血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫における特異的ゲノム異常を介した発症機序
概要
目的: 血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫(angioimmunoblastic T cell lymphoma, AITL)はT細胞リンパ腫の一つである。申請者の所属する研究グループはAITLの~60%に疾患特異的ras homologue family member A (RHOA)変異を同定した。またこのRHOA変異は17番目のグリシンをバリンに置換する(p.Gly17Val: G17V RHOA変異)をhotspotとして認めた。しかしながら、このG17V RHOA変異がAITLの発症にどのように寄与するかは不明であった。そこで、AITLにおけるG17VRHOA変異体の下流シグナルを明らかにすることを研究の目的とした。
対象と方法: G17VRHOA変異体あるいは野生型RHOAを発現させたJurkat細胞(JurkatG17V, JurkatWT)を用いて、T細胞受容体シグナルについてウエスタンブロット、レポーターアッセイ、whole transcriptome解析による評価を行なった。免疫染色ではヒトAITL患者の凍結組織標本を用いた。
結果: 当教室の先行研究により、Jurkat細胞による免疫沈降によって、G17VRHOA変異体と特異的に結合するタンパクとしてVAV1がスクリーニングされた。G17VRHOA変異体あるいは野生型RHOAをドキシサイクリン下に発現させたJurkatG17V, JurkatWTでVAV1蛋白のY174部位のリン酸化を調べたところ、JurkatG17VはJurkatWTに比較して、定常状態およびCD3刺激下でのVAV1リン酸化が亢進していた。またJurkat細胞へのG17VRHOA変異体cDNAの一過性導入によりnuclear factor of activated T cells (NFAT)活性の有意な上昇を認めた。さらに、JurkatG17VおよびJurkatWTについてwhole transcriptome解析を行い、Gene set enrichment analysis (GSEA)を行ったところ、JurkatG17VはJurkatWTと比較してサイトカインやケモカインに関わるpathwayの有意なenrichmentを認めた。ヒトAITL患者組織検体において、蛍光多重染色では、RHOA変異陽性あるいはVAV1変異陽性の8例ではPD1陽性の細胞でVAV1リン酸化がみられ、いずれも陰性の4例ではリン酸化はみられなかった。マルチキナーゼ阻害剤であるダサチニブによって、G17VRHOA変異体によって誘導されるVAV1の過剰なリン酸化は用量依存性に阻害された。
考察: 本研究によって、G17VRHOA変異体とVAV1の結合によるT細胞受容体(TCR)シグナルの活性化が示され、そのことがAITLの発症に寄与していると考えられた。
結論: AITLにおけるRHOA-VAV1の結合はTCRシグナルの亢進をもたらすことが示された。また既存薬であるダサチニブはその影響を抑制できることも示された。