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大学・研究所にある論文を検索できる 「多施設の糖尿病患者コホートを用いたDiabetic Kidney Diseaseの実態および発症・進展因子の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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多施設の糖尿病患者コホートを用いたDiabetic Kidney Diseaseの実態および発症・進展因子の解明

吉田, 唯 東京大学 DOI:10.15083/0002002412

2021.10.13

概要

【背景】これまで糖尿病性腎症と定義されてきた腎障害の発症パターンとしては、糖尿病の発症以降、5-10年後に微量アルブミン尿が出現・増加し、顕性アルブミン尿となり、GFRの低下が生じ、末期腎不全に至るという経過である。一方で、糖尿病を原疾患としていても、アルブミン尿に比してGFRの低下が先行して生じる群についての報告が近年多く、米国ではアルブミン尿(≧30mg/gCr)かつ/またはeGFR<60mL/min/1.73m2の群はDiabetic Kidney Disease(DKD)と定義され、糖尿病患者の34.5%を占めることが明らかとなった。また、1988-1994年と2009-2014年での患者群の推移をみると、微量アルブミン尿(≧30mg/gCr)を呈する患者の総数は減少傾向(20.8→15.9%)にあるのに対し、eGFR低下(<60mL/分/1.73m2)を呈する患者は増加傾向(9.2→14.1%)にあった。欧米諸国及び日本の先行研究の結果では、DKDの割合は糖尿病患者の3-4割を占めている。また、アルブミン尿を有する患者の割合が減少し、eGFR低下を生じる患者が増加している理由について、RAAS阻害薬、血糖降下薬、スタチンといった糖尿病及び合併症治療薬の普及によりアルブミン尿を抑制している可能性が考えられる。今後高齢化が進行するにつれ2型糖尿病患者の高齢発症が進むと共に、罹患歴の長い患者も増加することから、eGFR低下症例が増えてくる可能性が予想されている。eGFRがアルブミン尿に先行して低下するのは内服薬と無関係に起こりうると考えられ、いくつかの先行研究よりこの群には血糖コントロールの状態や合併症との関連が乏しいことから、微小血管障害でなく大血管障害が関連しているのではないかとも考えられているが、その機序や要因は判明していない。加齢による腎障害を含むネフロンロス、間質線維化、腎動脈等の虚血性血管障害、コレステロール塞栓などが原因と考えられている。さらに、DKD患者の中には早期からeGFRの急速な低下を生じる一群(early decliner)が存在する。この群の定義は文献により様々で、確固たる基準が存在しない。

【目的】本邦にて糖尿病患者全体を対象としたDKDの割合を調べた大規模な研究は存在しない。ゆえに、本研究にて既存のコホートを統合して解析を行うことで、DKDの存在割合・発症及び進展のリスクが解明されると考えられる。また、early declinerの特徴や割合、急速なGFR低下に関連する因子を明らかにしたい。

【方法】国内9施設において各施設のコホート研究に同意を得た糖尿病患者(外来・入院ともに含む)を対象としたデータを二次利用し、解析するcross-sectional研究である。DKDの割合及び背景因子の分析に当たり、現時点で8施設9,342名のデータを収集し、既に透析導入されている者、また血清Cr値および尿中アルブミン量(または尿蛋白量)のデータが無い者を除いた。DKDについてはアルブミン尿30mg/gCr以上、またはeGFR<60ml/min/1.73m²のいずれかを有する者と定義した。eGFR低下及び微量アルブミン尿に関連する背景因子を求めるため、非DKD群を基準としてロジスティック回帰分析による多変量分析を行った。また、early declinerの解析には、平均3.0年の血清クレアチニンの追跡データを有する5施設のデータを使用した(計9,010名)。経過中に透析導入となった患者や、2時点以上のeGFR経時データ及び1時点以上でのアルブミン尿(または蛋白尿)測定の無い患者を除外した。eGFRの年間の低下速度を求めるため、対象者2,761名に対し、症例ごとにベースラインと最終測定時点でのeGFRの差を時間(年)で割った傾きを計算した。また、early declinerのリスク因子を求めるため、最初の時点でeGFRが60以上120ml/min/1.73m²未満の症例1,955名を対象とし、eGFR低下量に相関する因子に関して重回帰分析を行った。また、ベースラインから最長4年間のeGFR計測値を用いて、trajectory解析により、eGFRの低下速度を分類し、腎機能の急速低下群の同定を行った。Trajectory解析は経時的に繰り返し測定された変数において、個々の症例が潜在的に所属している複数のサブグループに分類する解析であり、eGFR値による各対象者の潜在サブグループに所属する確率を求めた。また、各サブグループへの進展リスクに関し、ベースラインの属性を多項ロジスティック回帰分析により比較した。

【結果】協力施設のデータを集計し、計2,385名のデータをアルブミン尿およびeGFRによって分類した。全体では、2型糖尿病の割合が90%を占め、年齢の中央値は64歳で、ベースラインの血清Cr値は中央値0.79mg/dLであった。HbA1c(NGSP)は中央値7.1%であった。また、各施設におけるeGFRおよびアルブミン尿の内訳を見ると、微量アルブミン尿30mg/gCr以上を有するのは40%、顕性アルブミン尿300mg/gCr以上を有するのは16%であった。また、eGFR<60ml/min/1.73m2を呈するのは27%であった。全体に占めるDKD患者の割合は52%であった。2型糖尿病患者2,154名に限ると、微量アルブミン尿を有するのは42%、eGFR<60ml/min/1.73m2を示すのは32%で、DKDの割合は54%であった。また、尿定性値を定量値の欠測部に代入し尿定性(+)以上を微量アルブミン相当とすると、4,095名のデータが加わり、対象者は全体で6,480名であった。ここからさらに登録患者全員に腎生検を行っている2施設を除いた6施設(6,179名)の集計では、微量アルブミン尿を有するのは25%、eGFR<60ml/min/1.73m2を示すのは29%であり、DKDの割合は43%であった。2型糖尿病患者は88%で、DKDの割合は43%であった。
 次にeGFR低下及び微量アルブミン尿に関連する背景因子を求めた。eGFR低下かつ正常アルブミン尿群は、非DKD群と比して高齢、高尿酸値、低総コレステロール値に関し有意差があった。この群のHbA1c・血圧・中性脂肪・コレステロール値・尿酸値はいずれも各学会の推奨基準を満たしていた。一方、微量アルブミン尿ありかつeGFR正常群は、網膜症の既往歴あり、HbA1c及び収縮期血圧高値が有意に相関した。また、微量アルブミン尿を有し、かつeGFRが低下している群のリスク因子は、網膜症の既往歴、女性、高齢、高尿酸値、収縮期血圧高値であった。この結果より、eGFR正常で微量アルブミン尿を有する群は血糖及び血圧コントロールが不十分であることが示唆された。服薬状況のデータを有する4施設において、ベースラインの服薬状況に関して非DKD群と比すると、微量アルブミン尿を有する群はインスリン、脂質異常症治療薬(スタチン、フィブラート、EPA製剤)、降圧薬(ACE/ARB阻害薬、Ca拮抗薬、α/β阻害薬)において服薬割合は有意に高かった。一方、eGFRのみ低下群では、降圧薬(またはRAAS阻害薬)のみ非DKD群と比して有意差が生じた。
 Early declinerの定義とそのリスク因子に関して、2型糖尿病患者においてベースラインのアルブミン尿及びeGFRの値により分類したeGFR低下量を計算した。非DKD群と比して正常アルブミン尿かつeGFR低下群の年間eGFR低下速度は1.5ml/min/1.73m²/年(中央値)遅く、eGFR正常で微量アルブミン尿が存在している群の低下速度は1.0ml/min/1.73m²/年(中央値)速いという結果であった。Early declinerのリスク因子を求めるため、eGFR低下量に相関する因子に関して重回帰分析を行うと、高齢、eGFR及びACR、収縮期血圧高値が有意に相関した。同データをtrajectory解析によりeGFR変化量を3群に分けると、eGFRの急速低下グループ(グループ1)がearly declinerの特徴を持っていると考えられ、14%(274名)が該当した。また、年間eGFR変化の無いグループと比したグループ1の所属確率に寄与するベースラインの因子を11変数から解析すると、ベースラインの高齢、eGFR高値及び尿中アルブミン高値が有意にグループ1への進展と関連した。

【結論】本研究の結論として、本邦においてDKDに該当する糖尿病患者は過去の報告よりも大幅に多く、過去の血糖、血圧、脂質に対してコントロールが不良であると、腎障害の発症及び進行、細小血管障害等の合併症を将来的に引き起こす可能性が示唆された。また、early declinerに関しては14%の患者が相当し、ベースラインの高血圧、アルブミン尿の存在が有意に相関することが明らかとなった。これより、腎症早期に十分な生活習慣病加療を受けていない場合、DKD進行リスクが高い可能性があり、その後の加療について特に注意が必要である。

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