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大学・研究所にある論文を検索できる 「DNA修復機構欠損マウスにおけるUVB照射により形成された皮膚腫瘍の網羅的遺伝子変異解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

DNA修復機構欠損マウスにおけるUVB照射により形成された皮膚腫瘍の網羅的遺伝子変異解析

𠮷岡, 愛育 神戸大学

2022.09.25

概要

背景
悪性黒色腫やその他の非悪性黒色腫皮膚がん(NMSC)は、おもに紫外線(UV)によってDNA上にシクロブタンピリミジンダイマー(CPD)およびピリミジン(6-4)光生成物(6-4PP)が生成されることなどが原因で体細胞変異がおこり発症する。これら発がんの過程には、化学発がん物質によって誘導される皮膚がんと同様に、イニシエーション、プロモーション、プログレッションという多段階な機構があると考えられている。がん遺伝子であるRASやがん抑制遺伝子(TSG)であるTRP53は、UVで誘導される皮膚発がんに関与する重要な遺伝子として報告されており、その他TSGであるNOTCH1、NOTCH2の体細胞変異がUV照射を受けた正常なヒト皮膚で観察されることが報告されている。

ヌクレオチド除去修復機構(NER)はDNA上に生成されたCPDや6-4PPを除去・修復する働きがあるが、常染色体潜性(劣性)遺伝性疾患である色素性乾皮症A群(XP-A)ではこのNERの機能が欠損するためにDNA損傷の修復が行われず、NMSCや悪性黒色腫のリスクがそれぞれ10,000倍、2,000倍以上に増加することが知られている。またUVによる皮膚のDNA損傷の他の要因として、活性酸素種(ROS)により8-oxo-7,8-dihydroguanine(8-oxoG)がDNAへ蓄積することも関与しており、Xpaノックアウトマウス(Xpa-KO)では野生型マウス(WT)に比べてUVB(波長:280〜315nm)照射後に8-oxoGがより多く蓄積することが報告されている。

以前の我々の研究で、Xpa-KOにおいてUVB照射により好中球遊走因子であるCXCL1というケモカインの血中濃度が上昇すること、またCXCL1モノクローナル中和抗体(CXCL1-Ab)の投与によりUVB照射による皮膚の炎症反応およびNMSCの発生量が減少することを報告した。しかし、CXCL1-AbがNMSC発生のどの段階でいかなるがん遺伝子やTSGの体細胞変異に影響を与えるかの詳細は不明であった。

本研究では、UVB照射により発症したマウスのNMSCに対して全エクソームシーケンス(WES)解析を行い、それらの体細胞変異の特性を調べ、CXCL1-Ab投与による皮膚腫瘍抑制効果のメカニズムに迫ることを試みた。

材料と方法
今回使用したUVBは311-313nmをピークとした280-320nmの波長特性をもつ光源であり、光源から40cm離してマウス背部皮膚に照射した。マウスは12〜15週齢のXpa-KOとWTを使用し、マウスを以下3群のグループにわけて慢性的にUVBを照射し、皮膚腫瘍発症の経過を評価した。まずWT(14匹)に1回あたり1.8kJ/m2で週に2回、25週間にわたってUVBを照射した。次にXpa-KO(16匹)に1回あたり0.5kJ/m2を週2回、10週間にわたってUVBを照射した後、15週間にわたり皮膚の腫瘍形成を観察した。最後にXpa-KO(9匹)に同様の方法で10週間にわたり0.5kJ/m2のUVBを照射し、照射直後と24時間後にCXCL1-Ab5μgを腹腔内投与し、その後15週間にわたり皮膚腫瘍形成について観察した。これら3群のマウスのうち、WTの25週目、Xpa-KOの18週目と25週目、CXCL1-Abを投与したXpa-KOの25週目の皮膚腫瘍を採取しWES解析を行った。

WES解析の一塩基多型(SNV)と塩基の挿入・欠失は、各マウスのUVB曝露前の皮膚をコントロールとして比較し、体細胞変異の検出、および変異のバイオインフォマティクス分析を行った。また体細胞一塩基置換(SBS)のスペクトルをがん体細胞変異カタログ(COSMIC)変異シグネチャーに適合させ、変異プロセスとして機能する変異シグネチャーを評価した。

採取したマウスの皮膚あるいは皮膚腫瘍に対してヘマトキシリンエオジン染色、およびTRP53、RAS(G12D変異)、PIK3CA、mTORに対するポリクローナル抗体で免疫組織染色を施行した。各群間の皮膚腫瘍収量の違いや免疫組織染色における陽性細胞の半定量化シグナルの比較評価はt検定を使用し、統計的有意性はP値<0.05と設定した。

結果
Xpa-KOは既報告の通り、WTよりも少ないUVB照射線量でより多くの皮膚腫瘍が早い段階で発生した。また前出の我々のデータ通り、CXCL1-Abを投与したXpa-KOは、同じUVB照射プロトコルのXpa-KOに比べて皮膚腫瘍の発生個数が有意に少なく、また発生時期が遅かった。WTの25週目、Xpa-KOの18週目と25週目、CXCL1-Abを投与したXpa-KOの25週目の皮膚腫瘍をWES解析し、体細胞SNVをC>T、C>A、C>G、T>C、T>G、T>Aの6つのピリミジン置換とそれらの前後の4つの塩基からなる、96の変異クラスに分類し、それらの傾向を評価した。結果、UVシグネチャー突然変異であるC>T変異が全ての群で高頻度にみられ、特にダイジピリミジンサイト(CC、CT、TC)でのC>T変異が多かった。その他の変異シグネチャーとして全ての群の皮膚腫瘍においてSBS2(シチジンを脱アミノ化する酵素であるAPOBECファミリー)、SBS7(UV曝露に関連)、SBS19(NERにより修復されるDNA損傷に関連)が有意にみられ、SBS11(アルキル化による変異に関連)はXpa-KOの腫瘍において他の群より有意に多くみられた。

次にそれぞれの群の皮膚腫瘍において、C>TおよびCC>TTなどのUVシグネチャー変異を特徴とする体細胞変異がDNA鎖のうち転写鎖(T鎖)と非転写鎖(NT鎖)のどちらに優位に生じているかを評価した。結果、WTにおいてはNT鎖に、Xpa-KOにおいてはT鎖に体細胞変異が優位にみられ、さらにCXCL1-Abを投与したXpa-KOにおいてT鎖に変異が優位にみられるも、CXCL1-Abを投与しないXpa-KOの群に比してその優位性は低かった。

ヒトのNMCSや他臓器の扁平上皮癌で重要な役割を果たすと報告されているがん遺伝子とTSGの変異に注目したところ、マウスの皮膚腫瘍においてもKras、Hras、Pik3caなどのがん遺伝子、Notch1、Trp53、Fat1、Nf1、Smad4などのTSGに変異がみられた。またFanca、Msh6、Xrcc4、Xrcc5などのいわゆるCaretaker型のTSGの変異はXpa-KOで特異的に多く検出された。さらにROSによる8-oxoGが誘導するとされるG:C>A:T変異は、Xpa-KOのKras、Hras、Fat1で主にみられた。

さらにWTにおいては通常、単回のUVB照射で皮膚腫瘍が生じることはないが、Xpa-KOにおいては単回のUVB照射で皮膚腫瘍が形成されることを以前の研究で我々は経験していた。そこで1回のUVB照射で生じる皮膚腫瘍を検討してNMSC発生に関わるドライバー遺伝子を同定することを目的に、追加実験として1回のUVB照射のみで誘導されたXpa-KOの皮膚腫瘍の体細胞遺伝子変異を評価することとした。Xpa-KOに0.5kJ/m2のUVB照射を1回だけ行い、生じた腫瘍から照射後13週目、18週目、25週目にそれぞれ一部を採取してWES解析を行った。その結果、いずれのサンプルにおいてもKras、Fat1、Kmt2cの体細胞変異がみられた。その他に前出の変異スペクトルや、UVシグネチャー変異である体細胞変異がT鎖に優位にみられることなどは、慢性的にUVB照射を行ったXpa-KOの結果と同様であった。

一般的にがん細胞はアポトーシスの機能喪失と共に生存シグナルの亢進がみられるが、これらに重要なシグナル伝達経路としてRas/Raf/MAPKシグナル伝達経路と並びPI3K/mTOR経路がある。Xpa-KOの皮膚腫瘍ではがん遺伝子であるKras、Hrasの変異が多くみられたが、CXCL1-Abを投与したXpa-KOでの皮膚腫瘍ではこれらの変異はみられず、一方でPI3K/mTOR経路の構成タンパクをコードし、複数の内臓悪性腫瘍でがん遺伝子として報告されているPik3caの変異が検出された。さらに免疫組織染色した結果、CXCL1-Abを投与したXpa-KOの皮膚腫瘍においては、投与していないXpa-KOに比してPIK3CAおよびmTORの染色陽性率が腫瘍細胞に有意に高かった。

考察
UVB照射によって生じたXpa-KO、WTの皮膚腫瘍においてHras、Krasなどがん遺伝子や、Apc、Dcc、Fat1、Kmt2c、Nf1、Notch1、Pten、Smad4、Trp53などのTSGの変異がみられ、これらはヒトのNMSCにおいて報告されている変異遺伝子と同様の傾向であった。またマウスのNMSCにおいてTrp53のUVシグネチャー変異がWTはNT鎖に、Xpa-KOはT鎖に優位に生じることが既報告で明らかとなっていたが、今回はUVシグネチャー変異がみられるがん遺伝子、TSGの体細胞変異が全般的にWTはNT鎖、Xpa-KOはT鎖に優位にみられることを初めて確認できた。この結果はUVB照射など外因性にDNAが損傷された際に、NERがT鎖のDNA損傷を修復する働きがあるために通常のNERが機能するWTでは相対的にNT鎖に体細胞変異が多くみられたものと考えられる。一方Xpa-KOにおいてはNERの機能が損なわれておりT鎖の体細胞変異が修復されないために、相対的にT鎖の変異が多くみられたものと解釈できる。

またXpa-KOに対して単回のUVB照射を行った皮膚腫瘍をWES解析した結果、Kras、Fat1、Kmt2cの変異をいずれの経時的な皮膚腫瘍からも検出した。つまりこれらの変異がXpa-KOのNMSCの発生および増生に十分な要素であると考えることができる。加えてUVBの慢性照射と単回照射のいずれの皮膚腫瘍においても共通して検出されたKras変異は、Xpa-KOにおけるNMSCの発生段階において重要なドライバー遺伝子である可能性が示唆された。

またCXCL1-Abを投与したXpa-KOの皮膚腫瘍ではKras、Hrasの変異を認めず、一方でPik3caはUVシグネチャー変異を認め、腫瘍組織の免疫染色でもPIK3CAおよびその下流のシグナルタンパクであるmTORの発現を多く認めた。この結果より、CXCL1-AbがUVB照射によってNMSCを生じる免疫環境に何らかの変化をもたらしRas/Raf/MAPKシグナル伝達経路が抑制され、代償的にPI3K/mTOR経路の細胞増殖シグナル伝達経路が活性化したものと解釈できる。このことは我々が以前の研究で示したXpa-KOにおける抗炎症作用を有するCXCL1-Abの皮膚発がん抑制効果のメカニズムの一端を説明できるものであると考えた。

結論
マウスにおいてUVB照射により発症したNMSCにおけるUVシグネチャー変異をみとめる体細胞変異は全般的にXpa-KOではT鎖、WTではNT鎖に多くみられることがWES解析の結果確認でき、これはXpa-KOでNERの機能が損なわれているという病態と一致した結果であった。またXpa-KOマウスにおいてUVB照射によりNMSCを誘導する際に、UVB照射により血中濃度が上昇する炎症性ケモカインCXCL1の中和抗体を投与することでRas/Raf/MAPKシグナル伝達経路を抑制し、結果的に発がん抑制効果をもたらす可能性があることがわかった。さらにヒトにおいてもUVB照射に誘導されるNMSC発生にKRAS変異が腫瘍発生のドライバー遺伝子として関与している可能性が示唆された。

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