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大学・研究所にある論文を検索できる 「マルチオミクス統合解析によるシロイヌナズナ種内雑種における雑種強勢メカニズムの解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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マルチオミクス統合解析によるシロイヌナズナ種内雑種における雑種強勢メカニズムの解明

杉, 直也 筑波大学

2021.07.27

概要

雑種強勢とは、異なる系統や生物種間で掛け合わせた雑種第一代(F1 雑 種)がその両親よりもバイオマスや収量の増加やストレスへの耐性などの点で優 れた形質を示す現象を指す。雑種強勢は 100 年以上前から知られている現象で あり多くの研究がなされてきているが、そのメカニズムの全容は未だに明らか ではない。本研究は雑種強勢メカニズム解明に向けた新規知見を得て、それに基 づく新たな考え方を雑種強勢及びバイオマス研究に提供することを目的とした。

過去の報告では同一な材料を用いていながら報告間で結論が異なる場 合や、トランスクリプトーム解析の結果が表現型と一致しない場合が報告され ていた。それらの解決策として条件が安定で均一な植物栽培系の確立と多階層 的なオミクス解析が有効であろうと考えられた。したがって第2章ではまず初 めに、植物栽培系の確立を行った。材料には標準系統である Col-0 系統そして Col-0 系統と掛け合わせた F1 雑種がバイオマス増加を示すことが知られている C24 系統、そしてその F1 雑種を用いた。植物栽培系の確立は結果として生重量 のばらつきを大幅に減少させることに成功した。次に、確立した栽培環境を用い て生育させた F1 雑種及び両親系統をメタボローム解析に供した。その結果、F1 雑種において両親系統と比較して異なる挙動を示す化合物をいくつか特定した。この中で同定された代謝物として 2-オキソグルタル酸と呼ばれる炭素代謝及び 窒素代謝に重要な代謝物が存在した。同様の植物サンプルを用いて行ったマイ クロアレイ解析の結果、44 遺伝子が F1 雑種において有意な発現上昇を示してい た。これらを用いて GO 解析を行うと”nitrogen”を含む GO タームがいくつか検 出された。一方で、これらの遺伝子の中には窒素代謝経路を直接的に触媒する酵 素遺伝子のようにメタボローム解析の結果を直接的に説明し得る遺伝子は含ま れなかった。しかしながら、代謝物データ及び転写物データの両方が窒素代謝に関連した変動を示していたことから、窒素代謝関連酵素遺伝子についてさらに 詳細な解析を進めることとした。するといくつかの窒素代謝関連遺伝子はトラ ンスクリプトーム解析における発現変動遺伝子の基準は満たさなかったものの、 F1 雑種において発現増加傾向を示した。これらに遺伝子について定量 PCR によ る発現確認を行ったところ、葉緑体型グルタミン合成酵素(AtGLN2)の有意な発 現上昇が検出された。AtGLN2 は光呼吸によって生じる NH +の葉緑体内におけ る再同化に重要であることが知られている。このことから、F1 雑種における AtGLN2 の発現上昇は光呼吸によって生じる NH +を無毒化する代謝反応が活性 化している可能性が考えられた。光呼吸は高 CO2 条件では起きないことが知ら れているため、光呼吸による NH +をほとんど生じない条件である約 0.2%の CO2 濃度で植物体の生育を観察した。その結果、高 CO2 条件では雑種強勢レベルの 有意な低下を観察した。以上のことから、F1 雑種におけるバイオマス増加メカ ニズムとして、光呼吸や窒素代謝が関連する新規モデルを構築した。

近年、エピジェネティックな制御に関わる遺伝子を欠損した変異体においては雑種強勢が見られないことや、シロイヌナズナ、トマト、イネなど多くの植物種の F1 雑種においてエピジェネティックな制御に関わる small RNA の発現変化などが報告されており、雑種強勢に対するエピジェネティクスの関与が示唆されている。雑種強勢に対するエピジェネティクスの関与、そして F1 雑種における AtGLN2 の発現上昇と DNA メチル化の関係について新たな知見を得るために、DNA メチル化酵素 MET1 をコードする遺伝子の欠損株を用いた表現型解析、メチローム解析、トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、メタボローム解析を行った。ゲノム全体の DNA メチル化が消失する met1 変異体の表現型解析の結果、met1 変異体は野生型と比較して有意なバイオマスの減少を示した。メタボローム解析の結果、met1 変異体においては糖代謝、TCA 回路、窒素代謝、アミノ酸代謝など多くの点で変動が観察された。その一方で 2-オキソグルタル酸の有意な変動は見られなかった。このことから DNA メチル化はバイオマス制御及び適切な代謝を維持するためにも重要な働きがある一方で、2-オキソグルタル酸の変動には関与しない可能性が示唆された。F1 雑種における AtGLN2 発現上昇の原因について考察するため、データベースにて AtGLN2 遺伝子周辺領域を確認したところ、いくつかのトランスポゾンが存在し、野生型の Col-0 及び C24 において DNA メチル化が認められた。そこで、当該領域の DNAメチル化の減少が AtGLN2 の発現上昇に関連し得るかどうかを明らかにするために、met1 変異体における AtGLN2 の発現量を確認したものの AtGLN2 の発現上昇は見られなかった。また、F1 雑種のメチロームデータの解析からも F1 雑種の AtGLN2 遺伝子座におけるDNA メチル化レベルは両親系統と比較して明確な差はないことが明らかとなった。これは F1 雑種における AtGLN2 の発現上昇は当該遺伝子領域の DNA メチル化を介したメカニズムではなく、上流で働く転写因子等を介した転写活性化や small RNA を介した転写後の mRNA 分解などの新規なメカニズムによるものである可能性が強く示唆された。

ここで提唱された新規モデルはこれまでには雑種強勢への関与が指摘されてこなかった窒素代謝や光呼吸を介したバイオマス制御を提案しており、新規性がある。また、このモデルの適応可能範囲についても言及したい。C4 植物はルビスコ周辺の CO2 濃度を上昇させるためのクランツ構造を持つために光呼吸はほとんど起こらないとされる。したがって、当初の当該新規モデルはシロイヌナズナ、イネ、トマトなどの C3 植物では成立し得るが、トウモロコシ、ソルガムなどの C4 植物においては成立しないメカニズムであると考えられた。しかしながら、近年、トウモロコシの F1 雑種においても光呼吸関連の遺伝子や代謝物の変動が報告された。本研究とトウモロコシの報告間で発現変動を示した遺伝子は異なることから、遺伝子機能制御メカニズムは異なっている可能性が高いが、生理学的レベルでは類似したメカニズムで F1 雑種におけるバイオマス増加に貢献している可能性がある。このような観点からも光呼吸を介した新規雑種強勢モデルはシロイヌナズナやトウモロコシはもちろん、その他の多くの植物種において観察される雑種強勢に対して適応可能な典型モデルとなる可能性を秘めている。これをきっかけとしてさらに異なる品種や生物種における雑種強勢への関与を調べることで、雑種強勢の全体像が明らかとなることを期待される。

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