Activation of PPARγ in bladder cancer via introduction of the long arm of human chromosome 9
概要
令和 4 年 3 月
清水龍太郎
主
学位論文審査要旨
査
岡
田
太
副主査
武
中
篤
同
久
郷
裕
之
主論文
Activation of PPARγ in bladder cancer via introduction of the long arm of human
chromosome 9
(膀胱がんにおいてヒト9番染色体長腕の導入でPPARγが活性化する)
(著者:清水龍太郎、大平崇人、柳生拓輝、弓岡徹也、山口徳也、岩本秀人、森實修一、
引田克弥、本田正史、武中篤、久郷裕之)
令和4年
Oncology Letters
23巻
92
参考論文
1.Sarcopenia is associated with survival in patients with urothelial carcinoma
treated with systemic chemotherapy
(サルコペニアは全身化学療法を受けた尿路上皮がん患者の生存期間と関連する)
(著者:清水龍太郎、本田正史、寺岡祥吾、弓岡徹也、山口徳也、川本文弥、岩本秀人
森實修一、引田克弥、武中篤)
令和4年
International Journal of Clinical Oncology
27巻
175頁~183頁
学
位
論
文
要
旨
Activation of PPARγ in bladder cancer via introduction of the long arm of human
chromosome 9
(膀胱がんにおいてヒト9番染色体長腕の導入でPPARγが活性化する)
膀胱がんは、大まかにはluminal typeとbasal typeの2つの分子サブタイプがあり、それ
ぞれ乳頭状腫瘍と結節状腫瘍を形成する傾向がある。いずれのサブタイプも発生初期に認
められる共通のイベントとして、高頻度なヒト9番染色体長腕(9q)のloss of
heterozygosity(LOH)が報告されている。このことより、9q上には膀胱がん発生過程に関
与する重要な遺伝子(群)の存在が示唆されているが、9q領域に膀胱がんに関わる主要な
がん遺伝子・がん抑制遺伝子は明らかにされていない。今回、著者らの染色体工学技術を
使用し9qのLOHにおける意義を検討した。
方
法
ヒト膀胱がん細胞株に9qを導入し、形態変化および、分子サブタイプ特異的な遺伝子発
現動態解析を行った。luminal typeの特異的遺伝子マーカーであるFOXA1, GATA3, PPARG
発現レベルの変化をRT-qPCR、Western blottingで解析した。さらに、増殖能、遊走能の変
化をProliferation assay、Wound healing assayで解析した。
結
果
(1) Basal type膀胱がん細胞株(SCaBER)に微小核細胞融合法(MMCT)を用いて、9qを
導入したクローン(SCaBER#9q)を獲得した。コントロールとして4番染色体を導入
したクローン(SCaBER#4)を獲得した。
(2) 親株、SCaBER#4と比較して、SCaBER#9qで細胞の巨大化と扁平化、増殖能、遊走能の
低下が認められた。
(3) SCaBER#9q細胞において、RT-qPCRでluminal typeの遺伝子マーカー(FOXA1、GATA3、
PPARG)の発現レベルが上昇していた。
(4) Western blotting解析ではPPARGにコードされる核内受容体タンパクであるPPARγ
の発現が有意に上昇していた(3.0~4.4倍)。PPARγが制御するがん抑制遺伝子で
あるPTENの上昇も確認した(1.5〜1.7倍)。
考
察
本研究により、9q領域にPPARγを制御する遺伝子(群)が存在する可能性が示唆された。
Choiらは筋層浸潤性膀胱がんの遺伝子発現プロファイリングを行い、basal subtypeと
luminal subtype(さらにluminalはregular luminalとp53-likeに分類される)に分類できる
と報告した。basal typeは、luminal typeと比較して侵攻性であり生存期間も短いとされ
る。両typeにおいて発がん初期の共通のイベントとして高頻度の9qのLOHが報告されている
がその意義は明らかとなっていない。本研究では9qをヒト膀胱がん細胞株(SCaBER)に導
入することにより、PPARγとPTENの発現が上昇し、増殖能および遊走能が低下する事を明
らかにした。これらの結果は、PPARγがPTENの発現を誘導することにより、がんの増殖、
転移、浸潤を抑制するというこれまでの報告を支持する。今後、PPARγを制御する9q上の
遺伝子が明らかとなれば膀胱がんの発生メカニズムや、新たな治療標的となる分子機構が
明らかとなる可能性がある。
結
論
本研究は9q上にPPARγを制御する遺伝子(群)が存在する事を示唆するものであり、9q
のLOHが膀胱がんの発症に及ぼす機能的意義について重要な情報を提供すると考える。