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書き出し

可逆的CID systemを用いたシグナル分子の核内外局在制御法の開発

粕谷, 有沙 東京大学 DOI:10.15083/0002007111

2023.03.24

概要





















粕谷 有沙

粕谷有沙は「可逆的 CID system を用いたシグナル分子の核内外局在制御法の開発」と題
し、以下の研究を行った。Chemically Inducible Dimerization (CID) system とは、小分子薬剤を
介して二つのタンパク質が二量体化する現象である。小分子薬剤 rapamycin を dimerizer と
して FKBP と FRB が結合する FKBP-FRB system はその代表であり、例えば FKBP と Rac 活
性化因子である Tiam1 を結合させた分子を細胞質に、FRB を細胞膜に発現させた細胞へ
rapamycin を添加すると、細胞膜上で Rac が活性化される。CID system は小分子薬剤をスイ
ッチとする on rate の速さと、遺伝工学的に作成されるタンパク質ツールの標的選択性の高
さを併せ持つ摂動系であることから、細胞内のシグナル伝達を理解する上で強力なツール
とされてきた。しかし、従来の CID system は不可逆であり、本来シグナル伝達で見られる
一過的な活性化や時間的振動を再構築出来ないことが課題であった。例えば p65 などの一
部の転写因子では核細胞質間で局在が繰り返し変動することが知られており、その振動パ
ターンが発現遺伝子群の選択において重要であることが示唆されている。このように振動
を伴ったシグナルネットワークの解明のためには、振動を再構築可能な摂動法の確立が期
待されている。
粕谷は本学修士課程において、可逆的 CID system の構築を達成している。可逆的 CID
system は、可逆的に結合する一本鎖抗体 5D4 と dinitrophenyl 類縁体(以下タンパク質 A と小
分子 a)のペア、 不可逆的に結合する HaloTag protein と HaloTag ligand(以下タンパク質 B
と小分子 b)のペアから構成される。小分子 a、 b をリンカーを介して結合させたものを
dimerizer、小分子 a を competitor とし、これら小分子薬剤の添加と washout によってタンパ
ク質 A、 B の二量体化と解離を生細胞内で sec~min のタイムスケールで繰り返し誘起可能
である。粕谷は博士課程において、この独自に確立した可逆的 CID system を応用すること
でタンパク質の核内外局在を繰り返し制御可能な系を構築することとした。
① CID タンパク質の核内外局在の制御
粕谷ははじめに、小分子薬剤により制御される二量体化によって CID タンパク質の核内
外局在を操作可能であるか調べるために、CID タンパク質 A と B にそれぞれ NLS、NES の
いずれかを付与したタンパク質を系統的に設計し、任意の組み合わせで HEK293T 細胞に発
現させた。これにより、NLS、NES 付与の位置や個数に応じて、dimerizer 添加前のタンパク
質の核内外局在の割合や、添加による局在の変化幅が異なることが明らかとなった。また、
二量体化によって核外へのタンパク質輸送を惹起することに適した組み合わせを見出すこ

とに成功した。この組み合わせを用いると、competitor 添加と washout によって、min~hr の
タイムスケールで可逆的に局在を制御可能であることが示唆された。
② 可逆的 CID system による人工転写因子 tTA の核内外局在制御
続いて粕谷は、本手法を転写因子に適用可能であるか調べるために、CID タンパク質 A に
人工転写因子 tTA を付与し、B に NES タグを付与して発現させた。タイムラプスイメージ
ングより tTA コンストラクトの局在を追跡すると、薬剤添加と washout により min~hr のタ
イムスケールで可逆的に変動していることが示唆された。さらに、tTA により発光タンパク
質である NanoLuc を発現する reporter を用いて転写活性を定量したところ、薬剤添加と
washout に伴って reporter 発現量が繰り返し変動する条件を見出した。またこの reporter 発
現量は、dimerizer、 competitor の濃度依存的に変化することも確かめられた。更に、tTA に
より BFP を発現する reporter を導入しフローサイトメトリーを用いて細胞毎の CID タンパ
ク質コンストラクトの発現量と reporter 発現量の変動の関係を精査したころ、両方の CID タ
ンパク質コンストラクトを強く発現する population において、dimerizer 添加に伴う reporter
発現量の変動が大きく見られることが明らかとなった。この結果より、コンストラクトの発
現比の最適化により、
CID による転写活性制御の S/N がおおきく高まることが期待された。
③ 可逆的 CID system による p65 の核内外局在と下流遺伝子発現制御
最後に粕谷は、転写因子 p65 に関して本手法の適用が可能であるか調べた。p65 はアポ
トーシスや炎症の制御に関わり、核内外を振動することが知られている。p65 の下流遺伝
子のうち、IκB や MCP-1 等は 100 min 以上の間隔の振動でも発現するのに対し、Rantes 等
は 100 min 以下の間隔の振動でないと発現しないなど、p65 の核内外振動のパターンが発
現遺伝子群の選択において重要であることが提唱されている。そこでまず粕谷は、CID タ
ンパク質 A に p65 を付与し、NLS の位置や個数を変えたコンストラクトを設計した。次
に、CID タンパク質 B に NES を付与したコンストラクトを共に過剰発現させ、dimerizer
添加に伴い reporter 発現量が減少する条件を見出した。この条件において、発現した p65
の細胞内局在を精査すると、細胞ごとにばらつきがあるものの、薬剤添加と washout によ
り局在に変化が起きていることが確かめられ、また qPCR による解析によって、p65 の下
流遺伝子である IκBαの mRNA 量が増加していることが確認された。以上の結果から、
細胞ごとにばらつきがあるものの、本手法を用いて過剰発現 p65 の核内外局在の制御が可
能であり、下流遺伝子発現を変動させることが可能であることが示唆された。
以上のように粕谷有紗は、独自に開発した可逆的 CID System を発展させことで、CID タ
ンパク質に付与したグナル分子の核内外局在を可逆的に操作可能な手法の確立に成功した。
操作範囲は薬剤濃度や分子設計・発現量の最適化によって調整可能であり、繰り返しの操作
も可能である。システムの自由度の高さから、今後核内外を振動するシグナル分子を含んだ
シグナルネットワークの解析ツールとしての発展が見込まれ、生命科学の発展へと寄与す
ることが強く期待されることから、博士(薬科学)の授与にふさわしいものと判断した。

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