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大学・研究所にある論文を検索できる 「半減期法によるヒト neonatal Fc 受容体導入マウスからのヒト血漿中における抗体濃度推移予測法確立」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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半減期法によるヒト neonatal Fc 受容体導入マウスからのヒト血漿中における抗体濃度推移予測法確立

中村 元気 富山大学

2021.03.03

概要

モノクローナル抗体の取得技術や製造技術の革新により、近年は生物学的製剤が増えてきている。医薬品売上における生物学的製剤の占める割合は年々増加していることから、現代の内科的療法において必要不可欠なものとなってきていることが窺える。生物学的製剤の中でも、治療標的に対する高い特異性と親和性に加え、長い血中滞留性を持つ抗体医薬品の果たす役割は大きい。抗体医薬品を創製するには、高精度かつ効率的な非臨床試験が必要とされる。特に、臨床における抗体医薬品の薬効や安全性を適切に見積もるためには、抗体の体内動態を高い精度で予測する必要がある。さらに、対象とする抗体医薬品の作用機序がターゲットの中和である場合は、暴露だけでなく血漿中濃度推移 (PK profile)の予測が重要である。

抗体の体内動態制御因子は neonatal Fc receptor (FcRn) であり、FcRn に対する各種抗体の親和性には種差があることが知られている。ヒトに対する FcRn の親和性は non-human primates (NHP) と近似することが知られていることから、抗体医薬品開発における非臨床動態試験では主に NHP が使用されている。しかし、昨今の動物福祉 replacement、refinement、 reduction (3Rs) や試験コストの観点からげっ歯類へ代替することが強く求められている。代替可能なげっ歯類モデルとして、ヒト FcRn を knock-in した human FcRn transgenic mouse (hFcRn TgM) が存在し、これまでに hFcRn TgM を活用して暴露に関する単一パラメーター予測は成功している。一方、ヒト PK profile 予測はほとんど報告されていない。対象とする抗体医薬品について 2 相性の消失パターンが示されると予想された場合、4 種のパラメーターが PK profile 予測をする上で必要となる。このパラメーターをヒトにおける動態的特徴の解明を通じて 1 つに絞り込むことで、hFcRn TgM を活用したヒト PK profile 予測が可能と考えられた。

抗体医薬品のヒト体内動態予測を NHP から hFcRn TgM へ置換することで、動物福祉の 3Rs を達成するだけでなく、非臨床試験の大幅な効率化に繋がり、結果として患者の quality of life (QOL) に貢献できる医薬品創製の可能性を高められることが期待される。本研究では、げっ歯類モデルである hFcRn TgM を使用した抗体のヒト PK profile 予測法の確立を目的とした。

1. ヒトおよび non-human primates における抗体医薬品線形動態の特徴解明と「半減期法

2. の提唱 1)
抗体のヒトにおける PK profile 予測を行う上で重要な動態学的パラメーターを明らかにすることを目的に、ヒトおよび NHP における抗体の線形 PK データを収集し解析した。これまでに静脈内へ抗体を投与後、2 相性の消失を示すことが知られていることから、2-コンパートメントモデルにおけるパラメーター (V1;中枢コンパートメント分布容積、K12;中枢から末梢コンパートメントへの移行速度、K21;末梢から中枢コンパートメントへの移行速度、K10;中枢コンパートメントからの消失速度) について解析を行った。ヒトで得られた V1、K10、K12 および K21 の幾何平均値はそれぞれ、45.1 mL/kg、0.0832 day-1、0.275 day-1および 0.355 day-1 であり、変動係数 (CV) はそれぞれ、22.6%、57.8%、92.9%および 96.1% であった。NHP で得られた V1、K10、K12 および K21 の幾何平均値はそれぞれ、39.5 mL/kg、0.156 day-1、0.534 day-1 および 0.710 day-1 であり、CV はそれぞれ 27.0%、68.8%、 145% および 159% であった。分布容積である V1 はヒトと NHP 共に血漿容量に近い値が得られ、さらに CV が 30% 以下のため抗体間差が小さく、大きな分子量と高い疎水性のために生体内における分布が厳しく制限されているためと考えられた。また、ヒトおよび NHPにおいて暴露の大部分は消失相であり、消失相半減期 (t1/2β) がクリアランス (CL) と逆相関を示すことが明らかとなった。以上から、ヒトおよび NHP において動態的な特徴は一致しており、分布容積は抗体間でほとんど変わらず、各抗体の動態的な違いは t1/2β に現れることが示唆された。

幅広い値を示した K12 および K21 は比例関係にあり、比例関係上の数値であれば profileへの影響はほとんどないことが明らかとなった。さらに、分布容積に抗体間差がないことおよび暴露の大部分が消失相であることから、t1/2β から K10 を推定可能であることが示された。以上から、各抗体固有のパラメーター値として t1/2β のみで PK profile を表現可能な「半減期法」が提案された。NHP t1/2β から予測されたヒト t1/2β について、本半減期法を適応して予測されたヒト PK profile は、従来の NHP profile 全てを使用した予測と同等であることが明らかとなった。

結論として、本研究からヒト線形 PK profile を各抗体固有のヒト t1/2β のみで表現できる半減期法が提唱され、本法を適応することで、NHP のt1/2β のみを使用してヒト線形PK profileを予測することが可能となった。さらに、NHP における t1/2β のみを使用した「半減期法」による予測は従来のシンプリファイドアロメトリーと同等の精度であることが明らかとなった。

3. Human FcRn transgenic mouse における抗体医薬品動態の特徴解明 2)
抗体の線形 PK を制御していると考えられている FcRn について、マウス FcRn を欠損させてヒト FcRn を発現させた hFcRn TgM における抗体 PK を解析することで、hFcRn TgMデータを用いたヒト PK profile 予測の可能性について検証した。日本において承認されている抗体医薬品 13 種について hFcRn TgM への投与を行い、得られた血漿中濃度推移の解析を行った。静脈内に投与された抗体は 2 相性の消失を示し、2-コンパートメントモデル解析の結果、K10、K12、K21 および V1 の幾何平均値はそれぞれ、0.529 day-1、2.35 day-1、1.51 day-1 および 73.2 mL/kg であり、CV はそれぞれ、101%、90.0%、111% および 22.5%であった。分布容積である V1 は血漿容量に近い値が得られ、さらに CV が 30% 以下のため抗体間差が小さかった。また、K12 と K21 との間には比例関係が確認された。暴露の大部分は消失相であり、t1/2β と CL( R2=0.924)は逆相関を示した。これらのことから、hFcRn TgM における抗体 PK の特徴として、ヒトと同様に分布容積には抗体間で差は無いこと、そして t1/2β には抗体間差が現れることが明らかとなった。以上から、hFcRn TgM の生体内において発現しているヒト FcRn の機能が評価可能であること、そして hFcRn TgM を用いた解析から得られたデータから予測されたヒト t1/2β を半減期法に適応することでヒト PK profile を予測可能であることが示唆された。

4. Human FcRn transgenic mouse を使用したヒト血漿中濃度推移予測 2)
hFcRn TgM データを使用した半減期法による抗体のヒト PK profile 予測について検証した。hFcRn TgM において暴露の 80%以上が消失相であることが示された抗体では、hFcRn TgM にて得られた t1/2β についてヒトとの間に相関が示された。相関から得られた線形近似式を適応することで hFcRn TgM t1/2β から予測したヒト t1/2β について、実測値と比較して 2倍以内の差であったのは 10 抗体のうち 9 抗体であった。さらに、hFcRn TgM t1/2β から予測されたヒト t1/2β に対し半減期法を適応してヒト PK profile 予測すると共に CL 算出を行った結果、検討した 10 抗体全てについて実測値と比較して 3 倍以内の差であり、中でも 7 抗体は 2 倍以内の差に収まった。本結果は、半減期法の適応によって NHP と同等の精度で hFcRn TgM からヒト PK profile を予測できることが示唆された。さらに、hFcRn TgM における抗体 PK では分布容積に抗体間差が小さいことから、hFcRn TgM における投与後 7 日目の血漿中濃度 (Cday7) のみを使用したヒト t1/2β 予測を検討した。hFcRn TgM における Cday7 とヒト t1/2β 間において得られた線形近似式を用いて、Cday7 から予測されたヒト t1/2β は 10 抗体のうち 9 抗体が実際の値と 2 倍以内の差であった。また、本予測ヒト t1/2β を半減期法に適応して得た予測ヒト PK profile にて算出された CL は、実際の値と比較して 2 倍以内に 10 抗体のうち 8 抗体が収まり、NHP からの予測と同等の精度であった。以上のことから、半減期法を適応することで hFcRn TgM における 1 時点濃度からでもヒト PK profile を予測できる可能性が示唆された。これらの知見は、げっ歯類モデルである hFcRn TgM に対し半減期法を適応することで、抗体医薬品のヒト PK profile 予測が、従来の NHP を用いた予測における精度を下げること無く実施可能であることを示唆している。

結論
本研究を通じ、線形 PK における抗体固有の特徴は t1/2β に現れることを 2-コンパートメントモデル解析の結果から示した。この特徴に基づいて、ヒトにおける幾何平均値および各抗体固有の t1/2β から、各抗体固有の PK profile を表現する「半減期法」が提唱された。さらに、hFcRn を発現しているマウスモデルである hFcRn TgM における抗体 PK の特徴はヒトと一致しており、ヒトの t1/2β は NHP のみならず hFcRn TgM からでも予測可能であることが示された。さらに、hFcRn TgM データに対し半減期法を適応することでヒト PK profileを予測可能であることが明らかとなった。本研究成果にて、抗体医薬品開発の非臨床試験効率化が実現され、患者の QOL 改善に貢献出来る抗体医薬品が創製されることに繋がると期待される。

この論文で使われている画像

参考文献

1. Nakamura G, Ozeki K, Nagayasu M, Nambu T, Nemoto T, Hosoya K: Predicting method for the human plasma concentration-time profile of a monoclonal antibody from the half-life of non-human primates. Biol. Pharm. Bull., 43, 823-830 (2020).

2. Nakamura G, Ozeki K, Takesue H, Tabo M, Hosoya K: Prediction of human pharmacokinetics profile of monoclonal antibody using hFcRn transgenic mouse model. Biol. Pharm. Bull., 44, 389-395 (2021).

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