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大学・研究所にある論文を検索できる 「M2マクロファージの上皮内蓄積は腫瘍性食道扁平上皮と強く相関する」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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M2マクロファージの上皮内蓄積は腫瘍性食道扁平上皮と強く相関する

Ichihara, Yumi 神戸大学

2021.09.25

概要

【背景・目的】
食道癌は世界的に第 6 位の死亡原因であり、2020 年には 544076 人が死亡している。食道癌は予後不良の疾患で、早期発見、早期治療が重要となり、内視鏡的治療が有用である。扁平上皮癌と腺癌は食道上皮性悪性腫瘍の一般的な組織型で、扁平上皮癌は通常重層扁平上皮から low-grade、high-grade の扁平上皮内腫瘍を経て浸潤性扁平上皮癌へ段階的に進展する。その遺伝的、エピジェネティックな異常やリスク因子は解明されつつあるが、前駆病変の病理学的、分子的特徴は未だ不明な部分が多い。マクロファージは腫瘍微小環境で二極に分化し、免疫を賦活する M1 型と腫瘍促進する M2型が存在し、腫瘍関連マクロファージ(tumor associated macrophage:TAM)と呼ばれ、腫瘍促進能を有する M2 型が広く知られている。また、TAM には M2 マクロファージのマーカーとして CD163 や CD204 が発現する。申請者の研究室では、これまで、M2 型マーカーを発現する TAM は食道扁平上皮癌(ESCC)の悪性度と相関することを報告してきたが、初期 ESCC 発癌におけるマクロファージの役割は未だ不明である。本研究では、 ESD 切除された食道上皮内腫瘍性病変と、外科的切除標本における M2 マクロファージ浸潤の形態学的相関を明らかにすることを目的として以下の解析を行った。

【材料と方法】
神戸大学附属病院にて ESD 切除された上皮内癌 38 病変と、外科的切除された 5 例の浸潤性 ESCC を解析対象とした。それぞれ 3 mm と 5 mm 間隔の全割標本を作成し、ホルマリン固定・パラフィン包埋について免疫組織化学を行い、組織学的、臨床病理学的評価を行った。上皮内マクロファージは基底膜上に存在する CD68、CD163 あるいは CD204 陽性細胞とした。上皮内癌 ESD 検体では、CD68、CD163、CD204 陽性上皮内マクロファージを計測し、腫瘍性あるいは非腫瘍性上皮単位長あたりの陽性細胞数を計測し、上皮内マクロファージ平均数を算出して統計解析を行った。外科的切除された食道癌における CD204 や CD163 陽性細胞は上皮区画 5 mm 間隔ごとに計測し、上皮内マクロファージ分布密度図を食道切除全域にてプロットした。続いて食道扁平上皮内腫瘍、上皮内癌と非腫瘍性上皮の各ユニット間で計測されたマクロファージの有意差を統計解析した。すべてのマクロファージ計測は独立して 3 回実施した。

【結果】
免疫組織化学の結果、ESD 切除 38 病変において、腫瘍性食道扁平上皮にはマクロファージの高い浸潤が認められた。上皮内癌単位長あたりの CD68、CD163 及び CD204 陽性マクロファージ数は、非腫瘍性上皮と比べると有意に高いことが確認された。

5 例の ESCC 手術検体では、5 例中 4 例、すなわち症例 1, 2, 4, 5 において上皮内癌と扁平上皮内腫瘍での CD204 蓄積数は非腫瘍性上皮と比べて統計的に有意な相関が得られた。症例 1 では浸潤癌部以外の離れた領域で高値のマクロファージ数と上皮内癌の存在が確認された。症例 2 でも同様にマクロファージ高値の部分に扁平上皮内腫瘍が見いだされた。症例 3 では浸潤癌部以外の離れた領域の初回診断時に指摘されていなかった部分で、マクロファージ浸潤数の高い形態学的に増殖性変化の強い病変が 確認された。症例 4 でも全体的に病変が散在しており、浸潤癌以外の離れた場所では 初期診断時に上皮内癌しか指摘のなかった部分で、上皮内癌と扁平上皮内腫瘍が全体 的に散在し上皮内マクロファージも同様に一致して再確認された。症例 5 では、浸潤 癌周囲に上皮内癌が存在し、そこから少し離れた部位に扁平上皮内腫瘍が認められた。また、同様に CD163 分布図を作成した結果、分布パターンは CD204 とほぼ同じ傾向を 示していたが、症例 2 以外は、全般的に CD163 の方がマクロファージ蓄積数は高い傾 向があった。加えて、症例 5 における遠位側1区画のみ CD163 数が高値で、形態学的 には上皮内腫瘍が確認された。

【考察】
これまで TAM は ESCC 以外にも、肺扁平上皮癌、子宮頸癌、頭頚部扁平上皮癌における臨床病理学的な検証において予後不良と相関することが報告されている。子宮頸部上皮内腫瘍では、CD68 陽性マクロファージ数高値は、腫瘍進展と強く相関していたことが確認されている。また、舌白板症上皮内 CD163 陽性マクロファージ数高値も、高度異形成という過剰 Ki-67 発現、サイトケラチン 13 欠損と関連しており、浸潤性扁平上皮癌には有意な数で進展するという報告がなされている。近年、early-stage の ESCC において CD163 陽性マクロファージ数が、病変内微小血管密度増大による新生血管と相関するという報告もある。

本研究では、ESD 切除病変から上皮内マクロファージ浸潤数、特に M2 マーカーを発 現しているマクロファージについて非腫瘍性扁平上皮との比較を組織学的に解析し た。ESCC 切除標本では 5 例中 4 例において、M2 マクロファージの上皮内蓄積は、上 皮内癌と扁平上皮内腫瘍との間で、統計的に有意な相関が示されたことが確認された。症例 3、4 における上皮内 CD204 陽性マクロファージ数と症例 5 における CD163 陽性 マクロファージ数が高値を示す粘膜内の組織病理学的再検索では、初期診断にて指摘 されなかった上皮内の腫瘍性増殖が明らかになった。本研究におけるこれらの発見は、マクロファージが初期食道扁平上皮発癌においての何らかの生物学的役割があるこ とを示唆し、マクロファージが発癌初期段階から食道癌と関与していると考えられる。

M2 形質を持つ TAM は成長因子やケモカイン分泌を介して癌細胞増殖、運動能亢進に寄与し、共培養実験で、サイトカインに活性化されたマクロファージが、IL6 とp38MAPKシグナルの誘導と共に、不死化食道扁平上皮細胞株の増殖と遊走能促進を持つと報告されている。本研究で、初期食道増殖性病変内のマクロファージは、その進展において生物学的な役割に関与していることが示された。前腫瘍性食道扁平上皮へのマクロファージ動員の誘因に関して、発癌物質等による上皮細胞傷害と、それに伴う傷害シグナルが関与する可能性についての報告がある。エタノール摂取により Aldh2 ノックアウトマウス食道扁平上皮内にはマクロファージの浸潤が増加し、p38MAPK は癌増殖期に DNA 損傷ストレス応答に関与していることが知られている。DNA 損傷シグナルを受けたマクロファージは、前腫瘍性増殖とドライバー遺伝子の変異へ導く DNA 複製ストレス蓄積を促進させることが想定される。

【結論】
以上、本研究ではマクロファージの上皮内蓄積はヒト腫瘍性食道扁平上皮と強く相関することが示された。ESCC 進展における上皮内 M2 マクロファージの詳細な生物学的役割を明らかにするために、更なる分子病理学的分析が必要である一方、上皮内 M2マクロファージの検出は、病理組織学的な食道粘膜病変リスク評価の補助となることが期待される。

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