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大学・研究所にある論文を検索できる 「小児高難度内視鏡外科手術のための新生児食道閉鎖症モデルの開発と狭小空間における縫合手技の妥当性の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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小児高難度内視鏡外科手術のための新生児食道閉鎖症モデルの開発と狭小空間における縫合手技の妥当性の検討

出家, 亨一 東京大学 DOI:10.15083/0002004247

2022.06.22

概要

小児においても内視鏡外科手術は、従来の開胸・開腹手術より創が小さく整容性に優れ、術後回復が早く入院期間の短縮や疼痛の軽減が得られ、晩期合併症も抑えられるため、低侵襲で患者の利益が大きい手術である。そのため、多くの小児外科疾患に対する内視鏡外科手術が標準術式となるまでに至った。

 先天性食道閉鎖症は、先天的に食道の交通が途絶し盲端となっているため、出生後早期に治療が必要となる新生児期の代表的な小児外科疾患である。従来法は後側方切開によるアプローチのため、肋間直上の皮膚を大きく切開し整容性が悪いばかりか、翼状肩甲、側弯などの晩期合併症をしばしば認める。一方、胸腔鏡下食道閉鎖症根治術は、従来法より手術時間は長くなるが、早期の抜管や経口摂取、入院期間短縮をもたらし、吻合部狭窄や縫合不全といった合併症発生率は同等と報告されてきた。さらに、従来法よりも整容性に優れ、晩期合併症が減少することから、メリットがある術式として捉えられるようになった。しかし、新生児の組織は脆弱で、術野が非常に狭小である上、体格差、多彩な病型、合併奇形といった個人差が影響するため、専門的な内視鏡手術手技と知識が求められる高難度術式とされている。さらに小児外科の場合、成人外科の腹腔鏡下胆嚢摘出術のような基本的な内視鏡手術手技を学べる疾患がほとんどなく、実際に胸腔鏡下食道閉鎖症根治術を行うまでの段階的なトレーニングを積める環境の構築が難しい。それでも、患者の利益を考えるならば、本術式の習得は避けて通れない時期に差し掛かっている。そのため、実際の手術までに十分にトレーニングし、可能な限り本術式に習熟した小児外科医を育成する方法を構築することが期待されている。

 内視鏡外科手術のトレーニングには様々なツールがある。ドライボックスやバーチャルリアリティシミュレータの有用性は報告されているが、成人用が多く新生児サイズはない上、実際の手術環境と同様の状況で剥離や縫合のような複雑な操作の練習はできない。また、アニマルやウェットトレーニングは、臓器の質感を経験できる点で有用だが、ヒトと解剖が異なる上、くり返しの練習に不向きで、倫理面や金銭面、実験時に人手を多く必要とするなどの問題が残る。

 そこで、私達は臨床の場で経験を積むことが難しいため普及され難い、先天性食道閉鎖症に対する胸腔鏡下食道閉鎖症根治術に対して、実際の手術までに有効かつ十分なトレーニングが行うことができる、解剖学的特徴を精巧に再現した疾患特異的なトレーニングモデルを開発し問題解決を目指す。本研究では、開発したモデルで既存の評価手法を用いて実験を行い、縫合手技評価やトレーニングによる手技向上に関して本モデルの妥当性を確認することを目的とした。

 開発したモデルは、実際の手術環境を正確に再現するため、体重3kgの食道閉鎖症患児のCTデータをもとに新生児胸郭を作製した。胸郭モデル内には、質感を疑似した模擬食道を設置し、胸腔鏡下食道食道吻合術が行える仕様とした。

 まず、本術式の経験がある医師6名を対象に本モデルについてのアンケート調査を行ったところ、新生児の胸腔や実際の内視鏡下縫合の状況が再現されており、手技評価やトレーニングとしても有用であるとの評価が得られ、胸腔鏡下食道食道吻合を行うモデルとしてのFace Validityを示した。つづいて、小児外科医40名を対象とした胸腔鏡下食道食道吻合の手技評価実験を行った。タスクはモデル内で内視鏡下の運針・結紮の手技を1針行うこととした。手技評価は、タスク完遂時間、針や糸を把持した回数、手技ビデオを29項目チェックリストとエラースコアという二種類の評価手法を用いて行った。新生児胸腔鏡下食道食道吻合の経験が多い群は、経験がない群と比較して、タスク完遂時間、針糸把持回数、二種類のビデオ評価の全ての項目で良好な成績が得られた。実際の胸腔鏡下食道食道吻合術の経験が多い医師の方が優れている結果となり、既存の評価手法を用いた内視鏡下縫合手技評価における新生児食道閉鎖症モデルのConstruct Validityを示した。一方で、別の群分けの指標として日本内視鏡外科学会の技術認定医の資格の有無で比較したところ、全ての評価項目で両群の手技の差を認めることができなかった。しかし、技術認定医のみを対象として胸腔鏡下食道閉鎖症根治術の経験の有無で比較したところ、経験のある群の方が経験のない群より全ての評価手法で優れた成績となった。つまり本実験の結果からは、小児外科の技術認定医の資格よりも胸腔鏡下食道閉鎖症根治術の経験を有することの方が、先天性食道閉鎖症の胸腔内吻合の手技の差を区別するのに有用な指標となり得る可能性が示唆された。また、本研究で開発した食道閉鎖症モデルは、高度な技術を習得するためのトレーニングとして、内視鏡外科手術の初心者だけでなく、ある程度一般的な内視鏡手術の経験を有する中級レベル以上の医師にとっても有用なトレーニングツールとなり得る可能性がある。

 次に、小児外科や内視鏡外科手術の知識や技術のない一般学生23名を対象に、内視鏡下の縫合手技トレーニングを二日間行う実験を行った。トレーニング前後の手技評価を比較することにより、トレーニング効果を検証した。また、参加者を新生児食道閉鎖症モデルで練習する群(食道群)とドライボックスのみで練習する群(ドライ群)との2群に分け、どちらの群がより高いトレーニング効果が得られたかも検証した。トレーニング冒頭は、両群ともに成人用ドライボックスに設置した縫合パッドによる縫合手技練習を3時間行った。その時点でドライボックスに設置した縫合パッドを用いた内視鏡下縫合と、新生児食道閉鎖症モデルに設置した模擬食道を用いた食道食道吻合を1針ずつ行い、それぞれの手技を評価した。その後は前述した2群に分け、それぞれドライボックスと新生児モデルに設置した模擬食道を用いて内視鏡下食道食道吻合を二日間合わせて計8時間練習した。二日目の練習後に初日と同様、ドライボックスおよび新生児食道閉鎖症モデルを用いた内視鏡下の縫合を1針行い、その手技を評価した。新生児食道閉鎖症モデルを用いた胸腔鏡下食道食道吻合による手技評価では、食道群はトレーニングにより二日目の方がタスク完遂時間、チェックリストの点数、エラースコアの全ての指標で良好な成績であり、食道モデルを用いた縫合練習のトレーニング効果が認められた。ドライ群もトレーニング前後でチェックリストの点数およびエラースコアにおいて成績の改善を認め、ドライボックスを用いた縫合練習もトレーニング効果を認めた。一方、両群のトレーニング二日目の手技評価に注目すると、食道群がドライ群よりエラー率の改善を有意に認めた。また、エラースコアの詳細項目に着目すると Missed Grasp、Excessive manipulation、Needle Out of View、Tissue Injured、Incomplete or Repeated Bite など多くの指標でトレーニングにより食道群のエラー率改善を認めたが、その中でも Instrument not assistingは、二日目の手技評価で食道群がドライ群よりエラー率の有意な減少が見られた。このことは、非常に狭小な空間である食道モデルを用いたトレーニングは、ドライボックスによるトレーニングよりも左右の鉗子を協調して動かすことを自然と学習できる環境にあると推察される。一方、縫合パッドを設置したドライボックスを用いた縫合手技評価の検証では、食道群、ドライ群とも二日間のトレーニングにより成績の向上を認め、トレーニング効果を認めた。しかし、二日目の手技評価で両群の差を認めるに至った項目がないことから、食道群、ドライ群とも同じようなトレーニング効果であったと推察される。本実験結果より、既存のドライボックスによるトレーニングでも食道閉鎖症モデルを用いたトレーニングでも胸腔鏡下食道食道吻合の手技は向上するが、より難度の高い食道閉鎖症モデルを用いたトレーニングの方が、手技のエラーが減少し効率的な操作を早く習得できる可能性が示唆され、本モデルのConcurrent Validityを示した。

 開発したモデルの今後の活用としては、トレーニングとして用いられることであるが、学会のハンズオンやセミナーでの利用だけでなく、日本内視鏡外科学会技術認定制度における手技評価としても使用されることが望ましい。胸腔鏡下食道閉鎖症根治術は、小児外科領域でも最高難度の術式であるため、その術式の習得は通常のトレーニングでは難しい。そのため、実際の手術を行うまでに事前のトレーニングにより必要な技術が習得できるような体制を整える必要があり、今回開発した疾患特異的モデルにはそのような利用価値があるものと考えられる。今回の実験により、開発したモデルの手技評価やトレーニング効果に関する妥当性を示すに至った。しかし、疾患モデルでトレーニングを行い一定のレベルにまで手技の向上が得られても、それが実際の手術に本当に役立っているのか、Predictive Validityを評価することが今後は求められる。そのためには、トレーニングでも実際の手術でも同様な手法で手技を評価することが必要であろう。将来的には画像解析やディープラーニングの技術を駆使し自動評価するシステムを作成することが望ましい。各手技の良し悪しを瞬時に評価し、トレーニングを行った被験者や実際の手術を行った術者にすぐフィードバックすることができるようになれば、被験者の足りない技術が可視化され、これまでよりも効率的なトレーニングを積めるようになるだけでなく、指導医の負担軽減にも貢献できると考えられるため、今後の課題として取り組みたい。

 本研究の成果が、これからの小児内視鏡外科手術の普及と発展の一助となることを願っている。

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