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大学・研究所にある論文を検索できる 「多胚性寄生蜂における多胚形成を制御する遺伝子に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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多胚性寄生蜂における多胚形成を制御する遺伝子に関する研究

坂本, 卓磨 サカモト, タクマ 東京農工大学

2021.12.13

概要

他の昆虫体内で発育する昆虫は,ハエ目,ネジレバネ目,ハチ目に属しており,様々な昆虫に寄生する.寄生様式には,外部寄生と内部寄生がある.内部寄生の卵−幼虫寄生蜂は,メス親が寄主卵に産卵したのち,寄主がある程度成長すると,寄主内部を食べ尽くし蛹化する.この卵-幼虫寄生様式は飼い殺し寄生(koinobiont)の一例である.飼い殺し寄生は,メス親が産卵時に次世代の資源量である寄主の資源量を推定できないため,少数の卵を寄主内部に産みそれらが寄主の大きさに合わせて体の大きさを変えるか,または一つの卵から無性的に複数の胚子が生じる多胚生殖という戦略により種を維持してきた.多胚生殖はヒトの一卵性双生児や常に4つ子を生むココノオビアルマジロ(Dasypus novemcinctus)の例が哺乳類でも知られている.昆虫における多胚生殖は,ネジレバネ目で一種,ハチ目ではカマバチ科,ハラビロクロバチ科,コマユバチ科,そしてトビコバチ科の四科の一部の昆虫で確認されており,それぞれ独立に多胚生殖が進化的に獲得されたと考えられている.多胚生殖を行う昆虫は,すべて内部寄生の様式をとる.多胚生殖は同一遺伝子を持つ個体が複数発生する現象であるが,この多胚生殖に関する分子メカニズムは未だに解明されていない.

 トビコバチ科に属する多胚性寄生蜂キンウワバトビコバチ(Copidosoma floridanum)は卵−幼虫寄生蜂であり,キクキンウワバ(Thysanoplusia intermixta)をはじめとするヤガ科キンウワバ亜科の卵に寄生することで知られている.キンウワバトビコバチは多胚生殖を行い1卵から2,000頭以上の個体が生じる.これは多胚生殖を行う昆虫の中でも群を抜いて多い.これまでの研究から,桑実胚の段階で無性的に分裂することで多胚を形成することが観察されている.この桑実胚は最外膜を多核の食羊膜で覆われており,内側に胚細胞が含まれている.キンウワバトビコバチが桑実胚の段階で寄主胚子外に寄生すると,寄主胚子の方へ自ら動いて寄主胚子内に侵入することが明らかになっている.この過程においてキンウワバトビコバチ桑実胚は寄主組織に損傷を与えることなく侵入できることから,遠縁の動物個体の組織間における親和性を獲得したと考えられている.キンウワバトビコバチによる寄主胚子の認識には,寄主胚子表面に存在する糖を利用することと,この認識反応にCa2+を要求することから,この認識機構にはc-type lectinが関与する可能性が長い間示唆されてきた.しかし,具体的な分子は解明されていなかった.そこで本研究ではキンウワバトビコバチの初期胚子期の次世代シーケンサーによるトランスクリプトーム解析により,キンウワバトビコバチの多胚形成を制御する遺伝子群の同定を目的とした.

 キンウワバトビコバチでは遺伝子機能アノテーションが不完全であるため,これまでトランスクリプトーム解析による遺伝子機能解析が不可能であった.そこで本研究では,キンウワバトビコバチにおいてもモデル生物と同様に遺伝子機能解析を行えるキンウワバトビコバチ遺伝機能解析手法を構築した.続いて,このキンウワバトビコバチ遺伝子機能解析パイプラインを用いて,多胚形成の制御に関与する遺伝子を抽出した.キンウワバトビコバチは培養下で2細胞期から多胚形成まで発生誘導が可能である.更に幼若ホルモン(JH)の添加により多胚形成を促進する系が確立されている.そこで多胚形成までの時間差を利用したトランスクリプトーム解析により,JHの添加の有無による遺伝子発現差異を検討した.結果,5つの遺伝子の相互作用により,多胚形成が制御されることを見出した.一方で,寄生された寄主卵から初期胚子期のサンプルを採集し,寄生20時間後の桑実胚と寄生70時間後の多胚のトランスクリプトーム解析を行った.結果,寄生20時間後の桑実胚と寄生70時間後の多胚において,発現が変動した遺伝子の中に,c-type lectin様遺伝子を同定した.キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の遺伝子と対応付けたところ,この遺伝子は細胞間接着タンパク質barkのホモログであることから,このc-type lectin様遺伝子をCfbarkと名付けた.

 次いで,多胚形成制御におけるCfbarkの機能を解析した.結果,初期胚子期のうち,桑実胚期にあたる寄生20時間後で発現が高く,寄生70時間後の多胚では発現が低下した.また,培養下でJH添加により多胚形成を促進した場合にはCfbark発現が低下することが明らかになった.以上のことからCfbarkは寄主胚子への組織親和的接着と侵入に関わる因子である可能性が強く示唆された.

 キンウワバトビコバチは,ハチ目の寄生蜂とチョウ目の寄主昆虫の動物個体の組織間で親和性を獲得した極めて稀な例であるとともに,多胚というユニークな生殖様式を持つ.

 本研究では,キンウワバトビコバチ遺伝機能解析パイプラインを構築し,その初期胚子期トランスクリプトーム解析により多胚形成制御に関与する遺伝子群を解析した.結果,初期胚子期において,遠縁の動物組織間の親和性獲得の起因分子Cfbarkと細胞分裂を制御する5つの遺伝子の相互作用により,多胚形成が制御される仕組みの解明に貢献した.遠縁の動物組織間で親和性の獲得に寄与する分子が確定すると,別個体の組織の移植による急性免疫拒絶反応がおこらない分子の仕組みを理解できる.将来的には,動物組織の擬態による免疫攻撃回避機構というこれまでなかった免疫学理論の構築にも貢献できることが期待される.

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