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<講義ノート>量子スピン液体の素励起

宇田川, 将文 京都大学

2022.03

概要

量子スピン液体という言葉が物性物理学の世界に定着してから長い時間が経つように思います。また、時間が経つと共に、この言葉の立ち位置、量子スピン液体という言葉が想起させる物理概念も様々な変遷をたどってきたようにも思います。「スピン液体」という言葉自体の出自は単純で、絶対零度まで秩序を起こさない磁性体は存在するのだろうか?という素朴な興味から、この言葉は生まれました。統計力学を学んだ学部以上の方なら慣れ親しんでいるように、沢山の電子、あるいはスピンから作られた磁性体は、温度を下げていくと、強磁性や反強磁性というような秩序を示します。しかしながら秩序化を妨げるような何かしらの要因があれば、絶対零度までスピンが秩序を示さずに、乱れた状態のまま留まるということもあり得るのではないでしょうか?秩序を妨げる要因としていかにもあり得そうだと考えられてきたのが幾何学的フラストレーションという要素です。三角形上に配置したスピンが反強磁性的に相互作用したとすると、全体としてスピンのエネルギーをうまく最適化できません。その結果として、「妥協した」スピン配置がエネルギーの低い状態として多数生じることになります。三角形を沢山敷きつめて格子状にすると、その数はマクロなオーダーになり、巨視的に縮退した基底状態を作ることになります。目論み通り秩序は抑えられて、多数の乱れた状態が同居する、スピン液体が現れたわけです。

スピン液体の最初の驚きは、この膨大に縮退した基底状態が、どうやら単なる無秩序な状態というわけではなく、独自の精妙な秩序を持っているらしいという発見でした。そして、この秩序の構造を詳しく教えてくれるのは思いがけなく、我々の身近にある “氷”、そしてその磁石版であるスピンアイスと呼ばれる磁性体なのです。

さて、物性を志す学部学生のみなさんが熱心に学ぶ科目は統計力学の他にもう一つ、量子力学があります。量子力学が基礎を置くのは重ね合わせの原理で、猫には気の毒なことですが、|ψ⟩ = | 生きた猫 ⟩+| 死んだ猫 ⟩ みたいな状態が出てくることになります。さてこの量子力学の基本原理を頭に置いて、先ほどの巨視的に縮退した基底状態を再び眺めてみると何を思うでしょう?二つの状態を重ね合わせるなどケチなことを言わず、縮退したマクロな数の状態を全て重ね合わせたら何が起こるだろうと考えてみたくなりませんか?スピン液体の二つ目の驚きはこのような「シュレディンガーの氷」とでもいうような膨大な数の状態の重ね合わせ、量子スピンアイスの中に見出されます。そこでは「分数化」という現象が起こり、物質を構成する基本単位だったはずのスピンが複数の自由度に分裂して動き回る、ということが起こります。しかもその新しい自由度–モノポール–の従う運動法則は量子電磁気学 (QED)、しかも我々の世界を記述するはずの QED とは少し見かけの異なる QED のようなのです。

さて、この分数化という現象は量子力学の別の不思議な側面、「非局所性」と結びついてスピン液体についての三つ目の驚きを提起します。量子力学の非局所性といえば、EPR のパラドックスが有名です。遠く離れた二つのスピンの間の関係性が非局所的に維持される、というのがその本質です。量子スピン液体ではある意味で、 EPR 現象を超えた度合いの非局所性が現れます。そこではひとつの量子状態自身が複数に分裂して非局所に保たれるように見えるのです。その舞台となるのが今世紀に提案された新しいスピン液体、Kitaev スピン液体です。

この講義ではこのような、スピン液体の三つの驚きを順を追って見ていきたいと思います。それはある意味、これまでのスピン液体の研究の歴史を追っていくようなことになるでしょう。そして願わくば、この講義ノートのすぐ次のページに、新しい歴史を書き込むための余白がすぐに見つかるような、そんな講義になれば良いなと思っています。

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参考文献

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