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大学・研究所にある論文を検索できる 「ハンドボールにおけるトレーニング負荷と傷害発生との関係 ―Acute:Chronic Workload Ratio (ACWR) を用いて―」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ハンドボールにおけるトレーニング負荷と傷害発生との関係 ―Acute:Chronic Workload Ratio (ACWR) を用いて―

竹上, 綾香 筑波大学

2023.01.19

概要

【背景】
ハンドボールは頻繁な攻守の入れ替わりの中で, スプリントや方向転換, ジャンプ, 身体接触などの高強度運動が繰り返し行われ, 生体力学的, 生理学的な負荷が高いスポーツである. このような身体要求に適応し, 傷害発生のリスクを最小限にしながら, 目標とする大会時期にパフォーマンスをピークにすることを目的にトレーニングが行われている. この目的を達成するためには, 日々のトレーニングにおける負荷を定量評価し, 適切に負荷を処方することが重要である.
トレーニング負荷は global positioning system (以下, GPS) や心拍計などの測定機器を用いて客観的な測定が可能だが, 測定機器が高価であることや測定方法が簡便ではないことが指摘されており, 競技によっては使用が困難な場合もある. そのため, より簡便な負荷の測定方法の一つとして主観的運動強度 (rate of perceived exertion; 以下, RPE) を用いた session- RPE (以下, sRPE) が開発された. sRPE による負荷定量の妥当性の検討として, 客観的負荷指標との関係が様々なチームスポーツで調査されている. しかしながら, ハンドボールに おいては sRPE の妥当性の検討は行われていない. 加えて, トレーニング負荷と傷害発生の関係を検討した文献は皆無に等しい.
サッカーやラグビーなどの他のスポーツでは, sRPE を用いた負荷と傷害との関係についてさらなる調査が行われている. その中でも, acute:chronic workload ratio (以下, ACWR) と呼ばれる負荷指標が開発され, 多くの研究で用いられている. ACWR は sRPE やGPS によって取得された負荷データを用いて算出され, 1 週間などの短期間の負荷を acute Load (以下, AL), 4 週間などの長期間の負荷を chronic Load (以下, CL) とし, AL を CL で除することによって算出される. 長期的なトレーニングにおける負荷の増減を示す指標として, 多くの研究でACWR と傷害発生との関連性が認められている.
一方で, 近年 ACWR について懐疑的な意見を含む論文が散見される. その背景には, 標準化されたACWR の解析方法がないため, 測定方法, 分析方法について未だ確立されていないことが挙げられる. 特に, ACWR を算出する際に, CL を 4 週間に設定することが多く用いられるが, この期間設定に関する科学的な根拠は十分ではない. さらに, CL のような累 積負荷の算出方法は, 各期間に含まれる全ての負荷データに均等な重みづけ (単純平均) を行って移動平均を算出する方法 (rolling average; 以下, RA) と, より新しい負荷データに大きな重みづけ (加重平均) を行って移動平均を算出する方法 (exponentially-weighted moving averages; 以下, EWMA) が存在する. EWMAACWR はRAACWR と比較して傷害リスクを 検出する感度が高いことを報告しているが, 対象が限定されているためにEWMA の有効性についてはさらなるエビデンスの構築が望まれる. CL は fitness を反映する指標とされていることから, fitness 指標と関係がある CL の期間設定および算出方法の検証を行った上で ACWR と傷害発生との関係を調査する必要がある.
そこで本研究では, ハンドボールの負荷を定量する際の sRPE の妥当性, 及び ACWR を算出する際のCL の適切な期間設定と算出方法を検討した上で, ACWR を用いた負荷と傷害発生の関係を明らかにすることを目的とした.

【研究課題 1】ハンドボールにおけるトレーニング負荷の主観的指標と客観的指標との関係
研究課題 1 では, トレーニング負荷の主観的指標と客観的指標との関係を明らかにすることを目的とした. 12 名の大学女子ハンドボール選手を対象とし, 9 週間のトレーニング負荷を調査した. 主観的負荷指標には sRPE を用いた. 対象者は毎日のトレーニング終了後にウェブ質問紙を用いて運動時間及び 10 段階の主観的運動強度 (RPE) を入力し, 運動時間 (分) とRPE により得られた値を乗算することで sRPE を算出した. また, 客観的負荷指標には, GPS 機器から取得された総移動距離, Player Load (3 軸加速度計から算出される生体力学的負荷指標) と心拍計から取得された心拍負荷を用いた. データ取得後, sRPE と客観的負荷指標との関係について相関分析を行った. その結果, sRPE は全ての客観的負荷指標との間でとても高い相関関係 (0.7<r<0.9, p<0.05) が認められ, ハンドボール活動時の負荷指標に sRPE を用いることの妥当性が示された.

【研究課題 2】ハンドボールにおけるトレーニング負荷と fitness との関係
研究課題 2 では, sRPE によるトレーニング負荷と fitness との関係を調査することによって, CL の適切な期間設定および算出方法を検討することを目的とした. 24 名の大学女子ハンドボール選手を対象とし, 26 週間における毎日の sRPE と週一回の Fitness テスト (5-step jump, counter movement jump, Edgren side-step) を測定した. sRPE からCL を期間別 (1, 2, 3, 4週間) および算出方法別 (RA, EWMA) に算出し,Fitness テストとの関係におけるモデルの適合性が高いCL の算出方法を検討した. その結果, 全てのCL と 5-step jump で有意な正の関係が認められ (p<0.05), RA とEWMA のいずれの算出方法においても 4 週間のCL は 5- step jump との関係においてモデルの適合性が高かった. さらに, EWMA4W は RA4W と比べ, モデルの適合性が高かった.

【研究課題 3】ハンドボールにおけるトレーニング負荷と傷害発生との関係
研究課題 3 では, ACWR を用いたトレーニング負荷と傷害発生との関係を明らかにすることを目的とした. 大学ハンドボール選手 58 名 (女子 30 , 男子 28 ) を対象に, 2 シーズンにおける毎日の sRPE と非接触型傷害を調査した. 取得された sRPE データから AL を 1 週間, CL を 2 週間, 3 週間, 4 週間の 3 つの期間で設定を行い, RA と EWMA の 2 種類の算出方法を用いて AL, CL を算出した. そして, AL を CL で除することで期間別 (1:2, 1:3, 1:4) 及び算出方法別 (RA, EWMA) に ACWR を算出した. 各ACWR と非接触型傷害発生との関係を調査し, 有意な関係が認められた場合は, ACWR を 6 つのカテゴリー(very low, low, low to moderate, moderate to high, high, very high) に分類して各カテゴリーの傷害リスクを比較した. その結果, 全てのACWR は非接触型傷害と有意な関係が認められ (p<0.05), EWMAACWR はRAACWR と比較してより高い関係を示した. さらに, EWMAACWR は 1:2, 1:3, 1:4 の順で非接触型傷害発生と高い関係を示した. また, ACWR のカテゴリー別の傷害リスクを比較すると, EWMAACWR は 1:2, 1:3, 1:4 のいずれの比率においても high は very high 以外の全てのカテゴリーに比べ傷害リスクが高く, 中程度の ACWR (low to moderate および moderate to high) と比較するとそれぞれ 1.72-4.29, 1.78-4.39, 1.57-3.89 倍の傷害リスクを示した. EWMAACWR1:2, 1:3, 1:4 の high における閾値はそれぞれ 1.15, 1.22, 1.26 であった.

【まとめ】
研究課題 1 より, sRPE を用いた負荷の定量評価はGPS や心拍計を用いた客観的な負荷評価指標との関連が認められた. このことから, ハンドボールトレーニングの負荷定量方法として, sRPE を用いることで日々のトレーニング負荷をより簡便にモニタリングすることが可能であると考えられる.
研究課題 2 より, 4 週間のEWMA による CL (EWMA4W) は他の算出方法に比べ, fitness を反映する指標である可能性が示された. また, 研究課題 3 より, EWMAACWR は RAACWR よりも非接触型傷害発生との関係が高く, さらに, EWMAACWR の中でも 1:2 が最も非接触型傷害発生との関係が高かった. 以上を踏まえると, fitness を予測する上では EWMA4W, 傷害リスクを予測する上では, EWMAACWR1:2 をモニタリングすることが有効であることが考えられる. 一方で, ACWR は fitness-fatigue 理論を応用した指標であることから, 本質的にはCL は fitness を反映する必要がある. したがって, EWMA4W のCL を用 いて算出されるEWMAACWR1:4 は ACWR の理論的な背景を踏まえた指標であり, パフォーマンスと傷害リスクの予測の両面を考慮した指標として有効であると言える. これらの指標を目的に応じて使い分けることで, より効果的なトレーニング負荷のモニタリングの実現が可能であると考えられる.
以上の成果は, ハンドボールにおけるsRPE を用いた簡便かつ適切なトレーニング負荷のモニタリング方法を提案し, 傷害発生のリスクを最小限に抑えながらパフォーマンスを向上させるためのトレーニング計画を立案する上で有益な知見となる.

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