リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「Lamin B receptor plays a key role in cellular senescence induced by inhibition of the proteasome」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

Lamin B receptor plays a key role in cellular senescence induced by inhibition of the proteasome

圓 敦貴 横浜市立大学

2020.03.25

概要

1. 序
細胞老化は、動物組織を構成する体細胞が種々のストレスに曝された際に、分裂能力を不 可逆的に喪失する現象である。老化細胞は増殖刺激に応答せず細胞分裂はしないが、代謝活 動を行い、長期間に渡り生存できる。細胞老化は、細胞の異常増殖を防ぐことで、短期的に はがん化抑制機構として機能する。一方、老化細胞は特徴的な遺伝子発現パターンの変化を 示し、炎症性サイトカイン等の分泌タンパク質を高発現することが知られる。この現象は Senescence-Associated-Secretory-Phenotype (SASP)と呼ばれ、がんや加齢性疾患の発症・ 進行に寄与する。加齢に伴い、生体内に老化細胞は蓄積し、老化細胞を除去すると、老化で 見られる様々な表現型(認知症、筋肉の衰え、各種臓器の機能低下)が改善される。また、 SASP 因子には、ガンの生存や増殖を促進するものも含まれ、がん治療において老化細胞に よるガン微小環境の形成が問題視されている。したがって、抗老化およびがん治療において、細胞老化の制御が新たな標的になりつつある。ただし、その分子機構に関しては、多くの仮 説が提唱されているが、いまだ統一的な結論は得られていない。

細胞老化において、ヘテロクロマチンの変化とタンパク質の過剰な蓄積は普遍的に観察される。当研究室では、細胞をプロテアソーム阻害剤で処理し、タンパク質分解を阻害すると、ヘテロクロマチンの変化を伴う細胞老化が誘導されることを報告している(Ukekawa et al. BBB. 2004)。また、タンパク質合成阻害剤によるタンパク質の部分的な合成制限を行うと、細胞老化が抑制されることも報告してきた(Takauji et al. Sci Rep. 2016)。これらの結果から、細胞内でのタンパク質の過剰な蓄積が、ヘテロクロマチンの変化と細胞の不可逆的な増殖停止を誘導する可能性が示唆されている。ヘテロクロマチンの変化は、大規模な遺伝子発現の変化を引き起こすことが予想されるが、それは老化細胞が示す、不可逆的な増殖停止や SASP 因子の発現に寄与していると考えられる。しかし、細胞老化におけるヘテロクロマチンの役割は十分には明らかにされていない。

ヘテロクロマチンの大部分は、核膜タンパク質との相互作用を介して核膜内側に局在している(図 1)。ヘテロクロマチンを核膜にアンカーする核膜タンパク質は多数知られるが、中心的役割を果たす核膜タンパク質は lamin A/C と lamin B receptor(LBR)である。両者のノックアウトにより核膜近傍のヘテロクロマチンが消失することが報告されている(Solovei et al. Cell. 2014)。LBR は、8 回膜貫通型の核膜タンパク質である。N 末端領域でクロマチンに直接結合するほか、 lamin B や heterochromatin protein 1α と相互作用し、ヘテロクロマチン形成に関与する。LBR は核形態、遺伝子発現、細胞分化に重要な役割を果たすことが知られる。LBR の変異の多くは胎生致死をもたらし、発生の正常な進行に不可欠な機能を持つと考えられている。一方で、細胞老化におけるLBR の役割は不明である。

図 1. 核膜構造

これまでの研究で、正常細胞とがん細胞を用いて、様々な方法で細胞老化を誘導し、共通して変化を示す核膜タンパク質を探索した。そして、LBR が細胞老化に伴い、核膜への局在を失い、タンパク質レベルで減少することを見出した。第1章では、タンパク質蓄積による細胞老化誘導系における LBR の役割、および LBR の制御メカニズムの解明を目標にした。第2章では、LBR の機能低下が、SASP 遺伝子の発現に与える影響を調べた。

2. 実験方法
細胞培養
ヒト子宮頸がん由来 HeLa 細胞は 5%仔牛血清を含む MEM 培地、HeLaT-LBR 細胞は 7%牛胎児血清と 0.4%グルコースを含む DMEM 培地、ヒト胎児肺由来線維芽細胞 TIG-7 は 10%牛胎児血清を含む DMEM 培地で培養した。プラスティックシャーレに細胞を播種し、37℃、5%CO2 濃度、湿度 95%条件下で培養した。細胞老化は、100 nM の MG132 を 4-7日間、あるいは 0.6 mM のチミジンを 10 日間処理することで誘導した。

コロニー形成試験
細胞をシャーレに播種し、3 時間後 Doxycycline を添加し、翌日 MG132 を添加した。 MG132 を 4 日間処理した後、細胞をトリプシン処理し、新しいシャーレに撒きなおした。培地は 3-4 日毎に交換した。10-14 日後にコロニーを Coomassie Brilliant Blue (C
BB)で染色した。
タンパク質含量の測定
細胞破砕液のタンパク質量を Bio-Rad Protein Assay Kit (Bio-Rad) あるいは PierceTM BCA Protein Assay Kit で測定し、細胞数で補正した。

ヒト細胞への遺伝子導入
無血清 DMEM 培地で 1×106cells/90 μl の濃度に調製した細胞懸濁液 90 μl とベクターを 10 μg 含む溶液を混合した。混合液をキュベットに移し、電気パルスを印可し、遺伝子導入細胞として各実験に用いた。

クロマチン免疫沈降
シャーレに播種した細胞を 1% formaldehyde で 10 分間処理し、タンパク質と DNA の架橋形成を行った。細胞を回収し、超音波処理により、DNA のせん断を行った。抗 LBR 抗体あるいは抗 IgG 抗体を結合させたマグネチックビーズと DNA 断片を一晩反応させ、LBRと相互作用するDNA 断片を回収・精製した。

3. 研究結果
第1章 プロテアソーム阻害剤を用いた細胞老化の誘導における LBR の役割
1) HeLa 細胞を用いたプロテアソーム阻害剤による細胞老化の誘導
プロテアソームは細胞内の主要なタンパク質分解機構の一つであり、プロテアソームの活性低下はタンパク質の分解を妨げ、タンパク質の蓄積を誘導すると考えられる。そこで、プロテアソーム阻害剤の MG132 を用いて、タンパク質の過剰な蓄積が HeLa 細胞を老化へ誘導するか調べた。HeLa 細胞を低濃度(100 nM)の MG132 で処理したところ、細胞は増殖を停止し、細胞老化マーカーである SA-β-galactosidase 染色の陽性細胞率の増加、細胞老化関連遺伝子 (IL-8、MMP-1、SERPINE1)の発現の上昇を示した(図 2A-C)。したがって、MG132 は HeLa 細胞において細胞老化を誘導することが明らかになった。

2) MG132 誘導老化におけるタンパク質蓄積の役割 MG132 で処理した細胞のタンパク
質含量を調べ、MG132 処理により 細胞あたりのタンパク質含量が正常 時の約 2.5 倍に増加したことを確認 した(図 2D)。続いて、MG132 誘導 老化におけるタンパク質蓄積の役割 を調べるため、タンパク質合成阻害剤 cycloheximide (CHX) を用い、タンパク質蓄積の抑制が MG132 による誘導老化を抑制できるかを調べた。 MG132 と同時に低濃度(0.04μg/ml)の CHX を処理した細胞では、MG132によるタンパク質含量の増加は見られなくなった。その際、細胞は増殖停止を示さず、細胞老化関連遺伝子 (IL-8、MMP-1) の発現上昇も示さなかった ( 図 2E-G)。したがって、 MG132 処理によるタンパク質の蓄積が細胞老化を誘導することが示唆された。

3) MG132 誘導老化における LBR の変化
MG132 による誘導老化において、LBR の局在と発現量を免疫染色法およびウエスタンブロット解析により調べた。MG132 処理により、LBR は核膜から細胞質および核質へと局在を変化させ、発現量もタンパク質レベルで減少することが明らかになった。

4) MG132 誘導老化における LBR の役割
LBR の強制発現が、MG132 による誘導老化を抑制できるか調べた。LBR の発現に Tet- On 発現誘導システムを用い、LBR をドキシサイクリン依存的に誘導発現できる株(HeLaT- LBR)を取得した。LBR の発現上昇は、MG132 処理による細胞増殖の停止や細胞老化関連遺伝子 (IL-8、MMP-1) の発現増加を抑制することが分かった(図 3B-D)。一方、LBR の発現上昇は MG132 処理によるタンパク質含量の増加には影響を与えず、タンパク質蓄積は抑制できないことが明らかになった。

5) タンパク質の蓄積と LBR の機能低下の関係 LBR の発現上昇はタンパク質
蓄積を抑制しないことから、細胞老化に伴うLBR の機能低下はタンパク質蓄積の下流に位置する現象である可能性が考えられた。そこで、CHX によるタンパク質蓄積の抑制が、MG132 処理によるLBR の局在変化および発現低下を抑制できるか調べた。タンパク質蓄積の抑制は LBR の局在変化を抑制し、MG132 存在下でも LBR は核膜への局在を維持した(図 4A)。
その際、LBR の発現低下も抑制されていた(図 4B)。タンパク質の蓄積が LBR の機能低下を引き起こす可能性が示唆された。

6) MG132 誘導老化におけるLBR の発現低下機構の解析
MG132 による誘導老化における LBR のmRNA 量を解析したところ、 MG132 未処理の細胞との間で差が見られなかった(図 5A)。そのため、 MG132 による誘導老化では、LBR の発現量はタンパク質翻訳以降の段階で調節される可能性が考えられた。他の研究により、プロテアソームの阻害は、別のタンパク質分解機構であるリソソーム-オートファジー経路の活性化を誘導することが報告されている (Ding et al. Am J Pathol. 2007)。そこで、MG132 投与後に、オートファジー阻害剤である bafilomycin A1 ( 100 nM) を加えて培養したところ、 bafilomycin A1 は LBR の発現低下を抑制した(図 5B)。また、LBR のアミノ酸配列解析により、LBR には選択的オートファジーの標的配列 KFERQ 様モチーフが含まれることを見出した。そこで、LBR のオートファジー標的配列 QADIK (103-107)を QADAA に置換変異させた変異型 LBR の発現ベクターを作製し、MG132 処理による LBR の発現低下に与える影響を調べた。HeLa 細胞に野生型あるいは変異型 LBR を一過的に強制発現させ、MG132で処理した際の LBR のタンパク質量を解析した。野生型に比べ、変異型 LBR は MG132 処理による発現低下に抵抗性を示すことが明らかになった(図 5C)。加えて、変異型 LBR を強制発現させた正常線維芽細胞では、野生型を強制発現させた細胞に比べ、MG132 による誘導老化がより効果的に抑制された (図 5D)。

7) MG132 誘導老化における LBR の局在変化機構の解析
細胞老化におけるLBR の発現低下機構を調べるため、リソソーム-オートファジー経路の活性化要因の一つである小胞体ストレスに着目した。小胞体は核膜タンパク質である LBRの合成の場である。まず、MG132 で処理した細胞において小胞体ストレスマーカーである XBP1 と GRP78 の発現を解析したところ、両者とも有意に発現が上昇した。この際、CHXを作用させることで、小胞体ストレスマーカーの発現上昇は抑制された。タンパク質の過剰な蓄積が小胞体ストレスの要因になることが示唆された。
小胞体ストレスがLBR の局在に与える影響を調べるため、小胞体ストレスの誘導剤として知られるtunicamycin や cyclosporine A を HeLa 細胞に処理し、LBR の局在を観察した。小胞体ストレスの誘導によって、LBR の局在は核膜から細胞質や核質へと変化した。小胞体ストレスがLBR の正常な合成に影響し、LBR の局在変化およびオートファジーによる分解が引き起こされるという可能性が考えられた。

8) MG132 誘導老化におけるクロマチンの変化と LBR の関係
LBR は核膜付近のヘテロクロマチン形成に重要な役割を果たす。そのため、LBR の発現低下が細胞老化の過程で起こるクロマチンの変化に関与する可能性が考えられた。そこで、 TIG-7 細胞に野生型および変異型 LBR を発現させ、MG132 による誘導老化におけるクロマチンの変化を抑制できるかを調べた。具体的には、senescence-associated heterochromatin foci (SAHF) と呼ばれる細胞老化特異的なヘテロクロマチン形成を観察した。MG132 で老化を誘導すると、SAHF 形成を示す細胞が増加したが、野生型 LBR および変異型 LBR を発現させると減少した。次に、RNAi 法を用いて LBR をノックダウンすると、SAHF 形成を示す細胞が増加した。また、LBR が相互作用するヒストン H4 の修飾 H4K20me2 の局在を観察したところ、SAHF 形成を示す細胞では、H4K20me2 の核膜局在が減少した。以上のことから、細胞老化で見られるクロマチンの変化と LBR の発現低下は関係があ
ることが示唆された。

図 3. MG132 誘導老化における LBR の役割

図 4. タンパク質の蓄積と LBR の機能低下の関係

図 5. MG132 誘導老化における LBR の発現低下機構の解析

図 6. MG132 誘導老化のモデル図

第 2 章 LBR の SASP 遺伝子の発現制御における役割
1) LBR の発現低下が遺伝子発現に及ぼす影響
HeLa 細胞を用い、RNAi 法による LBR の発現低下を誘導し、遺伝子発現の変化をマイクロアレイ法およびリアルタイム PCR 法により解析した。LBR の発現低下は、SASP 遺伝子(IL-6, IL-8, MMP1, TGFB2, SERPINE2 等)の発現上昇を引き起こすことが分かった。

2) LBR の発現上昇が細胞老化における SASP 遺伝子の発現に与える影響
HeLaT-LBR 細胞を用い、LBR の強制発現が、過剰チミジンによる誘導老化に伴う SASP遺伝子の発現上昇を抑制するかを調べた。LBR の強制発現は、SASP 遺伝子の発現上昇を効果的に抑制した。

3) LBR と SASP 遺伝子の相互作用
LBR が SASP 遺伝子の発現を制御する機構を調べるために、クロマチン免疫沈降法を用い、LBR と SASP 遺伝子の相互作用を確認した(図 7)。抗 LBR 抗体を用い、増殖細胞および過剰チミジンで誘導した老化細胞から、LBR と相互作用する DNA 断片を回収した。SASP 遺伝子のプロモーターDNA 領域に対するプライマーを用い、リアルタイム PCR 法により、LBR 複合体に含まれるDNA を定量した。増殖細胞では、LBR は SASP 遺伝子である IL-6、IL-8、MMP1のプロモーターDNA 領域と相互作用しており、老化細胞ではそれらの相互作用が減少していることがわかった。一方、細胞内で構成的に発現している GAPDH や細胞老化関連遺伝子 p16 は、LBR との相互作用が見られなかった。以上のことから、細胞老化で見られる SASP遺伝子の発現上昇には、LBR の機能低下による遺伝子発現の脱抑制が関係する可能性が示唆された。

4) LBR の細胞質 DNA の蓄積における役割
SASP 遺伝子の活性化には、DNA ダメージ応答経路が密接に関与する。DNA ダメージは細胞質 DNA の蓄積を誘導するが、これは免疫機能に重要な核酸センサー経路(cGAS- STING)を活性化させ、自然免疫応答がおこることで、SASP 遺伝子の活性化に寄与する。そこで、LBR の発現変化が、DNA ダメージおよび細胞質 DNA の蓄積に与える影響を調べた。LBR の発現上昇は、過剰チミジンによる誘導老化におけるγH2AX の増加を抑制しなかったが、細胞質 DNA の蓄積を有意に抑制した。LBR の機能低下が、DNA ダメージによる細胞質 DNA の蓄積に必要である可能性が示唆された。細胞老化に伴う SASP 遺伝子の誘導には、LBR の機能低下による脱抑制機構と DNA ダメージによる活性化機構の両方が関与すると考えられる。

図 7. LBR と SASP 遺伝子の相互作用

4. 討論
第1章 プロテアソーム阻害剤を用いた細胞老化の誘導における LBR の役割
タンパク質の合成と分解の制御は、タンパク質恒常性の維持に重要である。我々の研究室では、細胞老化の誘導機構として不均衡増殖モデルを提唱している。このモデルでは、細胞内の高分子(DNA、RNA、タンパク質など)の不均衡が細胞老化を誘導すると想定している。細胞が様々な障害に晒された際、DNA 複製を遅滞させるが、タンパク質の合成は継続するため、細胞内にタンパク質が蓄積する。当研究室では、タンパク質の蓄積が細胞老化の誘導に重要な現象であることを報告してきた。しかし、タンパク質の蓄積が細胞老化を誘導する分子機構は不明であった。第1章で、タンパク質の蓄積はヘテロクロマチン形成を制御する LBR の機能低下を介して細胞老化を誘導することが明らかになった。一般に、核膜近傍は転写抑制の場であり、核膜近傍にある DNA 領域の多くは S 期後期に複製が開始する。このように、遺伝子発現や DNA 複製は空間的な制御を受けることが知られる。LBR の機能低下は、核膜近傍のヘテロクロマチンの遊離・不安定化を介し、遺伝子発現や DNA 複製の制御に異常を引き起こすことが予想され、細胞老化の誘導に繋がる可能性が考えられる。また、正常体細胞の老化ではプロテアソームの活性が低下することも知られており、様々な老化細胞でもLBR が重要な役割を果たしている可能性が考えられる。

第 2 章 LBR の SASP 遺伝子の発現制御における役割
第 2 章にて、LBR が細胞老化関連遺伝子である SASP 遺伝子の発現を制御することを示した。近年、ヘテロクロマチンの変化が SASP 遺伝子の発現上昇に必要である可能性が示唆されたが、LBR の機能を通してそのメカニズムを説明できるものと考えている。LBR の機能低下は、SASP 遺伝子の発現上昇において、核膜からの SASP 遺伝子の遊離・不安定化を介した脱抑制機構、細胞質 DNA の生成を制御することによる活性化機構の両方の役割を担っている可能性が予想される。興味深いことに、LBR のノックダウンは、ヘテロクロマチンに含まれるセントロメア近傍領域の脱凝縮を引き起こすことが報告されている (Lukasova et al. Biochem J. 2017)。セントロメア近傍領域には多数の反復配列が存在する。反復配列は、ゲノムの中でも異常な相同組み換えが起こりやすく、ゲノム安定性が低い領域として知られる。増殖細胞中の細胞質 DNA の解析を行った研究によると、セントロメアやその近傍領域の DNA 断片が主要な割合を占めていたとされる(Cheng et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2012)。LBR の機能低下に伴うヘテロクロマチン構造の不安定化が、細胞質 DNAの蓄積に寄与する可能性が考えられる。

5. まとめ
1) プロテアソーム阻害剤 MG132 は、細胞内にタンパク質を蓄積させ、細胞老化を誘導した。
2) LBR の機能維持は MG132 による誘導老化を抑制した。
3) タンパク質の蓄積は、小胞体ストレスおよびオートファジーによる分解系を介して LBRの局在変化・発現低下を引き起こす可能性を示した。
4) LBR の機能低下は細胞老化で見られるクロマチンの変化に関与すると考えられた。
5) LBR は SASP 遺伝子領域と相互作用しており、SASP 遺伝子の発現を制御した。
6) LBR の強制発現は、細胞質 DNA の蓄積を抑制した。

この論文で使われている画像

参考文献

1 Hayflick L and Moorehead PS (1961) The serial cultivation of human diploid cell strains. Exp Cell Res 25, 585–621.

2 Campisi J and d’Adda di Fagagna F (2007) Cellular senescence: when bad things happen to good cells. Nat Rev Mol Cell Biol 8, 729–740.

3 Michishita E, Nakabayashi K, Suzuki T, Kaul SC, Ogino H, Fujii M, Mitsui Y and Ayusawa D (1999) 5- Bromodeoxyuridine induces senescence-like phenomena in mammalian cells regardless of cell type or species. J Biochem 126, 1052–1059.

4 Sumikawa E, Matsumoto Y, Sakemura R, Fujii M and Ayusawa D (2005) Prolonged unbalanced growth induces cellular senescence markers linked with mechano transduction in normal and tumor cells. Biochem Biophys Res Commun 335, 558–565.

5 Kobayashi Y, Sakemura R, Kumagai A, Sumikawa E, Fujii M and Ayusawa D (2008) Nuclear swelling occurs during premature senescence mediated by MAP kinases in normal human fibroblasts. Biosci Biotechnol Biochem 72, 1122–1125.

6 Kim JH, Kim SH and Eidinoff ML (1965) Cell viability and nucleic acid metabolism after exposure of HeLa cells to excess thymidine and deoxyadenosine. Biochem Pharmacol 14, 1821–1829.

7 Ross DW (1983) (1983) Unbalanced cell growth and increased protein synthesis induced by chemotherapeutic agents. Blood Cells 9, 57–68.

8 Kudo I, Nozawa M, Miki K, Takauji Y, En A, Fujii M and Ayusawa D (2016) Dual roles of ERK1/2 in cellular senescence induced by excess thymidine in HeLa cells. Exp Cell Res 346, 216–223.

9 Ennis HL and Lubin M (1964) Cycloheximide: aspects of inhibition of protein synthesis in mammalian cells. Science 146, 1474–1476.

10 Takauji Y, Wada T, Takeda A, Kudo I, Miki K, Fujii M and Ayusawa D (2016) Restriction of protein synthesis abolishes senescence features at cellular and organismal levels. Sci Rep 6, 18722.

11 Takauji Y, En A, Miki K, Ayusawa D and Fujii M (2016) Combinatorial effects of continuous protein synthesis, ERK-signaling, and reactive oxygen species on induction of cellular senescence. Exp Cell Res 345, 239–246.

12 Ukekawa R, Maegawa N, Mizutani E, Fujii M and Ayusawa D (2004) Proteasome inhibitors induce changes in chromatin structure characteristic of senescent human fibroblasts. Biosci Biotechnol Biochem 68, 2395–2397.

13 Chondrogianni N, Stratford FL, Trougakos IP, Friguet B, Rivett AJ and Gonos ES (2003) Central role of the proteasome in senescence and survival of human fibroblasts: induction of a senescence-like phenotype upon its inhibition and resistance to stress upon its activation. J Biol Chem 278, 28026–28037.

14 Chondrogianni N and Gonos ES (2004) Proteasome inhibition induces a senescence-like phenotype in primary human fibroblasts cultures. Biogerontology 5, 55–61.

15 Torres C, Lewis L and Cristofalo VJ (2006) Proteasome inhibitors shorten replicative life span and induce a senescent-like phenotype of human fibroblasts. J Cell Physiol 207, 845–853.

16 Chondrogianni N, Sakellari M, Lefaki M, Papaevgeniou N and Gonos ES (2014) Proteasome activation delays aging in vitro and in vivo. Free Radic Biol Med 71, 303–320.

17 Criscione SW, Teo YV and Neretti N (2016) The Chromatin landscape of cellular senescence. Trends Genet 32, 751–761.

18 Solovei I, Wang AS, Thanisch K, Schmidt CS, Krebs S, Zwerger M, Cohen TV, Devys D, Foisner R, Peichl L et al. (2013) LBR and lamin A/C sequentially tether peripheral heterochromatin and inversely regulate differentiation. Cell 152, 584–598.

19 Arai R, En A, Ukekawa R, Miki K, Fujii M and Ayusawa D (2016) Aberrant localization of lamin B receptor (LBR) in cellular senescence in human cells. Biochem Biophys Res Commun 473, 1078–1083.

20 Arai R, En A, Takauji Y, Maki K, Miki K, Fujii M and Ayusawa D (2019) Lamin B receptor (LBR) is involved in the induction of cellular senescence in human cells. Mech Ageing Dev 178, 25–32.

21 Satou W, Suzuki T, Noguchi T, Ogino H, Fujii M and Ayusawa D (2004) AT-hook proteins stimulate induction of senescence markers triggered by 5- bromodeoxyuridine in mammalian cells. Exp Gerontol 39, 173–179.

22 Chomczynski P and Sacchi N (1987) Single-step method of RNA isolation by acid guanidinium thiocyanate- phenol-chloroform extraction. Anal Biochem 162, 156–159.

23 Lee DH and Goldberg AL (1996) Selective inhibitors of the proteasome-dependent and vacuolar pathways of protein degradation in Saccharomyces cerevisiae. J Biol Chem 271, 27280–27284.

24 Nawrocki ST, Carew JS, Dunner K Jr, Boise LH, Chiao PJ, Huang P, Abbruzzese JL and McConkey DJ (2005) Bortezomib inhibits PKR-like endoplasmic reticulum (ER) kinase and induces apoptosis via ER stress in human pancreatic cancer cells. Cancer Res 65, 11510–11519.

25 Fribley A, Zeng Q and Wang CY (2004) Proteasome inhibitor PS-341 induces apoptosis through induction of endoplasmic reticulum stress-reactive oxygen species in head and neck squamous cell carcinoma cells. Mol Cell Biol 24, 9695–9704.

26 Ding WX, Ni HM, Gao W, Yoshimori T, Stolz DB, Ron D and Yin XM (2007) Linking of autophagy to ubiquitin-proteasome system is important for the regulation of endoplasmic reticulum stress and cell viability. Am J Pathol 171, 513–524.

27 Zhu K, Dunner K Jr and McConkey DJ (2010) Proteasome inhibitors activate autophagy as a cytoprotective response in human prostate cancer cells. Oncogene 29, 451–462.

28 Ellenberg J, Siggia ED, Moreira JE, Smith CL, Presley JF, Worman HJ and Lippincott-Schwartz J (1997) Nuclear membrane dynamics and reassembly in living cells: targeting of an inner nuclear membrane protein in interphase and mitosis. J Cell Biol 138, 1193–1206.

29 Foufelle F and Fromenty B (2016) Role of endoplasmic reticulum stress in drug-induced toxicity. Pharmacol Res Perspect 4, e00211.

30 Klionsky DJ, Elazar Z, Seglen PO and Rubinsztein DC (2008) Does bafilomycin A1 block the fusion of autophagosomes with lysosomes? Autophagy 4, 849–850.

31 Kaushik S and Cuervo AM (2012) Chaperone-mediated autophagy: a unique way to enter the lysosome world. Trends Cell Biol 22, 407–417.

32 Hirano Y, Hizume K, Kimura H, Takeyasu K, Haraguchi T and Hiraoka Y (2012) Lamin B receptor recognizes specific modifications of histone H4 in heterochromatin formation. J Biol Chem 287, 42654– 42663.

33 Worman HJ, Yuan J, Blobel G and Georgatos SD (1988) A lamin B receptor in the nuclear envelope. Proc Natl Acad Sci USA 85, 8531–8534.

34 Ye Q and Worman HJ (1996) Interaction between an integral protein of the nuclear envelope inner membrane and human chromodomain proteins homologous to Drosophila HP1. J Biol Chem 271, 14653–14656.

35 Polioudaki H, Kourmouli N, Drosou V, Bakou A, Theodoropoulos PA, Singh PB, Giannakouros T and Georgatos SD (2001) Histones H3/H4 form a tight complex with the inner nuclear membrane protein LBR and heterochromatin protein 1. EMBO Rep 2, 920–925.

36 Guarda A, Bolognese F, Bonapace IM and Badaracco G (2009) Interaction between the inner nuclear membrane lamin B receptor and the heterochromatic methyl binding protein, MeCP2. Exp Cell Res 315, 1895–1903.

37 Lukasova E, Kovarˇ´ık A, Bacˇ´ıkov´a A, Falk M and Kozubek S (2017) Loss of lamin B receptor is necessary to induce cellular senescence. Biochem J 474, 281–300.

参考文献をもっと見る