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大学・研究所にある論文を検索できる 「原子力材料挙動のモデリングと保全学への展開」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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原子力材料挙動のモデリングと保全学への展開

中筋, 俊樹 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k24005

2022.03.23

概要

本論文は、原子炉構造物の構造健全性評価に関する研究から展開して、材料経年劣化に起因する構造健全性喪失の定量評価方法論の高度化とシステム信頼性に関する研究をまとめたものである。その内容は、材料学に基づく圧力容器鋼中性子照射脆化現象の物理モデルの構築から、脆化予測信頼性向上のためのデータ同化法の開発、さらには、構造力学及びリスク論に基づくシステム保全戦略の分析に及ぶ。全5章からなる。

第1 章は序論であり、我国のインフラ設備老朽化の現状と合理的な保全活動の必要性を述べている。設備機器の機能異常発生とその監視、異常進展評価に基づく機器寿命予測、さらには、評価のあいまいさに起因する機器信頼度の不確実性(リスク)の議論をもとに、機器管理保全は、システムを俯瞰し、全体リスクを最小化することにより行われるべきとの主張が展開される。本研究では、中性子照射脆化現象により誘起される軽水炉圧力容器の構造健全性喪失現象について、機構論に基づく脆化予測とリスク論に基づくシステム管理方法論を、複数の計算機シミュレーション技法( 材料学に基づくマルチスケールモデリング)、ベイズ統計、構造力学に基づくリスク評価をもとに提案している。脆化予測法の開発においては、① 実際の軽水炉の照射脆化監視試験データ数には限りがあり(スモールデータ性)、脆化予測の高精度化を単純に経験的アプローチにより実現することは困難であるが、実用的な脆化予測を可能にするには、このスモールデータ性を最新のデータ科学の適用により克服する必要があること、②実炉を代替する模擬照射施設の照射条件は実炉環境そのものの照射条件とは異なる(特に照射速度が大きく異なる) ことから、予測の外挿性確保のためには現象機構論を明らかにする必要があることを指摘している。さらに、③保全活動の要否・優先度の決定においては、全体リスク最小化の観点から、材料劣化の程度を基準にするのではなく、システム機能喪失の程度を基準にすべきと指摘している。

第2章では、固体材料の格子欠陥物理学に基づき、圧力容器鋼内の照射下非平衡欠陥形成に関する機構論の考察がなされている。照射脆化の要因は照射により引き起こされる材料の微細組織変化にあるが、本章では、ナノ欠陥集合体の照射下形成プロセス( 特に核生成現象) の機構論を種々の材料シミュレーション技法を用いて明らかにするとともに、照射環境の違いに起因する核生成挙動の違いを明らかにしている。これをもとに、模擬照射施設における照射脆化プロセスと実炉の照射脆化プロセスの違いを定量的に議論している。具体的には、分子動力学、材料熱力学、欠陥反応論、反応速度論、モンテカルロ解析法の方法論を用い、脆化種である非平衡欠陥集合体( 銅‐ 原子空孔集合体) の形成エネルギー論を構築するとともに、核生成プロセスのカイネティックスモデルを提案している。モデル計算の結果から、①照射量が同じでも照射速度が低いほど銅-原子空孔集合体の核生成数は多いこと、②高照射速度条件では空孔のみ含む空洞(ボイド)が核生成し、また、低照射速度条件では銅原子のみ含む銅析出物が核生成すること、③これらの知見は、先行研究の実験観測事実によって検証されることを主張している。核生成組成の照射速度依存性に関するこうした知見は、模擬照射環境下のデータを使って、実炉の脆化予測を行う際に必要になる。

第3章では、我国の脆化予測式(日本電気協会 JEAC4201 基準)の精度・信頼性について論じている。JEAC 基準に基づく評価予測値と実測値のずれ( 残差) に関するデ ータの統計学的性質を明らかにするとともに、予測精度や信頼性向上のためのデータ同化方法論の検討を行っている。そもそも照射環境は軽水炉プラントごとに異なるものであるから、予測信頼性の観点に立てば、脆化予測はプラントごとに行うのが望ましい。しかし、スモールデータ性の制約から、予測式をプラントごとに構築することは現実的でなく、JEAC 予測式においては、国内の軽水炉監視試験データのすべてを用いてひとつの式が作られている。そのため、JEAC 予測式を特定のプラントに適用する際には、評価予測値をプラントごとに補正する必要が生じている。本章では、残差データの統計学的性質の調査結果から、ベイズ統計学に基づく予測値補正の方法論を提案し、十分な精度の予測を可能にしている。

第4章では、軽水炉圧力容器照射脆化管理の最適化提案が、リスク論に基づき行われている。現行の圧力容器構造健全性の評価においては、経年変化評価指標として材料特性値(破壊靭性値)が用いられているが、より俯瞰的視野に立つシステム保全学で は、システム全体の機能喪失リスクの程度を指標にすべきと主張する。本章では、加圧熱衝撃事象時の圧力容器の破損確率を構造健全性評価の指標とし、これを放射性物質閉じ込め機能喪失の基準とみなし、保全活動の要否や優先順位の決定に用いることを提案している。代表的なモデル例について評価を行った結果、材料特性値(破壊靭性値)は炉運転開始早々(照射初期)に飽和するが、提案の破損確率(閉じ込め機能喪失リスク)は炉運転時間(照射時間) の経過とともに次第に立ち上がることが示された。軽水炉高経年化対策の観点からは、後者の破損確率を指標とする方が適切であると結論づけた。

第5章では、本研究で得られた成果を総括している。

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