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3Dプリンタを用いた臓器立体モデルの作成と大腸外科手術における有用性の検討

北條, 大輔 東京大学 DOI:10.15083/0002005129

2022.06.22

概要

【研究の背景と目的】
近年の医療用画像診断装置の発達に伴い、血管構築像を含む臓器の3Dイメージの構築が容易になった。さらに、3Dプリンタの普及により実物大の臓器立体モデルの作成が可能になった。今回、3Dプリンタを用いて臓器立体モデルの作成と大腸外科手術における臨床上の利用や解剖の教育を目的とした有用性の検討を行うこととした。第1章では直腸癌に対する側方郭清の術中ナビゲーションを目的として骨盤立体モデルを作成し、その有用性について実際に手術に関わった医師に対してアンケートを行う事で明らかにした。第2章では骨盤内の解剖の教育を行う上で、骨盤立体モデルの有用性について、解剖書を用いた従来の教育法と比較することで明らかにした。第3章では弾性樹脂で上腸間膜動静脈分枝と膵臓及び十二指腸の可塑性の臓器立体モデルを作成し、腹腔鏡下結腸右半切除術の術中所見と後方視的に比較し、臨床への応用を検討した。

第1章骨盤立体モデルの臨床における有用性
【背景と目的】
側方郭清は本邦の大腸癌治療ガイドラインで推奨される下部進行直腸癌に対する標準術式である。しかし、側方郭清は術中出血や自律神経損傷に伴う術後排尿・性機能障害のリスクがあり、難易度の高い手技である事が知られている。その理由の一つとして骨盤内の複雑な解剖が挙げられ、特に血管走行については個人差が大きく、解剖の理解をより複雑にしている。

腹腔鏡手術やロボット支援下手術といった低侵襲手術の普及に伴い、側方郭清は開腹手術以外のアプローチ法でも行われるようになった。しかし、これらの手術においては開腹手術のような手から伝わる触覚が一部もしくは完全に欠如しているため解剖の認識が難しくなる。そのため術前に骨盤内の解剖を十分に理解している事が重要である。側方郭清を行う症例に対して骨盤立体モデルを作成し、手術に参加した大腸外科医に対してアンケートを行う事で、骨盤立体モデルの主観的な評価を行い、骨盤内解剖の理解における有用性を明らかにした。

【方法】
2017年6月から2019年2月の期間で、直腸癌に対して側方郭清を行なった22症例を対象とした。30名の外科医を対象として骨盤立体モデルと3Dイメージを提示し、アンケートを行うことでその有用性について主観的な評価を行った。また、症例毎に側方郭清を行なった術者および助手に対して改めてアンケートを行い、骨盤立体モデルが解剖を理解する上で役に立つか、骨盤立体モデルの有用性を5段階で評価した。

【作成方法】
術前に撮影された0.5mmスライス厚の造影CTのデータを抽出し、OsiriXMDを用いて3Dイメージを作成した。3Dイメージは動脈と骨はボリュームレンダリング法を利用して作成し、静脈、神経、尿管、筋肉といった構造物は体軸断面の画像においてRegion of interestとして手書きで囲うことでセグメンテーション化して作成した。3Dプリンタを用いてプリントし、塗装した。

【結果】
対象患者は男性13症例、女性9症例を含み、うち5症例が開腹手術、12症例が腹腔鏡手術、5症例がロボット支援手術を施行された。また、8症例が左側のみ、7症例が右側のみ、7症例が両側の側方郭清を施行されており、合計29片側の側方郭清が施行された。また、側方リンパ節転移陽性を疑う症例は17症例(19片側)あった。

外科医30人に対して行ったアンケートで、立体モデルをCTや3Dイメージと比較したところ、立体モデルが術前シミュレーションを行う上で最も有用と答えた外科医は18人(60%)で、術中ナビゲーションを行う上で最も有用と答えた外科医は26人(87%)であった。全症例の術者および助手に行った「骨盤立体モデルが解剖の理解に役立つか。」という質問では、各症例で3-4回答、合計87回答得られ、平均4.68(3-5)点であった。

【小括】
骨盤立体モデルは側方郭清を行う症例に対して、術前シミュレーションや術中ナビゲーションを行う際に、解剖を理解する上で有用であると考えられた。

第2章骨盤立体モデルの解剖教育における有用性
【背景と目的】
近年、3Dプリンタを利用して作成された心臓、頭蓋、脊椎といった臓器立体モデルの解剖学習における有用性を示した論文が報告されている。しかし、これらの研究は学生に対して行われた研究であり、若手外科医師も対象に含めて臓器立体モデルを用いた解剖教育の有用性についての報告はない。また、これらの臓器は比較的単純な構造であり、骨盤内臓器について立体モデルを用いた教育について報告はない。

本研究では解剖教育を目的として骨盤立体モデルを作成した。2次元のシェーマを含む従来の解剖書を用いた学習方法と比較する事で、学生、研修医、若手外科医に対する解剖の知識獲得における有用性について評価を行なった。

【方法】
2018年7月から2019年7月まで、学生34名、研修医34名、医師経験数10年以下の大腸を専門とする外科医師34名を対象とした。

参加者に対して教育前に合計10問からなる穴埋め形式のShorttestを行い、基礎知識について評価を行なった。参加者を立体モデル群と解剖書群の2群に無作為に分け、各群に割り当てられた学習方法(立体モデルもしくは解剖書)で骨盤内の解剖について5分間の教育を行った(教育Ⅰ)。教育Ⅰ後、学習効果を評価する目的で教育前に行なった試験と同じShorttestを再び行うとともに、合計40問からなる立体モデルや解剖書内の解剖の名称を問うLongtestを行なった。次に教材を交換し、立体モデル群に対しては解剖書、解剖書群に対しては立体モデルを用いて教育を行なった(教育Ⅱ)。教育Ⅱ後、学習効果を評価する目的で教育Ⅰと同じ試験であるShorttestとLongtestを行なった。

【結果】
本研究の参加者102名は立体モデル群51名(学生17名、研修医17名、外科医17名)と解剖書群51名(学生17名、研修医17名、外科医17名)に無作為に分けられた。いずれのグループにおいても、立体モデル群と解剖書群の間に、性別、経験医師年数、教育前に行ったShorttestの得点に関して有意な差は認められなかった。

Longtestの結果に関して、参加者全員を含めて立体モデル群と解剖書群を比較したところ、立体モデル群で平均得点28.9点(95%信頼区間;27.0–30.8点)、解剖書群で平均得点21.7点(95%信頼区間;19.3–24.1点)であり、立体モデル群で有意に高い点数だった(p<0.001)。教育Ⅰ後のLongtestの得点は学生グループ、研修医グループ、外科医グループのいずれにおいても立体モデル群が教科書の群に比べて有意に高い点数だった(学生;p=0.03、研修医;p=0.002、外科医;p<0.001)。最終的な教育Ⅱ後のLongtestの結果は立体モデル群と解剖書群の得点に有意な差は認められなかった。

教育Ⅰ後のShorttestの結果は、学生、研修医、外科医いずれのグループにおいても立体モデル群は解剖書群より有意に得点が高いという結果であった。(学生;p=0.05、研修医;p=0.05、外科医;p=0.009)教育Ⅱ後のShorttestの結果は立体モデル群と解剖書群の得点に有意な差は認められなかった。

【小括】
学生、研修医、外科医に対する骨盤内解剖の教育において、骨盤立体モデルによる教育は解剖書を使った教育と比較して優れていた。

第3章可塑性上腸間膜動静脈分枝モデルの臨床応用

【背景と目的】
横行結腸癌に対する腹腔鏡手術は解剖が複雑であり、手技が難しい事が知られている。中結腸動静脈や右結腸動脈、副右結腸静脈の走行は個人差が大きく、結腸右半切除術を行う際、術中操作に伴って血管の走行が変動し術野も変化するため、特に腹腔鏡下においては術前に各血管の走行を十分に理解しておくことが重要である。しかし、CTangiographyで作成された従来の血管構築像では実際の横行結腸間膜を展開した術中の血管走行と異なるため、走行の理解が不十分であった。

今回、3Dプリンタを用いて弾性樹脂による可塑性上腸間膜動静脈分枝モデルの作成を試みた。モデルに可塑性を持たせることで、より術中所見に近い血管分枝の理解を得る事を目指した。立体モデルについて、術中所見と比較することで、臨床への応用についてその可能性を明らかにした。

【方法】
2017年4月から2019年3月に腹腔鏡下結腸右半切除術を行った症例の内、5症例を対象とした。CTを元にOsirixMD上で上腸間膜動静脈およびその分岐血管・膵臓・十二指腸を構築し、弾性樹脂を用いて3Dプリンタで上腸間膜動静脈分枝モデルをプリントした。作成した上腸間膜動静脈分枝モデルに対し、術中と同様に横行結腸間膜を腹側や尾側に展開し、術中所見の血管分枝と後方視的に比較した。

【結果】
横行結腸の展開に伴って中結腸動静脈や右結腸動脈、副右結腸静脈の走行は変化し、血管処理のアプローチ方法によって術中所見は異なっていた。可塑性上腸間膜動静脈分枝モデルを用いたシミュレーションでも同様の所見が得られ、立体的な解剖の認識が可能であった。

【小括】
腹腔鏡下右半結腸切除において弾性樹脂製の可塑性上腸間膜動静脈分枝モデルはシミュレーションを行う上で有用となる可能性がある。

【結論】
3Dプリンタで作成された臓器立体モデルは、大腸手術において解剖を理解する際や、教育を行う上で有用なツールである。

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