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大学・研究所にある論文を検索できる 「巨大分子複合体をスキャフォールドに用いたタンパク質構造機能解析法の開発に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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巨大分子複合体をスキャフォールドに用いたタンパク質構造機能解析法の開発に関する研究

橋本 翼 東北大学

2022.03.25

概要

【緒言】
生命現象の根幹を担うタンパク質の機能を理解するには、その”かたち”、すなわち立体構造の情報は必要不可欠である。分子の立体構造決定手法はいくつか存在するが、その中でも X 線結晶構造解析は分子の立体構造を原子レベルで可視化する優れた手法であり、現在生体高分子の構造解析に最も広く用いられている。しかし、X線結晶構造解析を行うには目的分子の良質な結晶を得る必要があり、この過程が大きなボトルネックとなっている。一方で、近年、様々な技術革新により一躍脚光を浴びている手法がクライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)法である。特に、Cryo-EM 単粒子解析法は目的分子の結晶化を必要とせず、透過型電子顕微鏡による撮影像から原子レベルで立体構造を再構成することが可能であるため、大きく注目されている。しかし、顕微鏡画像上でのシグナルが弱いため 100 kDa を下回る小さな分子に適用することは難しいこと、Cryo- EM 観察用凍結グリッドの再現性が悪く、最適なグリッド作成条件の検討がボトルネックになることなど、X線結晶構造解析とはまた異なる課題も存在する。故に、あらゆる生体高分子に応用可能な構造解析手法は存在しないというのが現状である。より適用範囲が広く、より簡便な構造解析法の確立は長年期待されている。
上述した問題に対する解決策の 1 つがスキャフォールド分子を用いたアプローチである。例えば、あらか じめ作成した多孔質結晶(ホスト結晶)に目的分子(ゲスト分子)を閉じ込め、丸ごとX線結晶構造解析を行うことでゲスト分子の立体構造を決定する「結晶スポンジ法が開発されている。これはゲスト分子の結晶化を伴わずにその構造決定が可能な優れた手法であるが、現状ではタンパク質のような大きな分子には適用することができない。Cryo-EM 単粒子解析においても、タンパク質や核酸から成るスキャフォールド分子に、小さな分子を直接結合させて分子量を底上げし、丸ごと構造解析を行った報告がいくつか存在する。しかし、スキャフォールド分子自体の汎用性や相性の問題から、その対象は一部の分子に限定されている。
そこで本研究では、ヘモシアニンとリボソームという巨大分子複合体を構造解析手法を補助するスキャフォールド分子として利用することに取り組んだ。ヘモシアニンは、約 4 MDa の巨大な円筒状のタンパク質会合体であり,ストロー状に積み重なって結晶化する(図 1A).その特徴から、ヘモシアニン結晶中に様々な生体高分子を包摂し、X 線結晶構造解析へと応用できると考えた(図 1)。またリボソームは約 3 MDa のタンパク質と RNA から成る超分子複合体であり、Cryo-EM の代表的な標的分子の 1 つである。その RNA を遺伝子工学的に改変することで、任意の RNA 結合タンパク質を結合させ、Cryo-EM 単粒子解析によりその複合体構造を決定できると考えた(図 2)。本研究では、MDa スケールの巨大な超分子複合体をスキャフォールドとして用いてタンパク質の構造解析を行うという、これまでにないコンセプトの実証を目指した。

【実験結果:ヘモシアニン結晶の X 線結晶構造解析への応用】
ヘモシアニン結晶を「結晶スポンジ法」へと応用するためには、まずは結晶内部にゲスト分子を包摂する方法や包摂可能な分子の特徴を明らかにする必要がある。作成したヘモシアニン結晶中にゲスト分子を包摂し、結晶化する 3 種類の方法(①ソーキング法:あらかじめ調製した結晶を化学的に架橋し、ゲスト分子溶液に浸漬し包摂する方法②共結晶法:結晶化液中にゲスト分子を共存させてヘモシアニンが結晶化する過程で包摂する方法 ③結合・結晶化法:クロスリンカーを介してヘモシアニン内部特異的にゲスト分子を結合させ、そのまま結晶化する方などヘモシアニン結晶内部に包摂可能な分子の特徴を調べ、ホスト結晶としてのヘモシアニン結晶のポテンシャルを評価した。また、緑色蛍光タンパク質(GFP)を包摂したヘモシアニン結晶から X線回折データを収集することに成功したが、その分解能は6Åと低く、包摂されたGFPの電子密度も不明瞭なものであった。
図1 ヘモシアニン結晶の応用法を示す概念図

【実験結果:tRNA 配列を挿入したリボソーム変異体の Cryo-EM 単粒子解析への応用】
RNA は非常に不安定な分子であるため、RNA 修✲酵素を含む多くの RNA 結合タンパク質と RNA の複合体構造は明らかになっていない。そこで、大腸菌の tRNALeu4 を遺伝子工学的に表面に融合させたリボソーム変異体(EtRibosome)を作成し、tRNA 修✲酵素 MiaA(35 kDa)との複合体構造を Cryo-EM 単粒子解析により決定することにより、リボソームをスキャフォールド分子として用いた構造解析法の構築を目指した(図 2)。EtRibosome + MiaA 複合体の Cryo-EM データセットを収集し、画像解析により、その全体構造を2.21 Å の分解能で決定した。tRNA の柔軟性の問題により、原子分解能での構造決定には至らなかったが、結合した MiaA-tRNA 複合体を可視化することに成功した(図 3)。
図 2 リボソームをベースとしたスキャフォールド分子を用いた構造解析手法を示す概念図
図 3 EtRibosome + MiaA 複合体のマップ

【結言】
本研究では、2 つの超分子複合体がタンパク質の構造機能解析へ応用可能なスキャフォールド分子としてのポテンシャルを有することを明らかにした。ヘモシアニンは、その結晶内部にタンパク質のような大きなゲスト分子を包摂することが可能であり、結晶のパッキングを崩すことなく X 線回折データの取得も可能であることを実証した。また、リボソーム RNA 中に人工的に挿入した RNA がタンパク質のリガンドとして機能し得ること、および本研究により開発した EtRibosome を用いることで、通常 Cryo-EM 単粒子解析に供するには非常に小さい 35 kDa の分子を可視化できることも実証した。本研究では構造解析に焦点を当てたが、これらのスキャフォールドはゲスト分子の保護や反応場の提供、リガンドとの相互作用解析など別の用途への応用も期待できる。しかし、いずれも高分解能での構造解析へと適用するためには、ヘモシアニン結晶のゲスト分子包摂効率が十分でないこと、EtRibosome に挿入した tRNA が柔軟性を有していることな ど、いくつかの課題が存在する。本研究により蓄積された知見を基に、これらの課題解決に取り組むこと で、スキャフォールド分子を用いたアプローチにより汎用的で簡便なタンパク質構造機能解析法が実現することを期待する。

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