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大学・研究所にある論文を検索できる 「腎細胞癌患者における2週投与1週休薬スケジュール下のスニチニブ血中濃度と臨床アウトカムの関連」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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腎細胞癌患者における2週投与1週休薬スケジュール下のスニチニブ血中濃度と臨床アウトカムの関連

伊藤, 雄大 神戸大学

2022.03.25

概要

【背景・目的】
進行性腎細胞癌患者の予後は,分子標的薬の開発により著しく改善した.スニチニブは,進行性腎細胞癌の一次治療として使用される経口マルチキナーゼ阻害薬である.一方で,スニチニブは疲労,高血圧,血小板減少,下痢などの重篤な有害事象を引き起こすことが多い.スニチニブの従来の標準投与スケジュールは,4 週投与 2 週休薬(4/2 スケジュール)であった.しかし,最近のメタアナリシスでは,2 週投与 1 週休薬(2/1 スケジュール)の方が,4/2 スケジュールよりも無増悪生存期間を延長させ,重篤な有害事象の発現リスクを低下させることが示された.

スニチニブは,主にシトクロム P450 3A4 によって活性代謝物である N-脱エチル体に代謝され,さらに同酵素によって不活性な化合物に代謝される.総スニチニブ血中トラフ濃度(スニチニブおよび N-脱エチル体のトラフ濃度の総和)は 50~100 ng/mL に維持することが望ましいとされているが,この閾値は従来の 4/2 スケジュールで治療を受けた患者の血中濃度データを基に構築されたものであり,2/1 スケジュールにおける至適な総スニチニブトラフ濃度を示した報告はない.

そこで本研究では,2/1 スケジュールにおける至適な総スニチニブトラフ濃度を明らかにすることを主たる目的とした.加えて,薬物動態モデル解析を適用し,実用的なスニチニブの治療薬物モニタリング(TDM)の手法について検討した.

【方法】
2018 年 8 月~2020 年 1 月に,神戸大学医学部附属病院において 2/1 スケジュールのスニチニブ治療を受けた腎細胞癌患者 19 名を対象とした.その内,薬物血中濃度の測定日までスニチニブの投与量が変更されなかった患者 17 名を,総スニチニブ濃度と臨床アウトカムとの関連を解析する対象とした.有害事象はスニチニブ開始後 1~21 日目の期間において Common Terminology Criteria for Adverse Events version 5.0 に基づき評価した.治療効果については,スニチニブ治療後の最初のコンピュータ断層撮影(CT)結果により,Response Evaluation Criteria in Solid Tumors version 1.1 に基づき評価した.

本研究では,全ての患者は朝食後(午前 8 時頃)にスニチニブを服用した.薬物濃度はスニチニブ投与開始後 9~15 日目の期間の 1 点において,午前 5 時 30 分~6 時に採血を行い,液体クロマトグラフ-タンデム質量分析法により測定した.薬物動態モデル解析は,19 名の患者全員を対象として行った.ベイジアン法を用いた薬物動態解析ならびに薬物濃度のシミュレーションには,MwPharm++を用い,母集団薬物動態モデルは既報を参照した.スニチニブ血中濃度のシミュレーションは,投与量を変更しない場合およびスニチニブ血中濃度に基づき投与量を調節した場合で行った.なお,本研究は神戸大学大学院医学研究科等医学倫理審査委員会の承認 (180324) を得て実施した.

【結果・考察】
有害事象の観察期間において Grade 3 以上の有害事象を認めた群(n = 7)では,認めなかった群(n = 10)に比べて総スニチニブ血中濃度は有意に高かった(中央値:119 ng/mL vs. 87.8 ng/mL, p = 0.01).また,Grade 3 以上の有害事象の発現に関して,ROC 解析に基づく総スニチニブ血中濃度のカットオフ値は 108 ng/mL(感度:0.86,特異度:0.90,AUC-ROC: 0.87,p = 0.01)と算出された.総スニチニブ血中濃度が 108 ng/mL 未満の患者は,108 ng/mL以上の患者と比較して,有害事象によるスニチニブ投与量の減量または休薬までの期間が長かった (p = 0.03).一方,スニチニブ治療成功期間は総スニチニブ血中濃度の影響を受けなかった.本結果より,2/1 スケジュールにおいて,総スニチニブ血中濃度を 108 ng/mL 未満に維持することが重篤な有害事象の発現を回避するために有効で,それに伴う治療継続性の低下は認められないことが示唆された.

薬物動態モデル解析を行った 19 名の患者において,有害事象の観察期間に Grade 3 以上の有害事象を認めた群(n = 9)では,認めなかった群(n = 10)に比べてスニチニブ経口クリアランス(CL/F)は有意に低値を示し(中央値:11.4 L/h vs. 18.0 L/h, p = 0.01),そのカットオフ値は 15.3 L/h であった(感度:0.89,特異度:0.80,AUC-ROC:0.83,p = 0.02). Grade 3 以上の有害事象を認めた群のスニチニブ CL/F は,既報の ABCG2 421C>A 遺伝子変異を有する患者の平均 CL/F(14.3 L/h)より低く,ABCG2 遺伝子変異がスニチニブ血中濃度上昇の一因と考えられた.一方,初回効果判定の CT 検査における progressive disease 群とそれ以外の群との間でスニチニブ CL/F に有意差はなく,無増悪生存期間はスニチニブ CL/F の影響を受けなかった.本結果より,スニチニブ CL/F はスニチニブによる有害事象の発現と関連するが,治療効果との関連は認めなかった.

スニチニブ CL/F が 11.0 L/h(患者 1)および 18.1 L/h(患者 2)であった 2 症例において,スニチニブ37.5 mg を投与した場合のスニチニブ血中濃度のシミュレーションを行った結果,患者 1 の定常状態におけるスニチニブ濃度は,患者 2 に比べて約 1.5 倍高く,患者 1 において Grade 3 の AST および ALT 増加を認めた.一方,患者 1 においてスニチニブ開始 7 日目のスニチニブ濃度が約 90.0 ng/mL であることを確認した後,2 日間スニチニブを休薬し 25 mg に減量して再開した場合のシミュレーションでは,患者 1 の定常状態のスニチニブ濃度推移は,患者 2 に 37.5 mg を連日投与した場合と同等であった.本結果より,スニチニブ血中濃度を早期に測定し,シミュレーションにより血中濃度推移を予測することで,目標血中濃度域に維持するための投与量調節が可能となることが示された.

【結論】
スニチニブの総トラフ濃度を 108 ng/mL 未満に維持することは,2/1 スケジュールでスニチニブを内服する進行性腎細胞癌患者の治療継続性を低下させることなく,重篤な副作用の発現を回避するために有効であることが示唆された.また,薬物動態モデル解析を用いたスニチニブの TDM による投与量調節は,より安全なスニチニブ治療を実施することに役立つ可能性がある.

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