放射線治療の線量分布検証における深層学習を用いた新たな機械的エラー検出手法の開発
概要
【目的】
VMAT(volumetric modulated arc therapy; 強度変調回転放射線治療)を行う際は、安全性を検証するため、測定器を用いた患者個々での QA(quality assurance; 品質保証)が行われる。治療計画装置により得られる計算線量分布と、放射線治療装置からの出力を測定した実測線量分布の一致度を評価することにより、装置の機械的エラーの有無や計画通りに線量分布が投与されるかを確認する。この時、線量誤差と位置誤差に基づく評価解析(ガンマ解析)で線量分布の一致度を定量評価する。しかし、この手法は、機械的エラーに対する感度が低いことが報告されている。また、エラーがあると判定されても、エラーの原因を特定できないという大きな問題を抱えている。そこで本研究では、それらの問題を克服できる深層学習を用いた新たな機械的エラー検出手法の基盤構築を行った。具体的には以下の三項目を検討した。
検討①:モデルへの入力データ作成方法の検討。
検討②:患者個々の VMAT QA における提案手法のエラー検出精度の評価。
検討③:事前に想定されていないタイプのエラーを検出する手法のエラー検出精度の評価。
【方法】
VMAT QA を実施した 161 ビームの計算および実測線量分布データを使用した。100 ビームを深層学習モデルのトレーニング用、25 ビームをトレーニングプロセスにおける検証用、36 ビームをモデルテスト用のデータ生成のために振り分けた。臨床で使用した線量分布(エラーフリー)に加え、故意にエラーを付加したシミュレーション用の線量分布を 12 種類用意した: 照射野形状エラー(2 種類)、出力エラー(2 種類)、ガントリー回転エラー(2 種類)、測定器の設置エラー(6 種類)。これらのデータを使用してエラーシミュレーションを行い、エラー分類の正解率およびAUC(area under curve; 曲線化面積)に基づきエラー検出精度を評価した。
検討①:深層学習モデルへの最適なデータの入力方法を明らかにするため、2 種類の入力画像を検討した:計算線量分布と測定線量分布の単純な“差分マップ”とガンマ値計算に基づいた“ガンママップ”。
検討②: エラーフリーおよび 12 種類のエラーが含まれた線量分布を用いて、深層学習を用いたエラー分類モデルのトレーニングおよびテストを行い、エラー分類精度を評価した。
検討③:エラーデータをあらかじめ用意できない状況を想定し、エラーフリーデータのみを用いてトレーニングしたモデルでエラー検出することが可能か変分オートエンコーダを使って検証した。トレーニングしたエンコーダに、トレーニングデータとテストデータを入力して潜在変数を取得した。この潜在変数を使用して、エラーフリーデータであるトレーニングデータを基準としてテストデータの異常度をマハラノビス距離で定量化し、エラー分類を行った。
【結果】
検討①:エラー分類の正解率は、差分マップ、ガンママップを用いた場合でそれぞれ 0.94、0.88 であった。検討②:提案手法によるエラー分類の正解率は 0.92 であった。検討③:ほとんどのエラータイプにおいて、提案手法の AUC は、ガンマ解析の AUC を上回った。例として、照射野形状エラーについて、本手法、ガンマ解析の AUC はそれぞれ 0.70、0.67 であった。
【結論】
深層学習を用いた線量分布解析に基づくエラー検出モデルを開発し、VMAT QA におけるエラー検出精度を評価した。深層学習による差分マップ解析手法は、VMAT QA におけるエラー検出に有効である可能性が示された。