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地上重力データを用いたアラスカ南東部における氷河性地殻均衡の統合的理解

長縄, 和洋 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k24427

2023.03.23

概要

博士学位論文要約

地上重力データを用いたアラスカ南東部における
氷河性地殻均衡の統合的理解
長縄和洋

1. 序論
高緯度氷河域における測地観測は観測データの地理的な空白地帯を埋めるほか、近年の温暖化に
伴う氷河融解や海水準変動のモニタリング手法としても重要度を増している。高緯度氷河域では

GIA と呼ばれる過去の氷河融解による粘弾性変形が観測されており、氷河融解や海水準変動、プ
レート運動といった様々な変動と重畳して観測されるため、GIA 以外の諸変動を理解するために、
その地域の GIA 変動を定量化し、補正することが測地学における重要な課題の一つとなっている。
これに対して、地上重力観測は地球内部の質量移動を直接捉えることができるため、氷河融解量や

GIA 変動を理解する手がかりとして期待される。しかしながら、氷河域では気象条件をはじめと
する様々な制約が存在するため、氷河域での地上重力の観測事例は少なく、その有効性については
十分に議論されてこなかった。
本研究の対象地域であるアラスカ南東部では、急速な氷河融解や GIA 変動が観測されているほ
か、M7 クラスの地震活動といった多様な地球科学的変動が発生している。さらにアラスカ南東部
では 2000 年代に稠密な GNSS 観測網の整備や、航空レーザー測量など様々な観測が行われてお
り、これらの観測データに基づいた GIA モデルの構築も行われてきた。一方で、地上重力観測に
ついては、2006 ∼ 2008 年に実施されたのみであり、他の氷河域と同様に、重力変化や質量移動な
どについては十分に理解されていない。当地域で地上重力データをさらに蓄積し、重力変化を正確
に把握することができれば、当地域の GIA や現代氷河融解といった質量変動を直接理解できると
期待される。さらに、氷河融解をはじめとするアラスカ南東部の多様な地球科学変動に対して地上
重力観測の有効性を確認することができれば、他の氷河域においても地上重力観測を実施・継続す
ることの重要性を提示できると期待される。
そこで本研究は、急速な GIA 変動が確認されているアラスカ南東部を研究対象とし、地上重力
観測や数値計算に基づいて当地域の GIA 変動を統合的に研究した。

2. 絶対重力観測と重力変化率の決定
本研究は、2012、2013、2015 年の各 6 月に先行研究と同じ計 6 点の重力観測点で実施された絶
対重力測定データを 2006 ∼ 2008 年のデータと共に再解析し、当地域の重力変化率を以下の通り
に再決定した。まず、本研究はソフトウェア g9 を用いて、現地で取得された絶対重力データに基
本的な補正処理 (気圧補正や潮汐補正) を施し、各年の各重力観測点における絶対重力値を得た。
次に、陸水変動や地震時変動に伴う重力変化を推定し、その寄与を絶対重力値から差し引いた。
陸水擾乱の寄与は、全球陸水モデルである GLDAS-2.1 を弾性荷重グリーン関数およびニュートン
の万有引力の式と時空間積分することで計算した。また、観測期間中にアラスカ南東部周辺で発生
した大きな地震として 2012 年 10 月 28 日に起きた Haida Gwaii 地震 (Mw 7.8) と 2013 年 1 月 5
日に起きた Craig 地震 (Mw 7.5) を対象にし、Okubo (1992) によって各地震による地震時重力変
化を推定した。その結果、陸水擾乱は最大で 2.5 μGal ほど、地震時変動は Haida Gwaii 地震で最

1

大 0.15 μGal、Craig 地震で最大 1.2 μGal と推定された。
陸水変動や地震時変動の寄与を絶対重力から補正した後、最小二乗法によって各重力観測
点における 2006 ∼ 2015 年の重力変化率を再決定した。得られた重力変化率は各重力観測点
で、−2.83 ± 0.35 μGal/yr (EGAN)、−2.05 ± 1.06 μGal/yr (MGVC)、−3.92 ± 0.36 μGal/yr

(GBCL)、−4.40 ± 0.42 μGal/yr (RUSG)、−3.67 ± 0.34 μGal/yr (HNSG)、−2.64 ± 0.43 μGal/yr
(BRMC) となった。これらの重力変化率は先行研究と比べて絶対値的に小さいものの、先行研究
の誤差範囲内であり、整合的であった。また、2006 ∼ 2008 年の期間で同様にして重力変化率を求
め、本研究の結果と比べたところ、本研究の標準偏差は 2006 ∼ 2008 年のデータに対して平均約

76 % 減少していた。これは新たに絶対重力データが追加され、観測期間が延びたためであり、当
地域の重力変化率をより精度良く決定できたと言える。

3. 荷重変形理論に基づく GIA モデルの構築および調整
本章では第 2 章で得た重力変化率データに基づいてアラスカ南東部の GIA モデルを構築し、そ
の中でアラスカ南東部直下の粘性構造を推定した。アラスカ南東部の場合、GIA の要因となる氷
河融解はその時空間スケールによって、GPIM、RPIM、LPIM、PDIM の 4 つの要素に分けるこ
とができる。本研究ではこの 4 つの GIA 要素と PDIM による万有引力効果による重力変化を数
値的に計算し、前章において決定された観測による重力変化率を再現可能なモデルの構築・調整を
行った。
特に RPIM・LPIM は、GPIM のようなグローバルなモデルでは取り扱われていない、小氷期以
降の 100 ∼ 200 年の間のローカルな過去の氷河融解を対象としているため、地下の粘性構造もそ
の地域に合わせたローカルなものである必要がある。本研究ではグリッドサーチを通じて、観測値
を説明するのに最適なアラスカ南東部直下の粘性構造パラメータ、具体的には観測値と計算値の残
差の二乗を誤差の二乗で割った χ2 値が最小となるような組み合わせを推定した。ここではアセノ
スフェアを 4 層と仮定し、リソスフェアの厚さ d と上部マントルの粘性率 η を推定するパラメー
タとした。
推定された地下粘性構造はリソスフェアの厚さが 55 (47 ∼ 64) km、上部マントルの粘性率が

1.2 (0.5 ∼ 2.0) ×1019 Pa s となり、これは GNSS データに基づいた先行研究の GIA モデルの粘
性構造と整合的であった。このことは重力観測は GNSS と同様に地下粘性構造を推定する手段と
して十分に有効であることを示している。また、上記の粘性構造を用いて計算された重力変化率
は、全ての重力観測点において観測値の誤差範囲内に収まっていることが確認できた。

4. GIA モデルと衛星観測データの整合性検証
本章では、地上重力観測データと独立な測地データである GNSS と衛星重力計 GRACE の観測
データとの比較を通して、第 3 章で構築した本研究の GIA モデルの妥当性について検証・議論し
た。本研究は先行研究の GNSS キャンペーン観測で得られた上下変動速度に加え、UNAVCO や

NGL の解析データをダウンロードして上下変動速度を決定することで、アラスカ南東部の GNSS
観測データを整理した。これに対して、重力変化率と同様に、3 章で構築された GIA モデルを用

2

いて上下変動速度を計算し、これら上下変動速度の観測値と計算値の残差を算出した。その結果、
得られた残差の平均値および標準偏差は −0.21 ± 4.20 mm/yr とほとんどゼロに近い値となった。
ヒストグラムで比べても観測値に見られた 25 mm/yr 付近とゼロ mm/yr 付近にある二つのピー
クの存在が再現されている他、統計的な検定においても両者の分布は有意に異なるものとはいえな
いと結論付けられた。よって、本研究の GIA モデルは、重力変化という GNSS とは独立したデー
タを元にしているにも関わらず、アラスカ南東部の上下変動データを再現可能であるといえる。

GRACE との比較においては、CSR RL-06 の Level-2 データから重力変化率分布の観測データ
を準備した。これに対して、本研究の GIA モデルを用いてアラスカ全域の重力変化率を計算し、

GRACE データと比較可能な処理をした重力変化率分布を得た。双方の重力変化率分布を比較す
ると、いずれの分布でもアラスカ南部を中心とした重力減少域が確認され、ピークの大きさも双方
およそ 3 μGal/yr と一致しており、本モデルは GRACE データとも整合的であることが示された。
しかしながら、モデル計算上では最大 3.5 μGal/yr だったアラスカ南東部の GIA によるピークは

GRACE 上では 1/10 程度の大きさとなってしまっており、GRACE の空間分解能に準拠するとア
ラスカ南部・南東部の GIA 変動はほとんど見えない可能性がある。この点を考慮すると、やはり
当地域での GIA 変動による重力変化の定量化には地上重力観測が有効であったと言える。

5. 重力変化と上下変動の比率に関する議論
本章では、これまでの成果に基づいて、アラスカ南東部における重力変化と上下変動の比率につ
いての議論を行った。ここでは重力変化と上下変動の比率として、raw ratio、total ratio、viscous

ratio、elastic ratio の 4 種類を各重力点ごとに観測値とモデル計算値からそれぞれ計算して、その
傾向について議論した。得られた知見としては以下の通りである。(1) total ratio の観測値は平均
して約 −0.173 μGal/mm であり、アラスカ南東部の変動はそのほとんどが粘弾性変形が支配的で
あることが予測可能である。(2) アラスカ南東部の viscous ratio は観測値で平均約 −0.168 ± 0.029

μGal/mm であり、スカンジナビア半島や南極といった他の GIA 域 (−0.15 ∼ −0.16 μGal/mm)
と比較して絶対値が大きく、観測およびモデル計算の双方で明確に地域差があることが初めて確認
された。(3) 経験的に弾性・粘弾性変形の寄与を分離する手法は、PDIM による万有引力効果が小
さい場合のみ適用可能である。以上の議論では氷河域における地上重力観測の有効性を示すほか、
各地域で都度比率について議論を行うことや PDIM による万有引力効果を定量化することなどの
必要性も示唆され、他の氷河域への応用の際にも有用な結果であると言える。

6. 議論
本章では、全体の議論として、これまでの本研究および先行研究のモデル構築で用いられてきた
仮定の妥当性を検証し、モデル精度の向上について議論した。ここでは、地球モデルの圧縮性、現
代氷河融解の不確定性、上部マントルの層厚の推定について検証した。
まず、地球モデルの圧縮性についてである。本研究のモデル計算は先行研究と同様に全て非圧縮
条件下で行われた。しかしながら、Tanaka et al. (2015) では圧縮条件下では非圧縮条件下に比べ
て 27 % で計算結果が大きくなることを示し、粘性構造推定にも影響を与えることを示した。これ

3

を受けて本研究でも圧縮条件下での地下粘性構造推定を簡易的に行ったところ、圧縮条件下での粘
性パラメータは非圧縮条件下の場合と比べて、リソスフェアの厚さで 10 %、上部マントルの粘性
率で 25 % 増加した。この結果は Tanaka et al. (2015) の結果とも整合的なものであった。また、

χ2 値の分布において双方の誤差楕円を図示したところ、両者の範囲はかぶっておらず、圧縮性を
考慮したより現実に近い地球モデルで考える際にはパラメータ推定にこのような系統誤差が含まれ
ていることが分かった。
次に、氷河融解の不確定性についてである。アラスカ南東部では現代氷河の融解速度が加速して
いる可能性が指摘されている。そこで本研究では PDIM モデルに対してスケールファクターを導
入し、0.5 ∼ 2.0 の範囲でスケールファクターを変化させた場合に、そのそれぞれで粘性構造の推
定結果がどのように変わるのかを検証した。結果として、リソスフェアの厚さおよび上部マントル
の粘性率はスケールファクターの変化に対して、ある程度の変化はあるもののいずれも誤差範囲内
の変動であると結論付けた。これは地上重力測定が現代の氷河融解量の変化に対して現状殆ど感度
を持っていないことを意味しており、今後の観測の継続による改善が期待される。
最後に上部マントルの層厚の推定についてである。3 章の地下粘性構造推定は、先行研究に従い、
リソスフェアの層厚 (d) と上部マントルの層厚 (D) に対する d + D =220 km という拘束条件の下
で行われていた。そこで本研究では d、η 、D の 3 変数を未知数とした、三次元のグリッドサーチ
を行い、上記の仮定の妥当性等を検証した。三次元グリッドサーチの結果、各パラメータは d =

60 km、η = 2.5 × 1019 Pa s、D = 320 km と推定された。このときの誤差範囲はパラメータ数が
増えた影響で 3 章の結果よりも広がる傾向にあった。加えて、D の誤差楕円の上限値は D の探索
範囲を超えており、実質的に誤差範囲を決定できない状態であった。これは上部マントルの下端が
そもそも深い場所にあるためであり、現状の観測点数やアラスカ南東部の GIA の規模では、明確
に決まらないということが大きな要因として考えられる。このように、三次元で最適パラメータを
探索した場合、D は 3 章の前提条件であった d + D =220 km には従わないような最適値を取る傾
向にあることが明らかとなり、D の最適値もまた不確定性が高いものであることが分かった。

7. 結論
以上のように本研究では地上重力観測データからアラスカ南東部の GIA・PDIM を統合的なモ
デルとして定量化することに取り組み、さらにそれらの成果を用いて今後の氷河域における測地観
測、特に地上重力観測にとって有益となり得る定量的な議論を行った。これらの取り組みは上述し
たように一定の成果を収めたものの、一方で、モデル構築においていくつかの不確定性が存在して
おり、今後の継続的な観測やモデルの洗練化が必要とされる。将来的にこれらの課題が解決されれ
ば、他の氷河域においても地上重力観測はその有効性を大いに発揮できると考える。 ...

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