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大学・研究所にある論文を検索できる 「KCNJ15 Expression and Malignant Behavior of Esophageal Squamous Cell Carcinoma」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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KCNJ15 Expression and Malignant Behavior of Esophageal Squamous Cell Carcinoma

中村, 俊介 名古屋大学

2021.07.16

概要

【緒言】
 食道扁平上皮癌は悪性度の高い疾患である。食道粘膜下層の豊富なリンパ管網により早期にリンパ節転移をきたし、さらに解剖学的に大動脈、気管などの重要臓器への直接浸潤により根治切除術が困難となる場合も多い。そのため食道扁平上皮癌に対しては集学的治療が必要であり、進行度に応じて術前化学療法、手術療法、化学放射線療法が選択される。個々の患者において再発や予後を予測し、最適な治療法を選択することは食道扁平上皮癌患者の予後改善に寄与すると考えられ、正確に悪性度を反映するバイオマーカーが求められる。イオンチャンネルは様々な癌腫において異常発現することから、癌バイオマーカーの候補分子のひとつと考えられている。なかでもカリウムチャネルは、その機能として細胞膜電位、カルシウムシグナル、細胞体積を制御し、癌細胞の接着、遊走、アポトーシスに影響を与えることで固形癌の進展に関与すると報告されている。 Potassium Voltage-Gated Channel Subfamily J Member 15 (KCNJ15)は内向き整流性カリウムチャネルをコードする遺伝子であるが、消化器癌における役割は不明である。本研究では食道扁平上皮癌における KCNJ15 の機能と、組織中発現度のバイオマーカーとしての有用性を検討することを目的とした。

【方法】
 13 種の食道扁平上皮癌細胞株と食道上皮由来の非腫瘍性細胞株を用いて、KCNJ15 mRNA 発現量を定量的 PCR 法で調べ、PCR array 法により解析した上皮間葉転換関連 84 遺伝子の発現量との相関性を解析した。siRNA 法による KCNJ15 のノックダウンと KCNJ15 発現ベクター導入による強制発現による遺伝子発現調節を行い、食道扁平上皮癌細胞株の増殖能、遊走能、浸潤能を評価した。200 例の食道扁平上皮癌切除検体の癌部組織中の KCNJ15 mRNA 発現を定量 PCR 法で調べ、臨床病理学的因子および予後との相関性を検討した。さらに、免疫組織学的染色法で KCNJ15 蛋白発現度を調べ、同一症例での組織中 mRNA 発現量との相関性を解析した。

【結果】
 KCNJ15 mRNA 発現量は食道癌細胞株の分化度に関わらず多様な発現レベルを示した。PCR array の結果、上皮間葉転換関連遺伝子である collagen type III alpha 1 chain (COL3A1)、jagged canonical Notch ligand 1 (JAG1)、F11 receptor (F11R)の発現量が KCNJ15発現と正の相関性を示した (Figure 1a)。遺伝子発現調節による食道扁平上皮癌細胞株の機能解析では、KCNJ15 ノックダウンにより細胞増殖能が有意に低下する一方で (Figure 1b)、KCNJ15 強制発現により細胞増殖能は有意に上昇した (Figure 1c)。さらに、 KCNJ15 ノックダウンにより細胞浸潤能および遊走能が有意に低下した (Figure 2)。
 食道扁平上皮癌切除検体 200 例の癌部組織中 KCNJ15 mRNA 発現量を調べ、Receiver operating characteristic 曲線分析により求めたカットオフ値を用いて高発現群・低発現群の 2 群に分けて解析した。臨床病理学的因子との相関解析において、癌部 KCNJ15 mRNA 高発現群では 65 歳以上の高齢者、リンパ節転移の頻度が有意に高かった。癌部 KCNJ15 mRNA 高発現群は低発現群と比較して術後全生存期間、術後無再発生存期間ともに有意に短縮していた (5 年全生存率, 51% vs 75%, P = 0.0002; 3 年無再発生存率, 48% vs 65%, P = 0.0012; Figure 3a)。術前化学療法の有無によるサブグループ解析では、その有無に関わらず、癌部 KCNJ15 mRNA 高発現群は予後不良であった (Figure 3b)。術後全生存期間に対する多変量解析では、癌部 KCNJ15 mRNA 高発現 (hazard ratio [HR] 2.34, 95% confidence interval [CI] 1.41–3.98; P = 0.0008)はリンパ管侵襲とともに独立した予後リスク因子であった。初回再発形式を調べたところ、癌部 KCNJ15 mRNA高発現群では血行性再発が有意に高頻度に認められた (P = 0.0260; Figure 3c)。免疫組織学的染色法により食道扁平上皮癌組織中 KCNJ15 蛋白発現度を陰性、弱陽性、強陽性の 3 段階に判定した。KCNJ15 蛋白発現度の上昇に伴い、 組織中 KCNJ15 mRNA 発現量も上昇する傾向を認めた (Figure 4)。

【考察】
 本研究では KCNJ15 の遺伝子発現調節を行い、KCNJ15 が食道扁平上皮癌細胞株の悪性形質に関与していることを示した。また組織中 KCNJ15 mRNA 高発現は食道扁平上皮癌切除後の予後不良因子であり、KCNJ15 の予後予測バイオマーカーとしての有用性が示唆された。
 KCNJ15 は 22 番染色体 21q22.13 に位置し、内向き整流性カリウムチャネルをコードしている。これまで KCNJ15 に関して消化器癌における役割を示した報告はなく、食道扁平上皮癌における機能や発現の意義については不明であった。
 上皮間葉転換は癌細胞の悪性形質、特に浸潤、転移の過程において重要な役割を担うとされる。上皮系細胞が間葉系細胞の表現型へと転換する現象であり、これを経て腫瘍細胞は、血管内へ浸潤し遠隔転移を形成すると考えられている。我々は PCR array法により食道扁平上皮癌細胞株の KCNJ15 と上皮間葉転換関連分子の発現を網羅的に解析し、COL3A1、JAG1、F11R の発現が KCNJ15 発現と正の相関を示していることを発見した。COL3A1、JAG1、F11R はいずれも phosphoinositide 3-kinase/protein kinase B (PI3K/Akt)経路への干渉が報告されており、この結果から食道扁平上皮癌において KCNJ15 が PI3K/Akt 経路を介して癌の進展に関与している可能性があるものと考えられた。
 現在、Stage II-III 食道癌に対しては術前化学療法を行うことが標準治療となっている。治療介入によってバイオマーカー発現が影響を受けることを考慮し、術前化学療法の有無によるサブグループ解析を実施した。その結果、KCNJ15 mRNA 高発現は術前化学療法の有無に関わらず予後不良であった。このことは KCNJ15 の予後予測のバイオマーカーとしての汎用性を示している。
 また、食道扁平上皮癌原発組織中の KCNJ15 蛋白発現解析では、蛋白発現度の増加に伴い、KCNJ15 mRNA 発現量も上昇する傾向を認めた。免疫組織学的染色法は日常診療に普及した簡便な手技であり、術前内視鏡検査による生検組織や過去に保存されたホルマリン固定パラフィン包埋組織を対象として解析可能である。本研究の結果から、KCNJ15 発現は免疫組織学的染色法でも評価可能であることが示された。
 KCNJ15 発現をどのように臨床応用することが可能であるかについて考察する。内視鏡検査で得た組織検体中の KCNJ15 が高発現であった症例については、臨床病期のみで適応を判断せずに、積極的に術前化学療法を考慮する。術前化学療法施行群において KCNJ15 mRNA 高発現群は従来の化学療法を施行したにも関わらず予後不良であったことから、現在の標準治療である 5-fluorouracil/cisplatin 療法より強力なレジメンとして 3 剤併用療法が選択肢となり得る。また予後改善のためには、再発リスクに応じた術後フォローアップを計画することも重要である。KCNJ15 高発現群は再発高リスク症例として術後定期フォローアップ検査を密に実施することや、遠隔転移をより高感度に検出するために骨シンチグラフィや F-fluorodeoxyglucose positron emission tomography (FDG-PET)を経過に組み込んでいくことを考慮する。

【結語】
 KCNJ15 は食道扁平上皮癌細胞の悪性形質に関与し、その組織中発現は術後予後予測バイオマーカーとして有用であることが示唆された。

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