Some Aspects of Boundary and Defect Conformal Field Theories
概要
論文審査の結果の要旨
氏名
小林 望
本論文は5章からなる。第1章のイントロダクションでは、研究の背景と動機づけを説
明し、場の量子論における繰り込み群フローと、紫外スケールから赤外スケールへの繰り
込み群フローで単調減少する C 関数の存在定理を簡潔に紹介している。第2章では共形
場理論の基本的な性質のまとめと、境界や欠損がある場合の C 関数について、既知の事
実と詳細な計算に必要となる基本関係式を与えている。第3章では、境界のある共形場理
論の具体的な模型によってあからさまに C 関数を計算している。特に相互作用のある非
自明な模型のラージ N 極限を考えることによって解析的に表式を書き下せる状況を扱っ
ており、境界があるために複雑な相構造が発現することが、本研究により見出されてい
る。また C 関数と関連する物理量に関して、従来成り立つと予想されていた関係式が満
たされない反例となっていることも確認した。第4章はより一般性のある C 関数の候補
として、これまでに提唱されている球殻自由エネルギーと欠損エンタングルメントエン
トロピーに着目して、欠損のある共形場理論やホログラフィック対応により様々な具体
例を取り上げ,これらの C 関数の候補を紫外極限と赤外極限でそれぞれ評価している。
その結果、自由エネルギーは全ての具体例に対して C 関数としての条件を満たしている
一方で、エントロピーは C 関数として適合しない例があることが分かった。本研究では
球殻自由エネルギーと欠損エンタングルメントエントロピーの間に成り立つ一般的な関
係式を導出し、両者の振る舞いの差異がどのような起源によるものなのか明らかにした。
第5章は本研究のまとめと展望にあてられている。
なお、本論文第3章は Christopher P. Herzog 氏、第4章は西岡 辰磨氏、佐藤 芳紀氏、
渡邊 賢人氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となってアイデアを出し解析計算
を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。したがって、博士(理学)
の学位を授与できると認める。