Human iPS cells engender corneal epithelial stem cells with holoclone-forming capabilities
概要
〔目的(Purpose)〕
重篤な角膜の混濁と視力低下を来す角膜上皮幹細胞疲弊症に対して、幹細胞を補充して透明性を回復させるために培養上皮細胞シート移植が有効である。本研究では、献眼に依存することなくヒトiPS細胞から人工的に幹細胞を誘導、単離することで、幹細胞を多く含む細胞シートを作製できるか検証することを目的として研究を行った。
〔方法ならびに成績(Methods/Results)〕
ヒトiPS細胞から眼組織全体を含むオルガノイドを誘導する方法としてSEAM法が報告されている。SEAM法では約12週間の2次元培養により4層構造の同心円状コロニーが誘導されるが、内側から3層目に角膜上皮前駆細胞が含まれることが報告されており、本領域に角膜上皮幹細胞が誘導されているか検証した。まず、SEAM法により誘導した眼オルガノイドの3層目領域の遺伝子発現解析を経時的に行った結果、眼表面上皮細胞が分化する時期と一致して角膜上皮幹細胞マーカーABCB5が発現することを確認した。次に、ABCB5K陽性細胞をFACSによって単離し、本細胞が角膜上皮幹細胞としての性質を有しているか自己複製試験および角膜上皮への分化試験によって検証した。Colony-forming assayによってABCB5陽性細胞はABCB5陰性細胞と比較して高い増殖能を有していることが示され、Holoclone assayでは自己複製能を有するHolocloneがABCB5陽性細胞からのみ生じることを確認した。さらに、ABCB5陽性細胞を中和抗体で処理LABCB5の機能を阻害した結果、Colony-forming assayおよびHoloclone assayで細胞の増殖能、自己複製能が有意に低下することが示され、ABCB5が細胞増殖に機能的に関与しているマーカーであることも示された。次にABCB5陽性細胞を3週間から4週間かけて2次元培養することで細胞シートを作製し、遺伝子発現解析を行った結果、本シートが角膜上皮マーカー(K12、ΡAΧ6、p63)を発現し角膜上皮の表現型をもつことを確認した。さらに本シートは角膜上皮幹細胞マーカ一 ABCB5の発現を維持しており、幹細胞がシート内に維持されていると考えられた。
〔総括(Conclusion)〕
ヒトiPS細胞由来ABC5腸性細胞は幹細胞に必須の性質である自己複製能と成熟角膜上皮細胞への分化能を有することが示され、人工的に角膜上皮幹細胞を誘導することに初めて成功した。さらに、本細胞を用いて作製した細胞シート中には幹細胞マーカーの持続的な発現が認められ、角膜再生医療の治療成績向上に寄与するものと期待される。