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大学・研究所にある論文を検索できる 「腎生検標本における機械学習を用いた間質の評価方法の確立及び腎予後との関係についての検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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腎生検標本における機械学習を用いた間質の評価方法の確立及び腎予後との関係についての検討

鈴木 野の香 東北大学

2021.03.25

概要

糖尿病合併による腎病理所見の変化や腎予後との関係を調べることを目的に、糖尿病を合併しているが病理診断名が糖尿病性腎症ではない慢性腎臓病患者の腎病理所見の検討を開始したところ、尿細管間質障害の評価においては、病理診断報告書の表現が多岐にわたっており、糸球体腫大の評価においては、病理診断報告書に記載された「腫大の有無」による実測の糸球体面積に有意差は認めなかった(P = 0.2768)ことから、診療経験や対象症例の年齢、尿蛋白量などの臨床情報から予測される所見を考慮した上での主観的な評価が含まれている可能性が否めないことが明らかとなった。以上の結果から、腎病理診断を受ける患者に対して、現在の腎臓の状態と今後の腎機能障害の経過予測などを、観察者や医療施設間によらず横断的客観性と経時的客観性に基づいた腎病理診断技術が必要であると考えた(Part1)。
 そこで、近年開発が進んでいる深層学習を含めた機械学習を利用し、人工知能(AI)を用いて間質領域や細胞の核領域(炎症細胞浸潤領域)の割合を定量的に推定するアルゴリズムを作成し、得られた結果から腎予後予測能を評価することを目的として研究を行った。
 対象は、東北大学病院で腎生検を施行し、腎病理診断名が糖尿病性腎症、腎硬化症、巣状分節性糸球体硬化症である症例とした。腎生検標本の中でも、間質の評価に有用な Elastica-Masson 染色標本をスキャナ―を用いてデジタル化し、Whole Slide Imaging(WSI)を作成した。AI により、WSI をガラス領域、糸球体、尿細管、間質領域に組織セグメンテーションを行うため、独自の描画ソフトウェアツールを用いて教師データを作成し、深層学習モデルの U-net を使用して 2 段階の分析を行った。さらに、間質領域内の炎症細胞浸潤を評価するため、教師データを作成し、AI による細胞の核領域の割合を推定した(Part2)。
 同時に、病理診断報告書の記載では解析困難であった尿細管間質病変において、臨床現場における腎臓専門医の評価の再現性を評価するため、WSI を用いて 3 人の腎臓専門医による尿細管間質障害の判定量的な診断を比較した。その結果、全症例における評価の誤差の平均は 10%未満に留まる一方で、障害の程度が 25-75%である症例に関しては、誤差が出やすくなる傾向を認めた(Part2)。

 本研究においては、新規に作成した機械学習アルゴリズムの有用性において、腎臓専門医の評価と比較することで、臨床現場で実際に評価されている腎病理所見と同等の基準を満たしているかを確認した。AI が推定した間質領域の割合と腎臓専門医が評価した尿細管間質障害、間質線維化、間質障害の割合の平均値の比較、及び AI が推定した間質領域内の細胞の核領域の割合と腎臓専門医が評価した炎症細胞浸潤の割合の平均値の比較を行った結果、すべてにおいて相関を認めた(R2 = 0.7503、P < 0.0001、R2 = 0.5805、P < 0.0001、 R2 = 0.6439、P <0.0001、R2 =0.1378、P = 0.0018)。したがって、AI による推定結果が腎臓専門医の評価と同等の質を持つことが示された(Part2)。
 腎臓専門医が評価した各病理所見は腎生検時の eGFR とよく逆相関し、その線形近似式より腎予後予測が可能となった。AI が推定した間質領域の割合、間質領域内の細胞の核領域の割合をそれぞれ腎生検時 eGFRと比較した結果においても、腎臓専門医の評価と同様に逆相関を認めた(R² = 0.3537、P < 0.0001、R² = 0.0391、P < 0.0001)。得られた線形近似式を活用することによって、実測の腎機能と腎病理所見から算出された予測 eGFR の差を年間のeGFR 低下量で比較することで、腎予後の予測をおこなった。その結果、腎生検時の臨床検査結果としてのeGFR が腎病理所見から予測されるeGFR より高値であるほど年間eGFR低下量が大きくなり、腎機能低下リスクが高くなる傾向が示された。しかし、AI が推定した細胞の核領域においては、相関を認めず、腎臓専門医の評価と異なる結果となった(R² = 0.0408、P = 0.0976)。以上より、AI による推定結果の精度の向上や交絡因子の検討などの課題は残るが、AI を用いた腎病理評価を用いた腎予後予測の可能性を示すことができた(Part3)。

 今回の研究で、腎生検病理組織において、AI を用いて尿細管間質を認識するアルゴリズムの骨組みを作成することができた。また、そこから導かれた定量的病理評価結果は腎臓専門医の評価とよく相関した。以上の結果から、腎病理診断において、生体標本に含まれる情報の定量化や診断ルールの定式化において AIの認識技術を活用することが可能であることが示された。AI の推定精度を向上するための課題や定量的な評価の妥当性を確認するための課題は残るが、今後、AI の認識技術を応用して腎予後を予測する参照データを作成できた場合、施設間や医師間のバイアスを最小限にとどめたうえで、個人及び患者集団としてみた場合の戦略的な腎臓病対策に有用であると考える。

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