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大学・研究所にある論文を検索できる 「白血病関連遺伝子EVI-1の正常造血における下流標的の探索」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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白血病関連遺伝子EVI-1の正常造血における下流標的の探索

千葉, 晶輝 東京大学 DOI:10.15083/0002005058

2022.06.22

概要

【序文】
 Ecotropic viral integration site 1 (EVI1)を高発現する急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Leukemia; AML)は極めて予後不良な一型だが、正常造血幹細胞胞(Hematopoietic Stem Cell; HSC)の維持にもEVI1は必須なため治療標的とするのは難しい。EVI1の下流標的が発現量および細胞の状態によって大きく異なっている可能性があり、造血細胞とAML細胞での下流標的の違いを明らかにすることが、難治性AMLの病態解明と治療標的の探索につながると考えられた。しかしながら、in vivoではEvi1の発現が長期の骨髄再構築能を有するHSCに限局しており、その後のアッセイに必要な細胞数が十分確保しにくいこと、また網羅的解析に使用可能な品質のanti-EVI1抗体がないことが、これまでEVI1の正常造血における下流標的の探索を困難にしていた。
 本研究ではEVI1の正常造血における下流標的の探索を目的とし、3×FLAGタグをEvi1遺伝子の3’端にノックインしたマウス造血細胞株32D-cl3を用いてクロマチン免疫沈降シークエンス(ChIP-seq)を施行した。またEvi1遺伝子をノックアウトした32D-cl3を用いてRNAシークエンス(RNA-seq)を施行し、正常造血細胞に特異的なEVI1の下流標的の候補を絞り込み、正常造血幹細胞においてもそれらの遺伝子の発現制御にEVI1が関与している可能性を示した。

【主な材料と方法】
Evi1ノックアウト32D-cl3細胞株および3×FLAGタグノックイン32D-cl3細胞株
 CRISPR/Cas9 systemを用いて作成した。両者ともsgRNA/Cas9ベクターの作成、ノックイン細胞株作成ではドナーベクター(pFETCh_Donor)の作成も行い、エレクトロポレーションで細胞株に遺伝子導入、選択およびシングルセルソーティングを行ってクローン化した。

Evi1条件付きノックアウトマウス(Evi1cKOマウス)
 in vivoでのEvi1cKOマウスの作成には、Evi1fx/fxマウスをMx1-Creトランスジェニックマウスと交配させ得られた個体(Evi1cKOマウス×Mx1-Creトランスジェニックマウス;Evi1fx/fxMx1-Cre(+)マウス)をジェノタイピングし、6-8週齢時に500mgのPolyinosinic-polycytidylic acid (pIpC; Cayman Chemical, Ann Arbor, MI)を3日おきに3回腹腔内注射することで造血細胞特異的にCreリコンビナーゼの発現を誘導した。

ChIP-seq
 レトロウイルスを用いて3×FLAG-EVI1をマウスの造血細胞に導入し、AMLを発症させたマウスのAML細胞、および3×FLAGタグをEvi1の3’端にノックインした32D-cl3細胞をそれぞれ2×107個回収し、anti-FLAG抗体でChIPを行い、製造者推奨のプロトコールでライブラリーを作成しChIP-seqを行った。

RNA-seq
 Evi1ノックアウト32D-cl3細胞株2クローン及び野生株32D-cl3細胞株2クローンからそれぞれ1×107個ずつ全RNAを分離し、製造者推奨のプロトコールでライブラリーを作成しRNA-seqを行った。また、Evi1を外因性に発現させた細胞を移植したマウスの、移植後1ヶ月およびAML発症後(約10ヶ月)の細胞を利用して同様にRNA-seqを行った。

【結果】
Evi1ノックアウト32D-cl3細胞株は野生株に比してG-CSF刺激で分化方向に進みやすい
 IL-3存在下では細胞数に差がつかなかったが、G-CSF存在下の場合で、測定day5-day6の時点で細胞数の違いに有意差が認められた。また顆粒球の分化マーカーであるGr-1の陽性率により検証したところ、day7の段階でEvi1ノックアウト細胞株では野生株よりGr-1陽性率の増加を認め、Evi1の非存在下では造血細胞は分化しやすいと考えられた。

ChIP-seqの結果と抽出遺伝子群の検証
 32D-cl3細胞株はday3の、EVI1の発現が保たれつつ分化が進んでいると考えられる細胞およびday0の未分化性を保った細胞の2種類、1検体ずつ2検体のChIP-seqを行い、このうちday0特異的に見られるピークは、EVI1と協調して造血細胞の未分化性に関わる遺伝子群として考えられる。これらの遺伝子群を解析したところ、HDACclassI(histone deacetylase)、RAC1 (RAS-related C3 botulinus toxin substrate 1) signalingに関わる遺伝子群などが抽出された。

RNA-seqの結果と候補遺伝子の絞り込み
 Evi1ノックアウト32D-cl3細胞株2種および野生株2種のRNA-seqから得られた発現変動遺伝子の中で、倍率変化(Fold Change)が2以上、偽発見率率 (False Discovery Rate: FDR)が0.05未満の統計学的有意差のある遺伝子群を抽出したところ、ノックアウト細胞株で遺伝子発現が有意に上昇した遺伝子は152、低下した遺伝子は155であった。先のChIP-seqでday0特異的にピークのあった6494領域とEvi1ノックアウト細胞株で遺伝子発現が低下する155遺伝子に共通する遺伝子を抽出したところ、24遺伝子が同定された。

in vivoでの検証に向けての候補遺伝子のさらなる検証
 24遺伝子のin vivoでの発現量を検討するため、EVI1を過剰発現した細胞を移植して白血化したマウスの、移植後早期およびAML発症後の細胞を利用したRNA-seq解析結果を参照した。上記24遺伝子のうち、移植後早期に発現量が増加しAML発症後には発現量が低下していた遺伝子、すなわちEVI1によって発現が増加するもののAML発症には関わっていないと思われる遺伝子は、Blm(BLM RecQ like helicase), Gfi1(Growth Factor Independent 1 Transcriptional Repressor), Gfod1(Glucose-Fructose Oxidoreductase Domain-Containing Protein 1), H2-dma (Histocompatibility 2, class II, locus Mb2), Mfsd2b (Major facilitator superfamily domain containing 2Bの5遺伝子のみであり、これらの遺伝子の正常造血における意義を検証することとした。

H2-dmaノックアウト、Mfsd2bノックアウト32D-cl3細胞株は、Evi1ノックアウト32D-cl3細胞株と同様に、野生株に比してG-CSF刺激で分化方向に進みやすい
 上記のうちH2-dma, Mfsd2bのノックアウト32D-cl3細胞株のday7の段階での分化の程度を、Gr-1の陽性率により検証したところ、day7の段階でH2-dmaノックアウト細胞株、Mfsd2bノックアウト細胞株はいずれも野生株よりGr-1陽性率の増加を認めた。H2-dma, Mfsd2bいずれも非存在下で造血細胞は分化しやすいと考えられ、これはEvi1ノックアウト細胞株と同様の性質を示している。この結果から、これらの遺伝子はEVI1と協調して正常造血における未分化性維持に関わっている可能性が示唆された。

Evi1cKOマウスでEvi1を条件付き欠失させるとH2-dma,Mfsd2bの発現量が低下する
 Evi1cKOマウス骨髄中のLSK分画細胞20,000個を蛍光セルソーターでソートし、LSK分画細胞でのmRNA発現量をEvi1cKOマウスとコントロールマウス(それぞれN=3)において比較したところ、H2-dma, Mfsd2bはEvi1cKOマウスにおいてEvi1の欠失と連動して発現量が低下した。この結果からHSCにおいてもこれらの遺伝子の発現制御にEVI1が関与している可能性があることが示された。

【考察】
 本研究で私はAML関連遺伝子EVI1の正常造血における下流標的の探索を目的とし、3×FLAGタグをEvi1遺伝子の3’端にノックインしたマウス造血細胞株32D-cl3を用いてChIP-seqを施行した。また、Evi1遺伝子をノックアウトした32D-cl3を用いて、RNA-seqを施行した。これらの解析を行い正常造血特異的なEVI1の下流標的の候補を絞り込んだ。さらにHSCの未分化性の維持に、それらの遺伝子が関与している可能性があることを示した。
 今回同定された標的遺伝子のさらなる機能や、正常造血においてEVI1とどのように関連しているかに関しては、今後ノックアウト細胞株や(条件付き)欠失マウスを利用した検証が必要であると考える。また少ない細胞数でも網羅的に解析ができる技術が近年報告されており、正常マウスのEvi1遺伝子領域の3’端に3×FLAGタグをノックインしたマウスを用いての今後の検証も期待される。

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