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粒径・落下速度分布観測と移流拡散モデル計算から得られた桜島ブルカノ式噴火のテフラ分離プロファイル

瀧下, 恒星 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k24426

2023.03.23

概要

博士学位論文要約

粒径・落下速度分布観測と移流拡散モデル計算から得られた
桜島ブルカノ式噴火のテフラ分離プロファイル
瀧下恒星

1. 序論
火山噴火により形成された噴煙から分離する固体粒子には,火山灰と定義される粒径が 2 mm より小
さい粒子や,火山礫と定義される 2 mm から 64 mm の粒子が含まれる。粒子が大気中を移動しているか,
堆積しているかにかかわらず,本稿ではこれらを総称してテフラと呼ぶ。テフラ粒子は,噴煙から分離し
た後,風により移流,乱流により拡散,重力により降下する。移流拡散モデルは,これらの過程をモデル
化したものであり,粒子の供給源を表す噴煙モデルを移流拡散モデルに接続して降下テフラ重量が計算
される。
噴煙モデルの主要なパラメータには,テフラ粒子の総重量,噴煙上端の到達高度(噴煙頂高度),粒径
分布が挙げられるが,これらに加えて,噴煙におけるテフラ粒子の総重量の鉛直配分を表す確率分布関数
(テフラ分離プロファイル)も重要なパラメータである。テフラ分離プロファイルは,浮力流理論に基づ
いた一次元噴煙モデルを用いて計算されてきた。一次元噴煙モデルによれば,ほとんどの粒子が噴煙頂高
度から分離する。また,Suzuki (1983) は,噴煙頂高度と高度方向の分散をパラメータとするテフラ分離
プロファイル関数を提案した。この関数は概して,粒子のほとんどが噴煙頂から分離するように高度方向
の分散パラメータ を設定して移流拡散モデルに適用される。一方,テフラ分離プロファイルを推定する
噴火事例研究では共通して,最大噴煙頂高度よりも低い高度からのテフラ分離卓越性が認められており,
テフラ分離プロファイルの特性は浮力流理論に基づく研究と事例研究で大きく異なっている。
本稿の研究対象である桜島は,日本で最も活動的な火山である。1955 年以降の噴火活動における主な
噴火様式であるブルカノ式噴火には,衝撃波を伴う爆発音,火山岩塊の放出,火山灰とレキを含むマッシ
ュルーム型噴煙の形成などの特徴がある。噴火継続時間は概して数分間と瞬間的だが,その後噴煙頂高度
を低下させながら,数時間から 1 日準定常的にテフラを噴出し続けることもある非定常的な噴火である。
桜島の噴火のような発生頻度の高い個々の噴火すべてに対して,既存の観測手法から降下テフラ重量の
空間分布を計測するのは困難だが,一つの大規模噴火を対象にしていた先行研究に比べて,多数の事例に
基づくテフラ分離プロファイルの制約条件を発見することで,これまでに知られていないブルカノ式噴
火のテフラ分離プロファイルの特性が明らかになる可能性がある。そこで,本研究では,発生頻度の高い
桜島のブルカノ式噴火を対象にして,供給源と移流拡散モデルからの予測値の比較対象となる降下テフ
ラ重量を,粒径と落下速度の高時間分解能観測により把握した上で,質量噴出率とそれに依存する噴煙頂
高度の時系列を考慮したテフラ分離プロファイルの制約条件を明らかにすることを目的とする。

2. 粒径・落下速度分布観測と降下テフラ重量推定
降下テフラ重量は従来,噴火の発生中もしくは直後に堆積物を採取したり,地層中のテフラの層厚を計

測したりすることで得られてきた。ブルカノ式噴火は噴煙頂高度が低く,比較的少量のテフラ降下しかも
たらさないため,堆積物は風や雨によって再移動しやすい。個々の噴火全てに対して降下テフラ重量の空
間分布を得るには,計器観測が必要である。レーザーを用いて,粒径―落下速度区間ごとに降下する粒子
数を計測する粒径・落下速度分布計(ディスドロメータ)は,テフラ粒子の粒径や落下速度を定量的に計
測できることが示されてきた (Kozono et al., 2019; Suh et al., 2019; Freret-Lorgeril et al., 2020, 2022; Marchetti
et al., 2022) が,形状が多様でしばしば凝集がみられるテフラ粒子に対して,粒径―落下速度区間ごとの
粒子数から降下テフラ重量を見積もる手法の妥当性は検討されていない。そこで,降下テフラの試料採取
を,ディスドロメータによる毎分の粒径―落下速度ごとの粒子数の計測と同時または可能な限り早期に
行い,粒子数を降下テフラ重量に換算する経験式を求めた。試料採取により求められた降下テフラ重量と
比べて,ふるい分けにより 0.25 mm 以上と区分された粒子と 0.25 mm 以下と区分された粒子のそれぞれ
に対応する 2 つの換算式から得られた重量は,それぞれ半分と約 2/3 のイベントで誤差 3 倍以内,9 割以
上のイベントで誤差 10 倍以内であり,粒子を回転楕円体および球形粒子とするモデルに基づいて計算さ
れた値よりも精度が高かった。ディスドロメータ観測の降下テフラ検出限界は,重量で 1 g/m2/min であ
るが,桜島のブルカノ式噴火の場合,ディスドロメータで検知される粒径が 0.25‒3.5 mm,落下速度が 0.6‒
7.2 m/s の粒子に換算式を適用可能である。ディスドロメータにより粒子の落下速度を計測するため,移
流拡散モデルにおける降下過程を直接落下速度で制約できるようになった。さらに,時刻情報を付与され
た降下テフラ重量が,テフラ粒子の移流,拡散,降下の過程を時間の観点から議論することに大きく貢献
することが期待される。

3. 移流拡散モデル Tephra4D による降下テフラ重量計算
小規模なブルカノ式噴火の降下テフラ重量を適切に計算するためには,大規模噴火を対象にして開発
された移流拡散モデルの改良が必要である。小規模噴火の噴煙は,上昇時に風によって折れ曲がりやす
く,その効果を考慮すべきである。また,噴煙頂高度が低いため,移流過程においては,山頂より低い高
度における粒子の輸送が相対的に⻑い時間や距離を占めるので,火山の山頂から見て風下での下降風や
風速場の水平方向の不均質性を考慮する必要がある。また,本研究ではディスドロメータ観測により,粒
子の降下をより直接的に表現する落下速度を用いることができるので,粒径のみから推定される落下速
度よりも精度の良いモデル化が期待される。そこで,粒子を終端速度で離散化し,3 次元に不均質で時間
発展する風速場を考慮し,噴煙の折れ曲がりを考慮するよう,粒子群の重心を追跡する移流拡散モデル
Tephra2 (Bonadonna et al., 2005)に改良を加えた移流拡散モデル Tephra4D を開発した。Tephra4D で計算さ
れた降下テフラ重量の空間分布の等値線は Tephra2 の再実装モデル Tephra2PY に比べてより複雑な形を取
り,火口近傍での重量が増える傾向にあり,4 事例のうち 3 事例では計算結果が改善した。Tephra4D は
山体近傍の風速場がテフラの輸送に大きな影響を与える小規模噴火に有用である。

4. テフラ分離プロファイルの時系列モデル
ブルカノ式噴火は,短時間の非定常な噴出である爆発と,それに続く準定常的な噴出を発生させる。爆

発は短い時間間隔で噴出することもあり,それぞれの爆発の質量噴出率は異なる。このように,一般的に
噴火開始時刻における爆発によって特徴づけられるブルカノ式噴火はしばしば,その爆発の後にも激し
い質量噴出率変化を伴いながら継続する。より大規模で定常的な噴火のテフラ分離プロファイルは, 値
で規定されてきた (たとえば,Pfeiffer et al., 2005; Cao et al., 2021) が,非定常的なブルカノ式噴火では,
観測事実から示唆される多様なテフラ分離プロファイルを 値だけで説明するのが困難なことも多い。そ
こで,質量噴出率とそれに依存する噴煙頂高度の時間変化を考慮したテフラ分離プロファイルの時系列
を与えた。質量噴出率は,経験的な換算式 (Iguchi, 2016) に基づいて地盤変動と地震動の観測値から計算
した。噴煙頂高度は質量噴出率の 1/4 乗に比例するという関係 (たとえば,Morton et al., 1956) から見積
もった。このテフラ分離プロファイルの時系列によって,多様な積算プロファイルを説明できるようにな
った。瞬間的な爆発によって大半のテフラが放出される場合には,最大噴煙頂高度付近からほとんどの粒
子が分離する積算プロファイルを説明できる。また,最大噴煙頂高度をとる噴煙を形成する瞬間的な爆発
に続いて,噴煙頂高度を減じた爆発や準定常的な噴出が多量の粒子を放出する場合,最大噴煙頂高度より
も低い高度から多量の粒子が分離する複雑な積算プロファイルも説明できる。
2. で求めた,ディスドロメータによる粒径―落下速度区間ごとの粒子数の計測結果を降下テフラ重量
へ換算する式を用いて,ディスドロメータ観測網により計測された降下テフラ重量の時系列と,3. で開
発した移流拡散モデル Tephra4D により計算された降下テフラ重量の時系列を比較して,テフラ分離プ
ロファイルの時系列の妥当性を検討した。39 回の桜島ブルカノ式噴火を対象とした事例解析から, = 1,
2, 4, 8 を適用した計算結果の中で, = 8 を適用して計算された空間分布が,観測された空間分布を最も
良く再現する噴火が多いことが示された。また,多くの場合,広い落下速度区間の粒子において降下テフ
ラの検知開始時刻はほぼ同時であることを観測は示すが,計算では再現できなかった。

5. 議論
= 8 を適用したテフラ分離プロファイルは,噴煙頂高度付近からほとんどの粒子が分離する。これは,
浮力流理論に基づく噴煙モデル (たとえば,Woods, 1988; Woods and Bursik, 1991; Ernst et al., 1996; Costa et
al., 2006; Woodhouse et al., 2013; Girault et al., 2014; Folch et al., 2016) が与えられるテフラ分離プロファイ
ルと整合的で,ブルカノ式噴火のテフラ分離プロファイルにも浮力流理論が適用できることが示された。
噴煙が最大噴煙頂高度に達する時間帯は質量噴出率も最大であり,積算プロファイルも最大噴煙頂高度
付近から大半の粒子が分離する分布になる場合が多いため,小規模なブルカノ式噴火は噴煙が最大噴煙
頂高度に達する開始時の瞬間的な爆発のみが注目されてきた。ところが,桜島において実際に発生してい
るブルカノ式噴火を見てみると,爆発的な噴出が繰り返されたり,爆発的な噴出が時間をかけて減衰した
り,あるいは⻑時間にわたる準定常的な噴出に移行したりすることも多い。この場合には,噴煙頂高度が
最大となるブルカノ式噴火の初期噴煙よりも高度が低くなるので,一連の噴火イベント全体に占める,最
大噴煙頂高度に達しない粒子の重量の割合が大きくなる。このような噴煙頂高度の時間変化を考慮する
ことにより,噴煙の頂部に粒子が集中する

= 8 の場合であっても,積算プロファイルは,過半数のイベ

ントにおいて,最大噴煙頂高度より低い高度で重量分率の極大値を取る。ブルカノ式噴火とそれに続く一

連の噴火活動は噴煙頂高度の時間変化が激しく,噴煙頂高度の時間変化を考慮することの重要性が積算
プロファイルにも表れている。噴煙頂高度は質量噴出率に基づいて見積もられるため,積算テフラ分離プ
ロファイルの制約条件が質量噴出率の時間変化であることが明らかになった。
落下速度が異なっていても,降下テフラをディスドロメータが検知し始める時刻がほぼ同時である事
実の解釈に有力なのが,fingering (たとえば,Scollo et al., 2017; Freret-Lorgeril et al., 2020) である。Fingering
は火山灰の降下が筋状に何本も見える現象で,粒子と流体の混合連続体と考えることが出来る。本研究に
おいて解析した事例の多くは,構成粒子の粒径や質量噴出率が finger の形成条件を満たした。

6. 結論
ディスドロメータによる毎分の粒径―落下速度ごとの粒子数の計測は,降下テフラの試料採取と比較
することで得られた,粒子数を降下テフラ重量に換算する経験的な式を用いることにより,試料採取法に
かわる計器観測の手法として有効である。また,粒径に代えて直接的に粒子の降下過程を表現する落下速
度により粒子を区分し,山岳地形の影響を受けた不均質な風速場と,その時間変化を考慮するよう改良し
て移流拡散モデル Tephra4D を開発し,その有効性が確認された。
桜島ブルカノ式噴火の質量噴出率とそれから換算される噴煙頂高度から得られるテフラ分離プロファ
イルを時系列化し,降下テフラ重量の時系列と照合することにより,時系列化の妥当性を検証した。噴火
開始時の瞬間的な爆発の後も粒子の噴出が続いた場合,積算プロファイルは最大噴煙頂高度よりも低い
高度からも多量の粒子が分離する分布となる。ブルカノ式噴火は一般的に瞬間的な爆発とみなされてい
るが,噴煙頂高度が最大噴煙頂高度よりも低く複雑な時間変化を取りながら⻑時間連続的に放出する噴
火活動も,降下テフラ重量の予測には重要である。
解析から得られたテフラ分離プロファイルは,噴煙の頂部からほとんどの粒子が分離することを示す
浮力流理論を支持するものである。しかも,最高高度に到達するブルカノ式噴火の初期噴煙だけでなく,
その後の最大噴煙頂高度より低い高度の噴煙放出も,その時点における噴煙頂高度によって規定される
頂部からの粒子分離が卓越するテフラ分離プロファイルとなる。このことは,積算プロファイルが噴煙頂
高度の時間変化を考慮することで説明できることを意味し,噴煙頂高度は質量噴出率に基づいているた
め,積算テフラ分離プロファイルの最大の制約条件は質量噴出率だといえる。 ...

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