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造血幹・前駆細胞におけるASXL1変異による核内構造体形成異常の解析

山本, 圭太 東京大学 DOI:10.15083/0002005108

2022.06.22

概要

悪性腫瘍は数ある疾患の中でも死因の上位に位置し、それを克服するための研究が日夜世界中で行われている。白血病は血液の悪性腫瘍である。造血システムの頂点に存在する造血幹・前駆細胞(HSPCs)が変異し、無秩序な増殖・正常造血の障害を引き起こすことが白血病の病態と考えられる。白血病細胞では様々な遺伝子変異が認められ発がんの誘因となっていることが知られている。我々の研究室では白血病発症のメカニズムを解き明かすことを目的とし、原因遺伝子の一つとして考えられているASXL1(Additional Sex Combs Like1)について研究を行っている。

正常細胞が腫瘍化するまでには段階的な経緯が存在し、様々な固形がんで正常細胞と腫瘍細胞の間に位置する前腫瘍性病変の存在が知られている。近年、血液細胞でもクローン性造血(CH:Clonal hematopoiesis)と呼ばれる前腫瘍性状態が存在することが明らかになり、注目を集めている。CHではある一つの造血幹細胞が遺伝子変異により増殖優位性を獲得した状態となり、自己複製能と多分化能を保持して正常な造血に携わりながらもクローン性に増加していく。健常者の一部にCHを有する集団が存在することが分かり、急性骨髄性白血病(AML:Acute myeloid leukemia)や骨髄異形成症候群(MDS:Myelodysplastic syndrome)に進展するリスクとなることから、CHは血液における前腫瘍性状態にあると考えられている。

CHで変異が見られる遺伝子の一つであるASXL1は、ヒストン修飾因子でありヒストンH34番リジンのトリメチル化(H3K4me3)、ヒストンH327番リジンのトリメチル化(H3K27me3)、モノユビキチン化されたヒストンH2A119番リジン(H2AK119Ub)を脱ユビキチン化することで遺伝子発現を制御する。造血器腫瘍患者におけるASXL1変異の多くはラストエクソンに集中し、フレームシフト変異を起こしてC末端を欠損したASXL1タンパク質(ASXL1-MT)が生じると考えられている。我々の研究室ではASXL1-MTが造血器腫瘍発生に寄与するメカニズムについて研究を行ってきた。生理的な条件下でASXL1-MTが造血に与える影響を評価するため、ヒトASXL1E635Rfsx15変異をRosa26遺伝子座に挿入した変異型ASXL1コンディショナルノックイン(ASXL1-MTcKI)マウスを作製し、Vav-Creトランスジェニックマウスと交配して造血細胞特異的にASXL1-MTを発現するマウスを作成した。本マウスは加齢に伴い貧血、血小板増加、および骨髄球系細胞への分化シフトを認め、単独では造血器腫瘍の発症には至らないものの、追加の変異を獲得することにより白血病化することなどから、CHの病態に近いモデルマウスであることが示された。私はこのASXL1-MTcKIマウスを用いて、ASXL1変異が白血病発症に寄与する新たなメカニズムの解明を試みた。

近年、液-液相分離(LLPS:liquid-liquid phase separation)という現象によって細胞内に形成される膜の無い構造体(Membraneless Organelle)に注目が集まっている。LLPSとは水と油が分離するように異なる組成の水溶液同士が互いに分離して集合する性質であり、細胞内でタンパク質が特定の領域に集まって効率的に機能したり、反対に望ましくない領域で働かないように隔離したりする際にLLPSが働くことが明らかになってきている。パラスペックルはLLPSにより形成される核内構造体で、同じく核内のMembraneless Organelleである核スペックル(Nuclear Speckle)とともに核質のクロマチン間に存在する。パラスペックル・核スペックルともに、mRNAのスプライシングや核内へのretention、転写調整などRNA制御全般に関与するとされているが、その機能の詳細については明らかになっていない。

パラスペックルの構成因子には、RNA結合タンパク質(RBP:RNA binding protein)の NONO(Non-POU domain-containing octamer-binding protein)、SFPQ (Splicing factor, proline- and glutamine-rich)および長鎖ノンコーディング RNA (lncRNA:long non-cording RNA)の NEAT1(Nuclear Enriched Abundant Transcript 1)がある。血液細胞におけるパラスペックルの機能は殆ど知られていないが、NONOやSFPQが体組織の中でも造血器細胞特異的に高く発現していること、NEAT1の発現量が造血器細胞の分化段階によりダイナミックに変化することなどから、分化・増殖過程で重要な役割を果たしている可能性が考えられる。また、NONO、SFPQはDNAダメージや修復機構に密接に関与しており、多くの悪性腫瘍でNEAT1の発現量上昇していることなどから、発がんメカニズムにおいてもパラスペックルは重要な役割を果たすと考えられている。

私は本研究内でASXL1がパラスペックル形成に関与することを見出し、ASXL1-MTcKIマウスを用いてCHモデルの造血幹細胞でパラスペックル形成障害が見られることを明らかにした。

我々は過去に報告された複数のインタラクトーム解析の結果を見直し、ASXL1がmRNA調節に幅広く関与するRBPのNONOと結合しうることを見出した。HEK293T細胞を用いた遺伝子導入と共免疫沈降(Co-IP:co-immuno precipitation)実験により、野生型および変異型ASXL1がNONOと結合することを確認した。この結合はRNase処理条件下でも認められ、タンパク質同士の直接的な結合であることが示された。ASXL1はもう一つのパラスペックル因子であるSFPQとも結合した。Co-IP実験およびRNAIP実験により、野生型ASXL1の共発現でNONOとヒストンタンパク質、NEAT1の結合が増強されることが明らかになった。これらのNONOの機能亢進は野生型ASXL1によってのみ認められ、変異型ASXL1では認められなかった。

ASXL1がパラスペックル構成因子と結合することを確認した我々は、続いて変異型ASXL1がトランスクリプトームに及ぼす影響について検討するため、ASXL1-MTcKIマウスのHSPCsを用いてRNA deep sequencingを行った。シーケンスデータからスプライシングの変化を解析したところ、ASXL1-MTcKIマウスのHSPCsではES(Exonss kipping)を中心とする1033のAS(Alternative splicing)が認められ、GGNGの配列を持つExonが特異的にincludeされ、CCNGの配列を持つExonがskippingを受けていることが明らかになった。

続いて我々は、ASXL1とNEAT1との関係性についても検討した。ActinomycinDを用いた転写抑制実験で、野生型ASXL1の発現によりNEAT1のdegradationが抑制されていることが明らかになった。一方で変異型ASXL1を導入した細胞においてはNEAT1のdegradationは亢進していた。細胞分画抽出によるRNAの発現解析では、野生型ASXL1が核内特異的にNEAT1の発現量を上昇させており、ASXL1は細胞内でのNEAT1の安定性に関係し、変異によりNEAT1安定化能を失っていることが明らかになった。

ASXL1変異がパラスペックルに与える影響を明らかにするために、我々はASXL1-MTcKIマウスHSPCsにおけるNonoの評価を行った。ASXL1-MTcKIマウスHSPCsの免疫染色実験では、本来核内に局在するはずのNonoのシグナルが細胞質に見られる細胞が認められ、ウエスタンブロットでもASXL1-MTcKIマウスでは核抽出サンプルにおいてNonoのバンドが減弱し、細胞質抽出サンプルにおいてバンドが増強していることが確認された。これらの結果からASXL1-MTcKIマウスでNonoの局在が変化していることが示唆された。興味深いことにASXL1-MTcKIマウスHSPCsではNeat1v1の発現が軽度上昇しているのに対して、パラスペックル形成に必須と考えられるNeat1v2の発現が優位に低下していることが分かった。RNA-FISHでは、ASXL1-MTcKIマウスのHSPCsでNonoとNeat1v2の共局在シグナルによって示されるパラスペックルの形成が低下していた。また、ASXL1-MTcKIマウスのRNAseq発現データを用いてNEAT1標的遺伝子の発現レベルを評価したところ、その大部分が低下していることが確認された。ASXL1-MTcKIマウスでパラスペックルの形成に障害が生じていることを見出した我々は、次にパラスペックルの破綻がASXL1-MTcKIマウスの表現型に及ぼす影響を評価するため、CRISPR-Cas9システムを用いたノックアウト実験を行った。Rosa26遺伝子座にCas9遺伝子を組み込んだRosa26-LSL-Cas9-KIマウス(Cas9KIマウス)とASXL1-MTcKIマウスを交配して作成した交配第一世代マウス(F1マウス)のHSPCsを用いてNonoをノックアウトした造血幹細胞の移植実験を行った。移植後1か月後の造血再構築能を評価したところ、Nonoをノックアウトした分画に限ってキメリズムの上昇が認められた。この結果から我々は、ASXL1-MTcKIマウスの造血細胞ではパラスペックルの破綻により局在を変えたNonoが何らかの機能を獲得し、造血再構築能障害に影響している、という仮説を立てた。この仮説を立証するため、我々はNLS(Nuclear localization signal)を欠損したNONO変異体(NONO-ΔNLS)を作成し、細胞質におけるNONOの機能を評価した。Kusabira Orangeマウス(KuOマウス)のHSPCsにレトロウイルスベクターを用いてNONO-ΔNLSを遺伝子導入し、競合的移植実験を行ったところ、NONO-ΔNLSを導入したドナー細胞ではキメリズムの低下することが認められ、ROS(Reactive oxygen species)が上昇していた。これらの結果は、ASXL1-MTcKIマウスの競合的移植実験で見られた骨髄再構築能障害およびROSの上昇と一致するものであり、本来の局在とは異なるNONO-ΔNLSがASXL1-MTcKIマウスと同様の造血再構築能障害を呈することが明らかになった。

本研究は、ASXL1がパラスペックル形成に関与することを初めて示したものであり、その変異により核内構造体の形成が障害されることが明らかになった。造血器腫瘍における遺伝子変異がパラスペックルをはじめとするMembraneless Organelleに及ぼす影響については全く知られておらず、病態解明の新たな糸口となる可能性がある。

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