Hénon type elliptic equations with critical Sobolev growth
概要
審査の結果の要旨
氏
名
高橋
和音
論文提出者高橋和音は,臨界ソホレフ指数2∗ ≔ 2𝑁/(𝑁 − 2), (𝑁 ≥ 3), を持つ,次の
二つの Dirichlet 問題を考察した:
(1)
(2)
−𝛥𝑢 = 𝜆𝛹𝑢 + |𝑥|𝛼 𝑢2
𝑝−2
2
− (𝑎 + 𝑏(∫𝛺|𝐷𝑢|2 𝑑𝑥 )
∗ −1
in 𝛺,
) 𝛥𝑢 = 𝛹𝑢𝑞−1 + |𝑥|𝛼 𝑢2
∗ −1
in 𝛺.
ここで,𝛺 ⊂ 𝐑𝑁 は,単位球に含まれ,𝑥0 ≔ (1,0, … ,0)で接し,𝑥0 で内部球条件を満たす
境界が区分的にC1 である領域とする.また𝜆 > 0と𝛼 ≥ 0は定数,𝛹は有界な非負関数と
する.(1)は Hénon 方程式の一般化,(2)は Kirchhoff 方程式の一般化である.臨界ソホ
レフ指数を持つ方程式の正値解の存在問題は,山辺の問題などが動機となり,BrézisNirenberg の手法を契機に約 40 年近く研究されている.その概要は,対応する汎関数
は PS 条件を満たさないが,峠のエネルギーが Sobolev 定数を用いて表示されるある定
数未満となる場合はコンパクト性が回復し,正値解の存在が証明されるというものであ
る.峠のエネルギーと上記の定数の差は非常に小さく,それらの精密な評価が議論の鍵
である.両問題は,|𝑥|𝛼 が𝛺上で最大値をとらないため正確な評価は非自明で,2012 年
まで先行研究が存在しなかった.
(1)は,𝛼 > 0が小さく𝛹が定数である場合,𝑁 ≥ 7かつ𝛺が滑らかな有界領域であるとき
と𝑁 ≥ 5かつ𝛺が単位球であるときに,符号変化解の存在が知られていた.論文提出者
は下記の条件の下で正値解の存在を示した:𝜆1 を Dirichlet 境界条件下における固有値
問題−𝛥𝜙 = 𝜆𝛹𝜙の第一固有値とする.𝑁 ≥ 4,0 < 𝜆 < 𝜆1 とし,さらに次を満たす𝑚 > 0,
𝛽 ≥ 0と開球𝐵 ⊂ 𝛺が存在するとする:𝑥0 ∈ 𝜕𝐵, 𝛹0 ≤ 𝛹 ≤ 1 in 𝛺. ここで,
𝛹0 (𝑥) = { 𝑚|𝑥 − 𝑥0
0
|𝛽 𝑥 ∈ 𝐵,
𝑥 ∈ 𝐵𝑐 .
このとき,(1)は𝛼 > 0が小さいときに正値解が存在する.
(2)は,𝑝 = 4,𝛼 = 0,𝛹 = 𝜆の場合が主に研究されてきた.この場合に限っても非局所
項を処理する技巧が必要となるため,正値解の存在は𝑁 = 3かつ2 < 𝑞 < 2∗ の場合,𝑁=4
かつ2 ≤ 𝑞 < 2∗ の場合,その他限られた場合のみ知られていた.論文提出者は既存の結
果を大きく拡張した次の条件の下で正値解の存在を示した.主結果である𝛼 > 0の場合
を述べる: 𝑁 = 3かつ4 < 𝑞 < 2∗ または𝑁 ≥ 4を仮定し,次を満たす𝑚 > 0と𝛽 ≥ 0と開
球𝐵 ⊂ 𝛺の存在を仮定する:𝑥0 ∈ 𝜕𝛺, 𝛹0 ≤ 𝛹 in 𝛺.このとき(2)は𝛼 > 0が小さいとき正
値解が存在する.
両問題とも証明に峠の定理が用いられるが,新規性が 2 点挙げられる.1 点目は,エ
ネルギー評価を得るためのテスト関数を工夫した点である.臨界 Sobolev 指数を持つ汎
関数に,𝜀 → 0のとき 𝛿関数に近づくよう加工した Talenti 関数の列を代入すると欲し
い評価が得られることはよく知られる.論文申請者は,加えて中心が移動し𝑥0 へ近づく
関数族を構成した.このアイデアは数年前から存在していたが,先行研究は荒い評価に
とどまっており,定理に技術的な仮定を要していた.論文提出者はパラメータに応じ関
数族を調整し,解が存在する次元を𝑁 ≥ 4まで下げた.一方,𝑁 = 3では異なる現象が存
在するので,この結果は最良と考えられる. 2 点目は,エネルギーの表示についてであ
る.前述の手法の峠のエネルギー評価の際,ファイバリング写像を経由するが,先行研
究はその具体的表示に依存していた.(2)については,𝑝 = 4かつ𝑁 = 3の場合,𝑝 = 4か
つ例外を除いた𝑁 = 4の場合,その他の限られた場合にしか,十分な情報が得られてい
なかった.論文提出者は,ファイバリング写像の代数的な表示を経ずに必要なエネルギ
ー評価が得られる手法を考案し,既存の結果を拡張した.同種の方法が同時期に ZengTang により独立に考案されたが,論文提出者の手法はより弱い条件下にも有効で
Hénon 型𝛼 > 0にも適用できる.ファイバリング写像の表示が障害となり正値解が得ら
れていない方程式は数多く存在するので,応用が期待される.これらの楕円型方程式と
変分法の研究への寄与は高く評価できる.
よって論文提出者高橋和音は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資
格があると認める.