リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「未分化型胃癌の発生メカニズムの解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

未分化型胃癌の発生メカニズムの解明

畑, 昌宏 東京大学 DOI:10.15083/0002005033

2022.06.22

概要

胃癌は東南アジアや南米を中心に世界中で発生し、死亡原因としては悪性腫瘍の中で3番目に多いとされ、日本でも癌種別の死亡者数において肺癌、大腸癌に次いで第3位となっている。本邦ではヘリコバクター・ピロリの感染者の減少により胃癌の発症者は減少傾向であり、さらに内視鏡検査の普及による病変の早期発見、治療技術の開発などの医学的発展もあり、胃癌による死亡者数も減少傾向となっている。その一方で、進行胃癌患者の5年生存率は依然低い状況(Stage Ⅳ患者において10%以下)が続いており、未だその病態の解明や新規の治療が求められている。

 胃癌は、病理学的に分化型(腸型)と未分化型(瀰漫型または印環細胞型)に大きく分けられ、未分化型胃癌は分化型胃癌に比し予後が悪いとされており、そのため両者の予後や再発転移の差異について臨床的、病理学的検討が長年なされてきた。近年The Cancer Genome Atlas(TCGA)データベースとして、胃癌における網羅的遺伝子変異解析結果が報告され、胃癌はEpstein–Barr virus(EBV)型、microsatellite instability(MSI)型、genomically stable(GS)型、chromosomal instability(CIN)型の4つのサブタイプに大別され、それぞれに特徴的な遺伝子変異やエピジェネティックな変化が指摘されている。未分化型胃癌はGS型で高率に見られる傾向にあり、またGS型ではCDH1遺伝子変異が高頻度であることが示された。CDH1遺伝子は細胞接着に重要な機能を持つE-cadherinをcodeする遺伝子であり、CDH1変異は遺伝性瀰漫性胃癌の原因遺伝子としても報告されている。ヒトの胃癌よりオルガノイドを作成し、個々のオルガノイドの遺伝子変異解析の結果や、ニッチ依存性や薬剤感受性について検討した報告においては、病理診断で未分化型と診断されている14例のうち11例でCDH1変異が指摘されていた。またマウスモデルでは、Mist1陽性幹細胞にCdh1遺伝子欠損を導入すると胃体部に未分化型胃癌が出現し、Helicobacter felis感染による慢性炎症の併存によって増殖進展がみられるようになると報告されており、未分化型胃癌の増殖進展における腫瘍周囲微小環境の重要性について示されている。他に、Atp4b-CreマウスでCdh1とTrp53の両者を欠損させたマウスは遠隔転移を伴う未分化型胃癌が発生することが報告されており、オルガノイド実験としてはCdh1flox/flox;Trp53flox/floxの新生児マウスから作成した胃オルガノイドにCre発現アデノウイルスとTgfbr2欠失を誘導するshRNA発現レトロウイルスを感染させ、3種の遺伝子が欠失したオルガノイドをヌードマウスに皮下移植したところ、皮下腫瘍を形成し未分化型胃癌の組織像を呈したという報告がある。

 今回我々は、Cdh1欠損に他の遺伝子変異を追加することにより、腫瘍の発生、増殖、さらに周囲微小環境がどのように変化するかを検討することを目的に実験を行った。

 まず初めにMist1-CreERT; LSL-TdTomatoマウスの胃体部より樹立したオルガノイドの培地に4-OH tamoxifenを追加し、蛍光顕微鏡の観察でオルガノイドが蛍光蛋白を発現することを確認し、in vitroでCreERTシステムが機能することを確認した。次にMist1-CreERT; Tgfbr2flox/flox; Cdh1flox/flox(M-TC)マウス、Mist1-CreERT; LSL-KrasG12D; Tgfbr2flox/flox; Cdh1flox/flox(M-KTC)マウス、Mist1-CreERT; LSL-Trp53R172H; Tgfbr2flox/flox; Cdh1flox/flox(M-PTC)マウス、Mist1-CreERT; LSL-Trp53R172H; Apcflox/flox; Cdh1flox/flox(M-PAC)マウス、Mist1-CreERT; LSL-KrasG12D; LSL-Trp53R172H; Apcflox/flox(M-KPA)マウスを作成し、各マウスの胃体部よりオルガノイドを樹立し、4-OH tamoxifenで遺伝子改変を行い、ヌードマウスに皮下移植した。オルガノイドは皮下腫瘍を形成し、その組織像はM-TC、M-PACでは嚢胞、M-PTCでは異形成、M-KPAでは腺腫相当の異形成にとどまったが、M-KTCは一部で分化型腺癌、一部で未分化型腺癌の組織像を呈していた。M-KTCオルガノイドの皮下腫瘍で免疫染色を行うと、pERKは分化型癌、未分化型癌の領域双方で部分的に発現が見られたが、E-cadherinの欠失は未分化型癌のみで確認された。

 続いて他の遺伝子改変システムとしてCre発現レンチウイルス感染システムを利用した。Cdh1flox/floxマウス、LSL-Trp53R172H; Cdh1flox/flox(PC)マウス、Tgfbr2flox/flox; Cdh1flox/flox(TC)マウス、LSL-Trp53R172H; Tgfbr2flox/flox; Cdh1flox/flox(PTC)マウス、LSL-KrasG12D; Tgfbr2flox/flox; Cdh1flox/flox(KTC)マウス、LSL-KrasG12D; LSL-Trp53R172H; Tgfbr2flox/flox; Cdh1flox/flox(KPTC)マウス、LSL-KrasG12D; LSL-Trp53R172H; Apcflox/flox(KPA)マウス、LSL-KrasG12D; LSL-Trp53R172H; Apcflox/flox; Tgfbr2flox/flox(KPAT)マウスの胃体部よりオルガノイドを樹立し、レンチウイルス『EF1a-Cre-2A-GFP-puro lentivirus』をそれぞれに感染させた。Cdh1flox/floxマウスより作成したオルガノイドは、感染後は球状(spheroid)を呈さず顆粒状となり、数回の継代で消失し生存継続が不可能であった。Cdh1flox/floxオルガノイドを除く上記7種のオルガノイドをヌードマウスに皮下移植したところ、PCを除く6種のオルガノイドは皮下腫瘍を形成した。TC、PTC、KTC、KPTCオルガノイドによる皮下腫瘍の病理像は印環細胞癌を含む未分化型腺癌であり、KPA、KPATオルガノイドによる皮下腫瘍は腺管構造を呈する分化型腺癌であった。未分化型腺癌は免疫染色でE-cadherinの欠損を確認した。分化型腺癌(KPA)と未分化型腺癌(PTC)を免疫染色やin situ hybridizationで比較すると、未分化型腺癌でαSMA陽性線維芽細胞の増生やF4/80陽性マクロファージの浸潤増加が明らかであり、さらに既報で印環細胞癌の増殖に重要であるとされるWnt5aとその受容体の一つとして報告されているFzd5のRNA発現も未分化型腺癌で増加していた。

 これらの解析を基に、胃粘膜上皮特異的にCreが発現するTff1-CreマウスにCdh1を含む複数の遺伝子異常を組み合わせた。Tff1-Cre; LSL-Trp53R172H; Cdh1flox/flox; LSL-GFP(T1-PC)マウスを作成したところ、既報のTff1-Cre; Cdh1flox/floxマウスと同様の経時的な胃粘膜脱落と扁平上皮による置換がみられた。次にTff1-Cre; LSL-Trp53R172H; Tgfbr2flox/flox; Cdh1flox/flox; LSL-GFP(T1-PTC)マウスを作成した。T1-PTCマウスは生後3週時点で、腫瘍細胞が漿膜にまで浸潤するスキルス胃癌を模倣する組織像を呈していた。T1-PTCマウスでは早期から腫瘍の増殖がみられており、生後3週においても腫瘍による幽門部狭窄や閉塞を起こし、胃の排出障害によると思われる餓死によって大多数が死亡した。生後2ヶ月の胃においては、凝血塊を伴う胃潰瘍を形成する腫瘍が確認されたが、明らかな腹膜播種や遠隔転移は確認できなかった。免疫染色などでは、オルガノイドの皮下腫瘍実験と同様にαSMA陽性線維芽細胞やF4/80マクロファージの浸潤が明瞭であり、またWnt5a、Fzd5の発現も上昇していた。その他、間質細胞でのpSMAD3の核移行増加、Tgf-βファミリーの代表的なリガンドであるTgfb1の発現増加、未分化型腫瘍の増殖進展に強く関わるとされるCancer-associated fibroblast(CAF)のマーカーの一つであるGremlin 1の間質での強い発現など、Tgf-β経路の関連を示唆する結果であった。最後に、WTオルガノイド、PCオルガノイド、PTCオルガノイド、WTマウス胃、T1-PCマウス胃、T1-PTCマウス胃からRNAを抽出し、6検体のRNA sequenceを解析したところ、GSEA解析でT1-PTCマウスにおいて血管新生や線維化に関する遺伝子群の発現が上昇していた。

 今後の展望としては、治療実験による生存延長の試みや、投薬による腫瘍細胞や間質細胞の変化の解析を検討している。さらには、未分化型胃癌の増殖進展に関わるWnt5aの受容体の一つとされるFzd5のノックアウトマウスとの掛け合わせや、その他Arid1aノックアウトマウスなどとの掛け合わせも予定しており、様々な遺伝子の組み合わせでのphenotypeの変化を解析し、胃癌研治療の進歩への貢献の一助とする次第である。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る