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ローカル・フードシステムと都市農地保全に関する研究

佐藤, 忠恭 サトウ, タダヤス 東京農工大学

2022.08.18

概要

近年、日本においては、市街化区域に過大に編入された農地をめぐって、都市農地と都市農業がその多様な機能により再評価される一方、「農産物を供給する機能」が都市住民の食料安全保障の観点からは捉えられていない。一方、世界に感染を広げた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、都市食料供給システムの分断をもたらしたが、都市農業は食料安全保障と人々の生計への悪影響を緩和しており、危機に際して回復力をもたらすローカル・フードシステムの利点が明らかとなっている。今後、より一層ローカル・フードシステムを都市の食料安全保障の確保につなげるためには、それを支える都市農地の保全が重要となってくる。

これまでの都市農業論では、食料供給という農地固有の機能に関する立地の分析が不足していたために、市街地と農地の混在合理性について食料安全保障の観点からの説明は不十分であった。そのため、都市農業による生鮮野菜の供給機能は、多くの場合、供給量からしか評価されず、市街化調整区域からの供給で代替可能との議論に抗し得なかった。そこで本研究では、ローカル・フードシステムの観点から市街地と農地の混在合理性を示し、それを起点として都市農地保全のあり方を提示することを目的とした。

都市農業の再評価を背景とした都市農地制度の近年の見直しは、生産緑地の不安定性を減じたが、相続時に所有者側の意思で転用されてしまうという、より根本的な問題に対しては限界があることを示した。

本研究ではローカル・フードシステムを、「生産者と消費者の地理的近接性と相互信頼を土台とした手法により、食料を直接供給することで地域における社会問題を解決するフードシステム」と規定した。その上で、都市住民の食料安全保障の確保を解決すべき社会問題の中心に据えた。なお、本研究では海外にならい、食料安全保障の概念に個人レベルの食料へのアクセスを含む。

ローカル・フードシステムを構成する生産・供給方法の一つとして、CSA と産消提携に着目した。野菜セット取引では市場流通を介さないため、独自の配送が課題となる。都市部における事例調査により、生産者と消費者の地理的近接性は、関係継続に有利に作用することを示した。また、都市部における生産者による移動販売の事例調査から、その成立条件には、生産者の居住地から停車販売場所の地域までの距離が関係し、両地は近接している方がより有利であることを示した。以上より、市街地に混在する都市農地の存在は、ローカル・フードシステムを構成する供給方法を支え、生産者と消費者のコミュニティ形成、関係継続に寄与することを示唆した。

次に、市街地に混在する生産緑地の保全がローカル・フードシステムの維持につながることを関東地方の庭先直売と生産緑地の関係から示した。市区レベル及び経営レベルいずれも生産緑地の存在が、市街化区域内の野菜の庭先直売の設置に正の影響を与えていること、市街化区域内の野菜庭先直売農家において庭先直売は重要な販売チャネルとなっていること、近所の徒歩圏内の住民が野菜の庭先直売の顧客層に含まれていることを明らかにした。

生産緑地の保全をいかに図るか、という視点から、川崎市の都市農地保全施策を概観したのち、農地所有者の意思に生産緑地の保全の成否がかかっていることを確認した。生産緑地の維持意向と農家属性との関係を分析したところ、後継者の存在と単位面積当たり農業粗収益には生産緑地の維持意向に正の影響がみられた。また、農家居住地の地価と生産緑地の維持意向の関係は明瞭ではなかった。生産緑地の保全では、立地を考慮に入れながら、高路線価地域においては営農支援とは別次元の方策が必要であることが示唆された。

続いて、川崎市を対象に、生産緑地の立地と野菜庭先直売の立地の関係、およびそれらがローカル・フードシステムの機能にもたらす効果との関係を分析した。結果、約7割の野菜庭先直売が生産緑地から 30m 以内に位置しており、65 歳以上の高齢者 28.7 千人が食料品アクセス困難地域に居住し、うち 53.3%、15.3 千人が野菜庭先直売の半径 500m 圏内に居住すると推計された。

その上で、生鮮野菜アクセスの改善をもたらす立地の生産緑地を把握し、ローカル・フードシステムの観点から生産緑地のうち保全優先度の高い農地の特定を試みた。中でも高路線価によって維持意向が弱く、生産緑地の指定解除を回避する手立てがより重要となる生産緑地の町丁を抽出した。最後に、生産緑地転用の根本問題を解決する自治体による生産緑地公有地化の可能性を検討した。

本研究の結論は、次の2点である。第一に、生産者と消費者のコミュニティ形成、関係継続への寄与、生鮮野菜アクセス改善への寄与から、市街地と農地の混在には合理性が認められる。第二に、都市農地保全においては、ローカル・フードシステムに資する立地の都市農地を重点的に保全すべきである。

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