R氏は他の村落のVP長からの信頼が厚く、2013年以降は県内157村をまとめる郡の統括リーダーであった。世帯への構造的面談調査(悉皆調査・全51世帯中の41世帯)と参与観察の結果から、D村では、パンチャーヤト林の大部分が、地域住民の生活維持のために必要とされるオーク林で被覆されており、地域でのパンチャーヤト林利用規則は、立木の伐採が禁止されているのみであった。VP成立後は88%の世帯がVP林の状況が改善したと答え、VPの存在を肯定的に評価しており、住民の森林利用における満足度は高かった。
 66%の住民が森林管理にかかわる活動に参加しており、「意志決定(会合)への参加」「森林(管理)活動への参加」、「森林管理活動プラン(マイクロプラン)作成への参加」に従って、住民の参加割合が減少した。管理委員の世帯は薪の利用が多く、カーストが高く、女性の管理委員の参加割合が低いことが分析された。女性への半構造的面談調査(28名・22世帯)から、森林の主たる利用者は女性であるが、森林管理に関わる住民は限定的であった。限られた女性管理委員が既得権を持つ委員から指名を受けてその地位を得ており、女性の意思決定の参画の機会は限られていた。

第4章 森林パンチャーヤトの資源管理にみる組織と住民参加
 本章ではすべての章を総括し、森林パンチャーヤトを事例とした参加型森林管理における規則のしくみと資源利用の特性についてまとめ、今後の課題を考察した。
 住民が森林資源管理に参加するしくみの中で、政府の権限や支配が強まれば、住民による自治的管理は減退する。地域の実態に応じて地域規則は異なり、細やかな管理規則と利用が定められた村落では、地域に暮らす人びとの長年の経験や試行錯誤によって試され発展させられてきた知識が、持続的な森林管理につながる。女性や低カースト世帯の意思決定の場への参加は高くないが、森林パンチャーヤト長や森林管理委員など代表的な立場であることが意思決定の参加を高める。森林管理における住民参加においては、「活動への参加」「意思決定の場への参加」「管理プラン作成への参加」として3段階がある。参加の形態は、管理と活動においてさらに5段階に分類できる。
 管理活動が減退している森林パンチャーや戸を地域で活動するNGO(非政府組織)・政府組織がボトムアップとにより、組織が活動的になる可能性が高まる。外部組織による「ボトムアップ的アプローチ」の蓄積と、地域に暮らす人びとの長年の森林利用による内発的な知識が交差するとき、「森林利用知」の機能が発揮され、活動的な住民自治を可能にさせる。
参加型森林管理の類型の再検討(山内2015の修正)とともに、森林パンチャーヤトは、インド社会林業以前の内発的な「開発組織」として位置づけれられるのである。
 以上のように、本研究は途上国の熱帯林地域における森林管理を研究対象として、参加型森林管理論に新たな事例分析に基づき新規の知見と分析視座を加え、森林政策学ならびに地域研究に新たな地平を拓く内容となっている。

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