筋肉細胞における呼吸鎖超複合体の可視化とその応用

概要

［課程－２］
審査の結果の要旨
氏名小林 天美
サルコペニアをはじめとする加齢性疾患の発症要因の一つとしてミトコンドリアの機能障
害が挙げられ、近年ではミトコンドリア呼吸鎖複合体同士が結合してできる超複合体がそ
の重要な役割を担っているとして注目を集めている。一方で、呼吸鎖超複合体の微細な構造
変化を生理的環境に近い状態でかつ簡便に検出する手法が確立されていない。本研究は、呼
吸鎖超複合体の形成をマウスの骨格筋細胞内で可視化・定性的なライブイメージングで比
較評価する手法の開発とその応用を試みたものであり、下記の結果を得ている。
1. FRET プローブによる呼吸鎖超複合体の検出
AcGFP と DsRed monomer を蛍光タンパク質として用いて、呼吸鎖複合体サブユニッ
ト蛍光融合タンパク質を一過性に発現させ、固定細胞内のミトコンドリア局在を確認し
た 。 呼 吸 鎖 複 合 体 サ ブ ユ ニ ッ ト 蛍 光 融 合 タ ン パ ク 質 間 の 相 互 作 用 と Acceptor
Photobleaching から上記の蛍光融合タンパク質間で FRET 現象が起きていることが示
された。
2. FRET シグナルの変化とミトコンドリア呼吸鎖超複合体形成の関連性
AcGFP と DsRed monomer の蛍光タンパク質を安定的に発現する細胞を作製し、ミト
コンドリア呼吸鎖超複合体形成する条件と形成しない条件での生細胞と固定細胞にお
ける FRET シグナルの検出の有無を検証した。また、siRNA を用いて呼吸鎖超複合体
形成促進因子として知られる COX7RP の発現を抑制し、その際の FRET シグナルの定
性評価ならびに FRET シグナル値の比較において、COX7RP の発現抑制時に FRET シ
グナルの低下が確認された。FRET シグナルが呼吸鎖超複合体形成を反映していること
が示された。
3. FRET を用いたミトコンドリア 呼吸鎖超複合体形成評価法の応用
加齢マウスの骨格筋におけるミトコンドリアの構造異常、数の減少を緩和し、マウスの
筋力・運動耐用能の上昇とエネルギー代謝量を増加させる化合物として報告されている
Beta-lapachone が呼吸鎖超複合体形成に与える影響を検証するため、本研究で確立し
た手法を用いた。固定細胞ならびに生細胞における FRET シグナルの定性評価ならび
に FRET シグナル値の比較で、Beta-lapachone 添加条件下で FRET シグナルの上昇が
みられた。タンパク質電気泳動法の一つである Blue Native-Polyacrylamide Gel

Electrophoresis を用いて、Beta-lapachone 添加条件下で呼吸鎖超複合体形成促進が確
認され、ミトコンドリアの酸素消費量の上昇もみられた。また、FRET シグナル値の比
較による 50%効果濃度（EC50）を算出し、本研究の Beta-lapachone 投与濃度が至適濃
度であることも示された。
以上、本論文は FRET プローブの選定、マウス骨格筋の固定細胞・生細胞における呼吸
鎖超複合体形成の可視化と定性的なライブイメージングで比較評価する手法を新たに確立
し、その手法を用いて Beta-lapachone の呼吸鎖超複合体の形成促進作用を明らかにした。
従来の手法と比較して、生細胞のままで低コスト・短時間で効率よく、また経時的に呼吸鎖
超複合体の形成を FRET シグナルにより測定が可能である。本研究は、呼吸鎖超複合体形
成のメカニズムの解明や制御因子の同定に重要な貢献をなすと考えられ、呼吸鎖超複合体
形成促進という側面からの各疾患の治療薬の新規開発など幅広く応用可能である。
よって本論文は博士（ 医 学 ）の学位請求論文として合格と認められる。