Decreased physical activity with subjective pleasure is associated with avoidance behaviors
概要
背景
これまで身体活動量増加が精神的健康度を改善するという数多くの報告がおこなわれてきた。しかし、身体活動量増加と精神的健康度改善は単純には比例していない。両者の関連において活動に対する楽しみのような自律的動機づけが重要な役割を果たしてしていると考えられてきたが、加速度計等を用いた客観的な身体活動量と自律的動機づけに関連する主観的楽しさの関連について直接検討した研究はない。そこで本研究では、客観的身体活動量とその主観的楽しみの関連を検討した上で、個人の日常生活の行動特徴との関連についても明らかにした。
方法
大学生66名を研究対象とした(男性42名、女性24名、平均年齢21.7±1.6歳)。研究参加者に加速度計(UW-301BTLifeLog)を配布し、7日間、入浴時以外常時装着させた。全装着時間(165時間)のうち20%以上の時間で非装着(または非接触)であった8名はその後の解析から除外した(解析対象者58名)。また、同時に1時間ごとの活動内容及びその活動の楽しさを10段階評価で記録し、メールで毎日提出させた。実験8日目にうつ症状を評価するBeck depression inventory-second edition (BDI-II)、うつに関連する日常生活の行動特徴を評価す る Behavioral Activation for Depression Scale (BADS)を測定した。BADSは「活性化」、「回避/反芻」、「仕事/学校機能障害」、「社会機能障害」の4因子により構成される。加速度計は3軸加速度波形からデバイスに内蔵された予測装置を用い1分毎にMetabolic Equivalents(METs)として変換し、1時間ごとのMETs合計値を身体活動量(Physical Activity; PA)とした。PAと活動記録表上で評価された1時間ごとの主観的楽しさ(Pleasure; PL)の程度が、どのくらい関連しているかを明らかにするために、1時間ごとのPAとPLの時間的相関係数(以下PA-PL指標)を個人ごとに算出した。次に、PA-PL指標を説明変数とし、BADSの各因子得点を目的変数とした重回帰分析を行った。分析の際には、BDI-II得点および年齢、性別は共変量として投入した。なお、本研究は広島大学倫理委員会の承認を得たプロトコールに従い実施した。
結果
身体活動量や主観的楽しさとBADSとの関連について、身体活動量や1週間の楽しさ合計値は関連を示さなかったが、1時間の楽しさ平均値のみはBADS「活性化」得点と有意な正の相関(0.268,p<.05)を示した。
全被検者のPA-PL指標を個人ごとに見た場合、1時間あたりの身体活動量と楽しさに正の相関(PA-PL指標が正の値)を認めた者は69%(40/58名)で、逆に負の相関(PA-PL指標が負の値)を示す者が31%(18/58名)であった。
BADSの各因子の得点を目的変数として、年齢、性別、BDI-II得点を共変量とした重回帰分析を行った結果、PA-PL指標が低いほど「回避/反芻」得点が高くなった(β=-6.82,95%CI:[-13.27-0.38],p<.05)。「活性化」、「仕事/学校機能障害」、「社会機能障害」においてはPA-PL指標は有意な影響を持たなかった。
考察
本研究の結果、客観的に測定可能な身体活動量と主観的楽しみが2/3の参加者で正の相関を示した一方で、1/3の参加者は負の相関を示したことから、身体活動量と主観的楽しさの関連には個人差が存在することが考えられた。さらに、負の相関を示した参加者、すなわち身体活動量の増加に対して主観的楽しさが減少する者ほど、回避、反芻の多い生活行動パターンを示すことが明らかになった。回避、反芻の多い生活行動パターンが優勢である場合、身体活動に伴う報酬刺激に気づきにくくなり、楽しさを感じることが難しくなっている可能性がある。また、1週間の身体活動量は回避、反芻の多い生活行動と関連しなかったことから、身体活動の量ではなく、主観的な楽しさを伴う身体活動といった活動の質が、個人の生活行動パターンに影響する可能性も想定された。