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大学・研究所にある論文を検索できる 「メダカをモデルとした脊椎動物の温度による季節適応機構の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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メダカをモデルとした脊椎動物の温度による季節適応機構の解明

丸山, 迪代 名古屋大学

2022.05.20

概要

四季が明瞭な温帯地域に生息する生物は、季節に合わせて生理機能や行動を変化させることで、厳しい自然環境に適応している。こうした季節適応の一つとして、毎年決まった時期に生殖腺の発達や繁殖活動がみられる「季節繁殖」が知られている。季節繁殖は、種ごとの妊娠・孵卵期間に合わせた時期に繁殖の準備を開始することで、気候が穏やかで食料が豊富な春に出産を迎え次世代の生存確率を上昇させるための、種の存続にとって必要不可欠な適応機構である。

適切な時期に繁殖の準備を開始するために、多くの生物は1年周期で変動する日長や温度の情報をもとに季節を感知している。日長を季節変化の手がかりとして生理機能を変化させる「光周性」のしくみは古くから研究されており、当研究室のウズラ( Cotu rn ix j a ponica )を用いた先行研究によりその一連の分子メカニズムが明らかにされてきた。一方で、温度の情報を手がかりとして動物が季節に適応するしくみについては、ほとんど明らかになっていない。

本研究では、脊椎動物の温度による季節適応のしくみを明らかにすることを目的として、メダカ(O r yzia s l a t ipes )をモデルとして用いた。メダカは自然界では春から夏の時期になると生殖腺を発達させ、ほとんど毎日のように繁殖活動を行う。反対に秋から冬の時期は生殖腺を退縮させ、繁殖活動を停止する。これらの季節応答は実験室でも日長と温度を制御することにより再現できるため、メダカは季節適応の研究を行う上で優れたモデルになると考えられる。これに加え、日本の様々な地域の集団をもとにつくられた系統がナショナルバイオリソースプロジェクト( N BR P)により保存されており、順遺伝学的な解析も可能になっている。

当研究室における先行研究の結果から、異なる地域に由来するメダカの2 系統「東通」( H i)と「花巻」( Ha)は、冬を模した短日低温条件から春を模した長日温暖条件に移して飼育した際、生殖腺が発達し始める日長条件や温度条件が異なることが明らかになった。季節応答を示す生物において、日長や温度を変化させたときに生理機能が大きく変化する「臨界日長」や「臨界温度」の存在が知られており、季節適応機構の中で中心的な役割を果たす。先行研究で用いた2 系統のうち、H iは14時間明期18 °C ( 14L/ 18 °C)では生殖腺を発達させず、温度が2 °Cだけ高い14L/ 20 °Cの条件になると生殖腺の著しい発達がみられた。このことから、H iでは18 °Cと20 °Cの間に臨界温度が存在していると考えられる。一方のHaは、 H iで生殖腺が発達しなかった14 L/ 18 °Cで既に生殖腺の発達がみられたことから、 H iよりも低い臨界温度を持つと考えられる。これら先行研究の結果から、14 L/ 18 °Cでの生殖腺の発達状態において明瞭な差がみられるH iとHaを用いて順遺伝学的解析を行うことにより、臨界温度の決定に重要な遺伝子を同定することができると考えた。

本研究ではまず、 H iとHaの2 系統の交配により作出した交雑第 2 世代( F 2 )の集団を14L/ 18 °Cの条件で飼育し、先行研究で用いた生殖腺重量指数( G SI)の値を指標として生殖腺の発達状態を調べた。この結果、 F 2ではH iと同様にG S Iの値が小さい個体からHaと同様に大きい個体まで様々な表現型を示す個体が出現した。次に、交配に用いた親系統と実験に用いたF 2からゲノムD NAを抽出し、 Dou ble- Dige s t e d Re s t r ic t ion s i t e-As soci at e d D NA s e q u e nce ( dd RAD- s eq)法などにより計 321個の一塩基多型( S N P s)もしくは挿入/欠失( I n d e l)マーカーを検出した。これらの表現型と遺伝子型の情報を組み合わせることにより、量的形質遺伝子座( QTL) 解析を行った。その結果、第 12 番染色体( C hr 12 )において、0 . 1 %有意水準を満たすQTLのピークが検出された。このQTLの95 %信頼区間内には104 遺伝子が存在し、このうち89 遺伝子がタンパク質コード遺伝子であった。当研究室の過去の研究により行われたH iとHaの全ゲノムシーケンスの結果を参照し、これらの遺伝子の中でコードするタンパク質にアミノ酸置換が起きているものを調べた結果、75 遺伝子において系統間でのアミノ酸置換が確認された。さらに、アミノ酸置換がタンパク質機能に及ぼす影響をP ROVEANプログラムにより予測したところ、17 遺伝子において有害とされるアミノ酸置換が検出された。アミノ酸置換はタンパク質の立体構造や物性を変化させることで酵素活性や液-液相分離の挙動などに影響し、生理機能を変化させる可能性がある。今後、これらの遺伝子におけるアミノ酸置換がメダカにおいて実際に臨界温度の決定に寄与するかどうかを明らかにする必要がある。

次に本研究では、臨界温度の決定において遺伝子のcis制御領域の変異を介した発現量の差が関与する可能性を考慮し、系統間や飼育条件間における発現変動遺伝子を明らかにすることを目的として、トランスクリプトーム解析を実施した。10L/ 8 °Cで飼育したH i、Haと、10 L/ 8 °Cから14L/ 18 °Cに移して4 週間飼育したH i、Haの視床下部・下垂体を採集し、R NA- s eq 解析を行った。G S Iに差がみられた14 L/ 18 °CのH iとHaの間と10L/ 8 °Cと14 L/ 18 °CのHaの間で発現が変動している遺伝子(q v a l u e < 0 . 05 )を調べ、両者の間でオーバーラップしている遺伝子を調べたところ、 3111 遺伝子が検出された。さらに、これらの中でQTL 解析により明らかになったC hr 12 QTLの95 %信頼区間内に存在するものを調べた結果、22 遺伝子が検出された。本研究では、この中から、バクテリアの温度適応への関与が報告されているAdenylat kinase 1 ( Ak 1 )を臨界温度決定の有力な候補遺伝子と考えた。

Ak 1がコードするタンパク質にはH iとHaでアミノ酸置換が起きていたため、まず、このアミノ酸置換がAk 1の熱安定性や温度依存的な酵素活性に及ぼす影響について、リコンビナントタンパク質を用いたi n vi troの解析により評価した。その結果、系統間のアミノ酸置換による影響は小さいことが推察された。次に、Ak 1が臨界温度決定の責任遺伝子であるかを調べるために、Act bプロモーター制御下でAk 1とGFPを過剰発現するAk 1 過剰発現 (Ak 1 - O E)メダカを作出した。A k 1 - O Eと同腹子の野生型( WT)とを、10L/ 8 °Cで繁殖活動を停止させた後に14 L/ 14 , 16 , 18 , 20 , 26 °Cに移して飼育し、各条件におけるG SIを調べた。この結果、Ak 1 - O E、WTともに16 °Cと18 °Cの間に生殖腺発達の臨界温度があることが分かった。以上の結果から、Ak 1は臨界温度の決定には関与しないことが明らかになった。

Ak 1はアデニンヌクレオチド間の可逆的なリン酸化反応を通してエネルギー代謝の恒常性を保つ酵素であり、バクテリアからヒトまで高度に保存されている。これまで、細胞・組織レベルでの役割は報告されていたが、個体レベルにおける機能は明らかになっていない。Ak 1 - O Eの臨界温度以外の表現型について調べるため、仔魚を用いた行動解析を行った。孵化直後の仔魚を14L/ 25 °Cで3日間トラッキングした結果、 Ak 1 - O EはWTと比較して行動量が有意に上昇することが明らかになった。さらに、 14 L/ 15 °Cで実験を行うとAk 1 - O Eの行動量の上昇はみられなくなることが分かった。行動量は接触走性、走暗性、重力走性など特定の行動特性により影響を受けることが知られているが、Ak 1 - O EとWTの間でこれらに差は見られなかった。また、超高速液体クロマトグラフィー ( U HP LC)を用いて仔魚体内のAT P 、A D P 量を調べた結果、 Ak 1 - O EとWTの間で体内のAD P/AT P比に差があることが示唆された。A D P/AT P比の変化は下流でAM P- act iv at e d p rot e i n k i n a s e (AM P K)と呼ばれる酵素を活性化させることが知られており、AM P Kはショウジョウバエにおいて行動量の変化に関与する。以上より、Ak 1はエネルギー代謝の制御を介して行動量を変化させている可能性が示唆された。

本研究により、メダカにおいて臨界温度の決定に重要な候補領域と、その領域内に含まれる候補遺伝子が明らかになった。また、有力な候補遺伝子の一つと考えられたAk 1は臨界温度に関与していないことが示された。本研究で得られた結果は臨界温度の決定機構解明への貢献が期待される。また、本研究ではこれまで明らかになっていなかったAk 1の個体レベルにおける新たな機能を明らかにした。本研究により動物の環境適応機構への理解が深まることが期待される。

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