リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「寿命制御機構の解明に向けた分裂酵母長寿命変異株の網羅的探索と解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

寿命制御機構の解明に向けた分裂酵母長寿命変異株の網羅的探索と解析

松井, 滉太朗 名古屋大学

2023.05.22

概要

報告番号







論文題目
















寿命制御機構の解明に向けた分裂酵母長寿命変異株の
網羅的探索と解析
松井滉太朗

論 文 内 容 の 要 旨
【研究背景】
「ヒトの寿命はどのようにして制御されるのか」を理解することは、現代生物学が
チャレンジすべき課題の一つである。そのためには、寿命制御の基本的機構を理解す
る必要があり、これまで酵母、線虫、ショウジョウバエ、マウスのような真核モデル
生物を用いた寿命研究が展開されてきた。寿命は遺伝学的要因のみならず環境要因等
の多様な影響を受け、複雑な制御下にあることが予想されるが、その全体像は明らか
となっていない。今後、ヒトを始めとした高等生物の寿命を理解するには、その前提
として細胞レベルでの寿命の理解が必要であると考え、本研究では、遺伝学操作が容
易であり、細胞レベルでの寿命研究のモデルとして優れた分裂酵母を対象に、寿命研
究を進めることを計画した。具体的には、非分裂細胞の生存率と定義される「経時寿
命」に焦点を当てて、経時寿命が延長する変異株の取得と解析を実施した。
寿命に関連する因子の発見は、寿命制御メカニズムの解明に手掛かりを与える。そ
の着想の下、これまで当研究室をはじめ、いくつかの研究室で寿命関連因子の同定を
目指した研究が進められた。しかし、それらのスクリーニングは単発的であり、また
非必須遺伝子の欠失変異株のセットを用いているため、必須遺伝子の変異を解析でき
ないということから、網羅性の観点で十分と言えるものではなかった。複雑化された
寿命現象をより理解するためには、必須遺伝子を含めたさらに多くの寿命関連因子を
網羅的に同定し、当該因子の機能を解析することが必要であると考えた。そこで本研
究では、経時寿命が延長する変異株を大規模にスクリーニングし、長寿命の原因遺伝
子の同定と解析を通して、寿命の理解を深化させることにした。

【本論文の内容】
本論文では以下の二つの研究内容と成果を報告する。
① 経時寿命が延長する分裂酵母の長寿命変異株の大規模スクリーニング
経時寿命が延長する長寿命変異株をスクリーニングするための実験系を構築し、そ
れに従いスクリーニングを実施した。取得した変異株について、長寿命の原因遺伝子
を特定するに至るまでの成果をまとめた。以下に具体的な成果を示す。
分 裂 酵 母 の 野 生 株 か ら 得 た 独 立 の 100 コ ロ ニ ー を そ れ ぞ れ 回 分 培 養 し 、野 生 株 が 殆
ど死滅するまで培養を続けた。その培養液を用いて継代培養を繰り返すことで、自然
突然変異により長寿命となった分裂酵母変異株を濃縮した。このようにして得た独立
の 培 養 液 か ら 長 寿 命 変 異 株 ( F0) を 取 得 し た 。 取 得 し た 各 長 寿 命 変 異 株 に つ い て 、 戻
し 交 配 を 行 い 、 長 寿 命 の 表 現 型 を 示 す F 1 を 複 数 株 得 た 。 そ の 後 、 F 0 株 と F 1 株 ( 2-3
株 )に つ い て 全 ゲ ノ ム シ ー ク エ ン ス 解 析 す る こ と で 、共 通 し て 生 じ た ゲ ノ ム 変 異 を 特 定
し た 。 こ れ ら の 解 析 か ら 、 約 65 株 の 変 異 株 に つ い て 解 析 を 完 了 し た 。 そ の 結 果 と 四
分子解析による遺伝学的解析結果を総合することで、複数の寿命関連遺伝子変異を同
定 し た 。こ れ ま で 、本 研 究 で 同 定 し た 変 異 は 、ksg1 + , bgs1 + , rho1 + , rgf1 + , gaf1 + , scw1 + ,

tpp1 + , cmr2 + , rer2 + , aly2 + , plb1 + , bst1 + の 遺 伝 子 に 生 じ て い た 。 ま た 、 scw1 + , tpp1 +,
bst1 + 遺 伝 子 に つ い て は 、同 一 の 遺 伝 子 内 の 異 な る 箇 所 に 変 異 が 生 じ た 変 異 株 が 独 立 に
取得された。よって、スクリーニングはある程度飽和していると考えられた。以上の
結 果 よ り 、様 々 な 因 子 を 新 規 の 寿 命 関 連 因 子 と し て 同 定 す る こ と に 成 功 し た 。さ ら に 、
過去の知見を踏まえて、これら寿命関連因子群の関係についてまとめ上げた。
上記成果を基に、同定した変異の中から、高等生物にまで保存性があること、かつ
分 裂 酵 母 の 生 育 に 必 須 で あ る こ と を 指 標 と し て 、Ksg1( リ ン 酸 化 酵 素 )を 研 究 対 象 と
し、さらなる解析を進めた。
② Ksg1 に よ る 寿 命 制 御 機 構 の 解 析
「 長 寿 命 変 異 株 の 大 規 模 ス ク リ ー ニ ン グ 」 の 結 果 か ら 、 ksg1 + 遺 伝 子 内 に ナ ン セ ン
ス 変 異 が 生 じ る こ と で 経 時 寿 命 の 延 長 を 引 き 起 こ す こ と が 分 か っ た 。こ れ ま で に Ksg1
が細胞寿命制御に関わるという知見はなく、本研究で初めて明らかにすることができ
た 。そ こ で 、ksg1 変 異 に よ り 寿 命 延 長 す る 機 構 を 解 明 す る た め 、多 角 的 な 解 析 を 行 っ
た。
分 裂 酵 母 Ksg1 は 哺 乳 類 PDK1( Phosphoinositide-dependent protein kinase )の オ ル
ソ ロ グ で あ る 。 取 得 し た ksg1 長 寿 変 異 は 膜 局 在 に 必 要 と さ れ る PH ( Pleckstrin
homology) domain 内 に あ り 、 変 異 に よ り PH domain の 合 成 が 損 な わ れ る こ と が 考
え ら れ た 。 実 際 に 、 変 異 型 Ksg1 は 細 胞 膜 局 在 が 損 な わ れ て い た 。 同 時 に タ ン パ ク 質
の 安 定 性 も 低 下 し た 。 従 っ て 、 Ksg1 タ ン パ ク 量 や 活 性 の 低 下 、 あ る い は 細 胞 膜 局 在
の 喪 失 が 経 時 寿 命 の 延 長 の 原 因 で あ る こ と が 想 定 さ れ た 。そ こ で 、膜 局 在 が 損 な わ れ 、
安 定 性 も 低 下 し た 変 異 型 Ksg1 を 高 発 現 さ せ た と こ ろ 、ksg1 変 異 が 示 す 長 寿 命 の 表 現
型 を 相 補 し た 。さ ら に 、温 度 感 受 性 ksg1 変 異 株 も そ の 変 異 型 Ksg1 を 高 発 現 さ せ る こ

と で 、 そ の 温 度 感 受 性 の 表 現 型 を 相 補 で き た 。 よ っ て 、 Ksg1 の タ ン パ ク 量 の 減 少 が 、
寿命延長の主たる原因であると示唆することができた。
Ksg1 は 複 数 の 基 質 を リ ン 酸 化 す る こ と が 知 ら れ て い る が 、 ksg1 変 異 に よ る 長 寿 命
化 に 関 係 の あ る 基 質 に つ い て は 明 ら か に さ れ て い な い 。そ こ で 、ksg1 変 異 と 各 種 リ ン
酸 化 基 質 遺 伝 子 と の 遺 伝 学 的 解 析 を 行 っ た 。そ の 結 果 、pck2 + 遺 伝 子 の 欠 損 が ksg1 変
異 に よ る 寿 命 延 長 を 抑 制 し た の に 対 し 、そ れ 以 外 の pck1 + , gad8 + , psk1 + , pka1 + の 欠 損
は ksg1 変 異 に よ る 寿 命 延 長 を 抑 制 し な か っ た 。 こ の 結 果 か ら 、 Pck2 が ksg1 変 異 に
よ る 寿 命 延 長 に 関 与 す る こ と が 強 く 示 唆 さ れ た 。さ ら に 、ksg1 変 異 に よ る 寿 命 延 長 と 、
カ ロ リ ー 制 限 や TOR( Target of rapamycin) 経 路 に も 着 目 し て 解 析 を 進 め 、 寿 命 制
御 に お け る Ksg1 の 役 割 に つ い て 考 察 し た 。
以上、本研究では分裂酵母を用いて経時寿命が延長する変異株の大規模スクリーニ
ングを実施し、新規因子を含む多くの寿命関連因子の同定に成功した。加えて、その
一部については機能の解析も進めた。これらの成果は、細胞寿命の制御機構の全体像
を解明するための基盤を提供するものであり、当該分野の進展に大きく貢献するもの
と考えられる。

この論文で使われている画像

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る