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大学・研究所にある論文を検索できる 「トウモロコシの低リン土壌で有効な形質とその遺伝背景の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

トウモロコシの低リン土壌で有効な形質とその遺伝背景の解析

川出, 佑紀 東北大学

2023.03.24

概要

論文内容要旨

トウモロコシの低リン土壌で有効な形質と
その遺伝背景の解析

東北大学大学院農学研究科
資源生物科学専攻
川出(赤松)

佑紀

指導教員
西田

瑞彦 教授

第1章

緒言

トウモロコシは世界で最も栽培される作物であり,飼料用,食用,製油用と幅広く利用
され,将来的にも生産の増加が予想される.日本では,濃厚飼料としてトウモロコシを約
1000 万 t 輸入しており,近年,輸入価格が記録的に高騰している背景から,国内で濃厚飼
料を生産するべくトウモロコシ栽培が全国的に拡大している.トウモロコシは長大作物で
あり多くの養分を必要とする.植物の必須栄養素のひとつであるリンは,主にリン酸肥料
として施用されるが,その原料のリン鉱石は有限な資源である.さらに近年,肥料の価格
が非常に高騰し,非生産国では入手が困難になることも懸念される.リン資源を節減しな
がらトウモロコシを生産することは,持続的な作物生産において重要である.
リンは,土壌に固定されやすい性質があり,施用されたリンの多くは植物が利用しにく
い形態で土壌中に存在する.土壌中のリンを効率的に利用するには根系の役割が重要であ
る.リンの獲得には,理論的には根の表面積を増やして根とリンの接する機会を増やすこ
とが有効であると考えられている.根表面積を増加させる根系の形質には,まず節から伸
長する冠根の増加が挙げられる.イネでは,リン欠乏耐性に関する遺伝子 PSTOL1 が見い
だされ,この遺伝子は冠根数を増加させてリン吸収を増加させる.冠根から分岐する側根
は,細くて重量が少ないことから,低いコストで表面積を増加させるためリン獲得に有効
と考えられている.根内部の皮層に形成される空隙である通気組織は,皮層の細胞代謝コ
ストを抑制できることから,低リン土壌での生育を増加させることが知られる.
低リン土壌で有効な根系の形質と,その遺伝背景を明らかにすることは,リン資源を節
減しながら生産性を確保できる作物の育種への応用に有効である.染色体断片置換系統群
(chromosome segment substitution line; CSSL または introgression line; IL)は,形質と遺伝背
景を同時に評価でき,効率的な品種育成に有用である.この系統群は,供与親の染色体断
片の一部が受容親に連続的に置換され,全ゲノム領域が部分的に置換されている.各系統
と受容親との表現型や遺伝子型の差異から量的形質遺伝子座(quantitative trait loci; QTL)
を検出できる.
本研究では,トウモロコシの低リン土壌で有効な形質とその遺伝背景を明らかにするこ
とを目的とした.まず,モデル植物として遺伝材料が豊富で取扱いが容易なイネの CSSLs
を用いて,低リン土壌で有効な系統とその根系を評価した(第 2 章)
.次に,トウモロコ
シの ILs を用いて低リン条件で有望な系統の探索と,その系統の根系と遺伝背景の評価を
行い,圃場条件で系統の有効性を明らかにした(第 3 章).さらに,第 3 章で有望と考え
られた QTL の低リン耐性の効果を複数の系統で評価した(第 4 章).以上の結果を総括
し,育種への応用の可能性について考察した(第 5 章)


第2章

イネ CSSLs を用いた低リン土壌条件における根の形質の解析

まず,モデル植物のイネの CSSLs を用いて,低リン土壌で有効な系統とその根系を評価
した.japonica 型のササニシキと indica 型のハバタキは根の形態が異なることが知られてお
り,これらを親とするササニシキ/ハバタキ CSSLs には根の形態に変異があることが期待
され,リン吸収と根の形質の関係の解析に適した材料である.まず,CSSLs39 系統を低リン
条件で栽培し,生育を評価した.栽培は恒温器内で畑条件で行った.地上部乾物重または根
表面積の大きい系統として,5 系統(SL414, 417, 420, 424, 438)を選定した.次に,この 5
系統を低リン条件で栽培し,根を調査した.根の外部形態については,アクリル板に広げた
根系をスキャナで読み取り,画像解析により直径別の根長と根表面積を算出した.根の内部
形態については,冠根から切片を作成し,断面の画像を取得し,断面積と通気組織面積を算
出した.その結果,根表面積とリン吸収量には正の相関があり,リン吸収には根表面積の増
加が有効であることが示された.根表面積が高い系統の中で,SL417, 438 は低リン条件で冠
根の断面積がササニシキと比較して有意に大きく(図 1)
,細い根も多かった.太い冠根を
もつことで,冠根自体の表面積と,そこから分岐する側根を増加させて根全体の表面積を高
めていると考えられた.SL417 は第 5,6 染色体に,SL438 は第 11 染色体にハバタキ由来の
染色体断片を持っており,この領域に太い冠根に関係する遺伝子が存在する可能性が示唆
された.以上のように,イネの CSSLs を用いて,根の外部形態と内部形態を詳細に調査す
ることで,低リン土壌で有効な根の形質とその遺伝背景を明らかにできた.この知見を利用

LowP

S…
S…
S…
*…
S…
S…

100
750HighP
50
25

0.25
***

0.20

***

0.15
0.10
0.05

SL438

SL424

SL420

SL417

SL414

0.00

Sasanishiki

Total root cross-sectional area (mm2)

して,トウモロコシにおいても同様に系統と根の形態の調査を行うこととした.

図 1 選定したイネ CSSLs5 系統とササニシキの冠根の断面積
エラーバーは標準誤差を示す(n=4)
.Dunnett の多重比較検定により,ササニシキと有意な差異のある系
統を***P <0.001 で示す.

第3章

トウモロコシ ILs における低リン耐性系統の評価

トウモロコシに近縁野生種のテオシントの染色体断片が置換された系統群(ILs)を用い
て,低リン土壌で有効な形質とその遺伝背景を解析した.この ILs は耐湿性の評価のため
に作出された系統群で,トウモロコシにないストレス耐性を付与できる可能性がある.
まず,ILs35 系統とその親のトウモロコシ(Zea mays L.)の優良自殖系統 Mi29 と,テオ
シント(Z.niacaraguensis)を低リン条件でポットで栽培し,生育を評価した.IL11, 18, 30,
39 は Mi29 と比較して明らかに下葉の黄化が抑制され,葉色を維持した(図 2)
.IL11, 18,
30 は第 4 染色体の同じ位置に,IL39 は第 9 染色体にテオシント由来の染色体断片をもつこ
とから,IL18, 39 の低リン耐性に関係する形質を調査することとした.

2.0

1.0

*

**

*

*

Leaf injury score

3.0

Mi29
nica
1
2
3
6
7
10
11
12
13
14
15
16
18
19
22
23
24
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
41
42
43
45

0.0

図 2 供試したトウモロコシ ILs の低リン条件での下葉の黄化程度
第 1 葉の 50%が黄化,100%が黄化,第 2 葉の 50%までの黄化をそれぞれ 0.5, 1.0, 1.5 として点数化した.
エラーバーは標準誤差を示す(n =3)
.Dunnett の多重比較検定により,Mi29 と有意な差異のある ILs 系統
を*P <0.05, **P <0.01 で示す.

次に,Mi29, IL18, 39 を低リン区,対照区でポットで栽培し,生育と根の形態を評価し
た.IL18, 39 は,Mi29 と比較して葉の黄化が抑制された.根の外部形態では,イネと同様
に根表面積とリン吸収量には高い正の相関があり(図 3)
,リン吸収には根表面積の増加が
有効であることが示された.根表面積を増加させる形質については,イネにおける太い冠
根のような特徴は認められず,IL18 では対照区で根全体が多い傾向があった.IL39 では初
生根の親根が極端に短く,側根が太く発達する特徴が認められたが,生育初期でみられた
特徴がどのような影響を与えるか生育後期まで観察する必要があると考えられた.一方
で,根の内部形態では,皮層に通気組織が観察され,皮層に占める通気組織の割合は,低
リン区で IL18, 39 は Mi29 の約 2 倍であった(図 4)
.通気組織は,細胞の代謝コストを抑
制することから,低リン土壌での生育を増加させることが知られており,本試験でも通気
組織が低リンでの生育に寄与した可能性がある.通気組織がどの程度影響したか、今後詳
細な調査が必要と考えられた.

5.0

■Mi29-Control
●IL18-Control
●IL39-Control

P uptake (mg/plant)

4.0

r = 0.894***
□Mi29-LowP
〇IL18-LowP
〇IL39-LowP

3.0

2.0

r = 0.924***

1.0

0.0
0

500

1000

1500

2000

Root surface area (cm2)

図 3 Mi29, IL18, IL39 のリン吸収量と根表面積の相関

Aerenchyma/Cortical area (%)

図中に相関係数(r)を示し,***は P <0.001 を示す.

10.0
Control

8.0
6.0

LowP

n.s. ...

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