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大学・研究所にある論文を検索できる 「Si(111)表面上のIn原子層金属の原子構造と電子状態」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Si(111)表面上のIn原子層金属の原子構造と電子状態

寺川, 成海 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k23727

2022.03.23

概要

厚さを数原子層程度まで薄くした金属超薄膜は、伝導電子の運動が2次元面内に閉じ込められた2次元金属とみなすことができ、原子層金属と呼ばれる。原子層金属はその薄さゆえ単独では存在しえず、半導体などの結晶の表面においてのみ生成される。近年、グラフェンなどの原子層物質とともに、新規な原子層金属の開発、物性解明が進められている。

申請者は、典型的なpブロック金属であるインジウムをSi(111)表面に吸着させた系において、新たな原子層金属を確立し、その原子構造と電子状態を明らかにした。

従来、この系においてはインジウム2原子層からなる√7×√3-rect構造を有する安定相が知られており、その電子構造、電気伝導特性等が明らかにされてきた。これより厚い3層以上の安定構造は知られておらず、一方、これより薄い1原子層程度においては、√7×√3単位格子を有する2つの相の存在が指摘されていた。しかし、これらの2つの相については試料作製条件が確立しておらず、原子配列、電子状態に関しても明確な知見は得られていなかった。

申請者は、まず、1原子層構造について試料作製条件を精密制御することにより、従来報告されていた2つの相を再現し、これらが実は同一の原子配列を有する単一の相であることを明らかにした。さらに、この相においてはIn単原子層が下地格子に対して一軸方向にのみ不整合な構造を有することを見出した。また、その電子状態を検討し、In2原子層からなる安定相が2次元自由電子系を有するのに対し、In1原子層からなる新たな相は、Si基板との化学結合により、異方性の強いフェルミ面を有することを見出した。また、この1原子層からなる相を冷却すると、250〜210 Kにおいて相転移が起こり、絶縁体的な電子状態を有する√7×√7相に転移することをあきらかにした。

以上の結果より、Si(111)表面上のIn単原子相においては、その電子状態は、基板であるSi表面のダングリング・ボンドとの結合により強く影響を受けており、基底状態では絶縁体であることがわかる。このことから、申請者は、2次元金属的電子状態を有するとされている2原子層構造においても、Si表面に直接結合する下層In原子層は金属状態にはあまり寄与していないと考え、Si表面とIn層の間に適切な緩衝層を設けることにより、自立した2原子層金属に近い金属相を実現できると考えた。

そこで、申請者は、緩衝層としてSiと強く結合するMg原子を選択し、Si(111)表面に、2:1の原子数比のIn原子とMg原子を蒸着して、安定な3原子層構造を作製することに成功した。この3原子層構造において、Mg原子は最下層においてSi原子と結合し、その上に2原子層からなるIn層が形成される。Si上に直接形成されるInの2原子層が正方格子構造を取るのに対し、Mgを緩衝層とするInの2原子層は六方格子を形成する。申請者は、この3層構造の角度分解光電子分光を行った。従来知られていたIn 2原子層のみからなる√7×√3-rect相のフェルミ面が単一の円からなるのに対して、Mg緩衝層でSi基板から分離された2原子層からなるIn相においては、その2次元フェルミ面が、フェルミ波数の異なる2つの同心円からなることを見出した。

申請者は、Mgを緩衝層とする3原子層構造に対するバンド計算を行い、実験で観測されたバンド構造の特徴が再現されることを確認した。さらに、実験で観測された2つの円形フェルミ面に対応するバンドの、フェルミ面における電荷密度分布を計算し、外側のフェルミ面の電子が金属In相全体に広がっているのに対し、内側のフェルミ面の電子分布は、最上層と中間層の間に節面を有することを見出した。このことは、2つのフェルミ面が、最上層、中間相の2層の金属In層の間の結合状態、反結合状態に由来していることを示している。これらの結果より、Mg層を緩衝層とした3層構造において、自立した2原子層金属に近い電子状態が実現されると結論した。

以上の研究により、申請者はSi(111)清浄表面上のIn原子層金属の作製法を確立し、その原子構造と電子状態を解明した。Si(111)表面上にInを直接成長させると、下層のIn層の電子状態はSiとの結合による強い影響を受けるが、Mg層を緩衝層とすることにより、擬似的に基板から切り離された2原子層金属を作り出せることを示した。本研究の成果は、単原子層金属、2原子層金属にとどまらず、それ以上の厚さの原子層金属を作製できる可能性を示しており、この手法が、金属の電子状態が2次元から3次元へと変化していく過程を解明するのに有効であることを示唆している。

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