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アトムサイエンスくまとり : 京都大学複合原子力科学研究所広報誌 Vol.31

京都大学複合原子力科学研究所学術情報本部出版チーム 京都大学

2023.03.01

概要

ISSN1881-0446

vol.

31

2023 春夏号

巻頭特集
ASKレポート1

量子ビーム生体高分子統合研究センターの紹介

宇宙用太陽電池素子を用いた放射線センシングによる1F廃炉推進|KURでの陽電子ビームの生成とそれを用いた原子空孔分析
放射性同位体の医療応用に向けた研究|実験データを収集するWebシステムの開発と材料開発への応用
ASKレポート2
定年退職にあたって
ASK World レポート 熊取滞在記

特集 量子ビーム生体高分子統合研究センターの紹介 
京都大学複合原子力科学研究所 量子ビーム生体高分子統合研究センター
生体分子機能・設計グループ
グループリーダー + メンバー

所長

センター長
量子ビーム計測・解析グループ
グループリーダー + メンバー

事務局
副センター長

パク質を作りだすなど、
タンパク質工学の発展にも寄与
すると期待されます。
(生体分子機能・設計グループ)

【量子ビーム生体分子統合研究センター】
 量子ビーム生体分子統合研究センター(Quantum
Beam Biopolymer Integrated Research Center:QPID)
は、
「生命分子動態解析ユニット」(2019-2021年)の成果
を踏まえ、
このユニットを発展させて設置した研究セン
ターです。QPIDには革新的な生化学技術を用いて特徴
的な生体分子試料や新たな機能を持った分子の開発を
目指す「生体分子機能・設計グループ」
と独創的な量子
ビーム測定技術や計算機解析手法を用いて、未知の現
象の解明を目指す「量子ビーム計測・解析グループ」が
設置されています。両者は互いに協働し、更に所外研究
者及び所外施設とも連携し量子ビームを用いた生体高
分子研究の推進を行っていきます。
これからQPIDが生
み出す新たな研究成果・技術にご期待ください。

図1. 分子動力学計算による高効率ライゲーション位置の予測と多段階ライゲーション反応のイメージ図。

【高効率・多段階ドメインライゲーション技術】
 タンパク質の多くは特徴的な構造部位(ドメイン)が複
数連なった構造を持ち、
ドメイン同士の配置や運動によ
って機能を発揮します。
したがって、
このようなタンパク
質の機能を解明するためには、注目するドメインに標識
を施してそのドメイン配置や運動の観測が必要となりま
す。QPIDでは、困難と言われていたこの注目ドメインを
標識した試料を調製する技術開発を行いました。そこ
で、高効率な反応位置を探索し、酵素を用いて三つのド
メインのライゲーション反応を世界で初めて実現しまし
た。更に、実験結果を基に分子動力学計算を用いてライ
ゲーション位置の反応効率を示す指標を確立しました。
この指標を用いると事前に高効率のライゲーション位置
の予測が可能となり、実験上の労力の大幅な軽減が期
待されます(図1)。
また、
この技術は、
これまでにないタン
1

【中性子小角散乱(SANS)測定の最適化・高度化】
 溶液中の生体高分子の構造や動態を解明するため
に中性子やX線をプローブとして用いた小角散乱法(ぞ
れぞれSANS, SAXS)[※1]は大変有用ですが、特にSANS
では生体高分子希薄溶液から十分な統計精度を有する
散乱プロファイルを得るには適切な装置パラメーター
の選定が必須です。そこで、JRR-3のSANS-Uを用いて生
体高分子希薄溶液に最適化した装置設定・スリットサイ
ズ・ノイズ低減等を検討した結果、図2に示すように、
SAXSとほぼ同程度の測定時間で高い統計精度の散乱
プロファイルの取得に成功しました。
ここから得られた
知見をさらに活用することで、将来の新装置の設計及
び開発に生かしていく予定です。
(量子ビーム計測・解
析グループ)
※1:試料に中性子あるいはX線を照射し、約10度以下
の散乱角での散乱強度を測定します。散乱角に対応す

粒子線物性学研究分野 杉山 正明 教授
る散乱ベクトル q に対して散乱強度 I(q) をプロットした
散乱プロファイル(図2)から、数Åから数百Å (1Å=10-10 m)
の範囲の構造情報が得られます。

図3. 実空間D/Hコントラスト法による水分子の探索後の分子モデルと中性子散乱長密度。多く
の水分子(赤い球)が見られる。

【異常蛋白質が関与する疾病の原理解明】
 我々の体の中では、約10万種類もの蛋白質が千差万
別の『形態』をとりますが、その源は20種類のアミノ酸の
規則だった配列です。
これに対して、我々は、蛋白質中の
アミノ酸を換える、切る、繋げるなどの蛋白質工学的技術
を有しています。
このような技術を、新しい分析法と組み
合わせ、様々な蛋白質の未知の『形態』
を明らかにするこ
とが可能です。図4に、一本のアミノ酸の鎖の状態から形
図2. SANS-U@JRR-3及びKumaSAX@KURNSで計測したアポフェリチン希薄溶液のSANS及び
状記憶合金のように蛋白質の形に折り畳まれる過程を5
SAXSプロファイル。測定時間はSANS(青丸) が1時間、SAXS(赤丸)が2時間半。
段階に分けて作製した例を示します。
このように、様々な
『形態』の蛋白質を作出し、新しい分析法と組み合わせて
【結晶解析を利用した生体分子の構造研究】
 茶竹・森本グループは結晶構造解析を用いて原子レ 得られる『形態』の情報を、異常蛋白質が関与する疾患
ベルでの生体分子の立体構造の決定に挑戦していま (下記の例だと白内障疾患)などの原理解明などに生か
す。特に、中性子結晶解析は水素原子の観測に強力な方 してゆく予定です。(生体分子機能・設計グループ)
法です。
これまでに、ヘモグロビン、
リゾチーム、
リボヌク
レアーゼなどの蛋白質の水素原子や周囲の水分子の三
次元構造を明らかにしています。
これらの解析では、他
のグループと同様に重水素置換による解析精度の向上
を行っています。また、重水素(D)と軽水素(H)のコントラ
ストを利用した、実空間D/Hコントラスト法、およびX線・
中性子データのジョイント精密化方法の開発と応用を
進めています(図3)。
これ以外にも、抗がん剤開発のた
めのヒトプロテアソーム、乳酸酸化酵素の酵素反応の実
時間可視化のための常温時分割解析を行っています。
納豆菌が生産する有用な生理活性物質であるナットウ
キナーゼや水溶性ビタミンK複合体の構造研究なども行 図4. 蛍光分析によるβB2-クリスタリン蛋白質(眼内水晶体の主要構成蛋白質の一つ)の溶液中
での再生過程の観察。各段階におけるピークの強度などから再生程度は判断できるが、各形態
っています。
(量子ビーム計測・解析グループ)
は不明である。

【量子ビーム生体分子統合研究センター体制:QPIDs】
センター長:杉山正明 副センター長:裏出令子、
生体分子機能・設計グループ長:高田匠 量子ビーム計測・解析グループ長:井上倫太郎、
メンバー:森本幸生、茶竹俊行、守島健、奥田綾、清水将裕、柚木康弘
2

ASKレポート1

宇宙用太陽電池素子を用いた放射線センシングによる1F廃炉推進
原子力基礎工学研究部門・核変換システム工学研究分野 奥野 泰希 助教

 東京電力福島第一原子力発電所(1F)の事故
により、その廃炉においては解体作業に応じて
放射線場が刻一刻と変化する。そのため作業者
の被爆事故やロボットの損傷を防止するため、
リアルタイムな放射線場のマッピングが必要に
なる。
しかし、炉内適応可能な線量計には、高い
放射線レベルで長時間安定的に動作できるシス
テムが求められる。そのため、我々が、着目した
技術は、人工衛星の電源用に研究開発されてきた宇宙用太陽電池
である。
 宇宙用太陽電池は、宇宙環境における放射線に耐えうる特性を
持った素子が利用される。太陽電池としてよく知られており、地上で
利用されている代表的なものは、
シリコン(Si)と呼ばれる単一の元素
を結晶化した素子が利用されるが、
この太陽電池は、放射線耐性が
低い。現在開発されている宇宙用太陽電池は、化合物太陽電池と呼
ばれるもので、周期表の3と5族を使用したガリウム・ヒ素(GaAs)
太陽電池や、2から6族を使用した銅・インジウム・ガリウム・硫黄・
セレン(CIGSSe)太陽電池などがある。
これらの太陽電池は、Si太陽
電池に比べて放射線耐性が非常に高く宇宙ミッションでは10倍以上
の寿命をもつ。
 CIGSSe太陽電池は、特に放射線耐性が高く、我々の研究結果で
は、1F炉心の非常に高い放射線環境で10年以上も使用できることが
明らかになってきた。さらにこの太陽電池の世界一の効率をもつ素
子作製技術は、
日本が有していることから、高い放射線センシングが

可能な素子を国内で入手可能である。そのため、我々は、
この素子作
製技術を用いた廃炉に向けた放射線センシングシステムを開発して
いる。
 図1に開発中のCIGSSe太陽電池を応用した放射線検出器の試作
システムを示す。CIGSSe素子は、およそ15mm×6mmと非常に小さ
な形状に加工し、センサー内部に設置した。システムとしては、セン
サーが放射線環境で出力する微少な電流をピコアンメータにより測
定し、その信号を解析することで炉内の放射線を計測する事ができ
る。今後は、実際に廃炉への適応を目指して1Fサイトでのシステム
構築に向けた準備を進めている。

図1. 開発中の放射線検出器の試作システム

KURでの陽電子ビームの生成とそれを用いた原子空孔分析
粒子線基礎物性研究部門・照射材料工学研究分野 籔内 敦 助教

 後にジュラルミンと名付けられる高強度アル
ミニウム合金は、およそ120年前に偶然発見さ
れました。
ドイツの研究者ヴィルムは、ある土曜
日にCuを4%、Mgを0.5%溶かしたAl合金を作製
し硬さ測定を行いました。
しかし期待した硬さは
なく、ヴィルムはそのまま休暇に入りました。そ
して週明けの月曜日に改めて硬さ測定を始めた
ところ、土曜日に作製した合金が著しく硬くなっ
ていることに気付きました。
これは合金作製直後にはAl結晶中に均
一に溶け込んでいたCu原子やMg原子が、室温で2日放置している
間に凝集することで発現しました。
このようにして発見された硬化現
象は時効硬化と呼ばれ、金属材料の高強度化技術として現在でも自
動車、鉄道、航空機等々の製造において利用されています。
 さて、上で「結晶中に均一に溶け込んでいたCu原子やMg原子が
凝集した」
と書きましたが、固体中で原子が動くには結晶格子点に原
子のいない「孔」が必要です。スライドパズルと同様に、すべての格
子点が埋まっていると原子はほぼ動くことができません。
この孔のこ
とを原子空孔と呼びます。Cu原子やMg原子の凝集(=固体中での移
動)は、
スライドパズルのように原子空孔が(室温で!)動くことでもた
らされました。
 ヴィルムの例では室温で原子が動いていましたが、実際の金属材
料の製造現場では室温で放置しているだけで変化されては困る場
合もあり、原子空孔の濃度や挙動を制御することが工業応用上は重
要になります。一方で半導体材料では、例えば青色LEDの場合、青く
光らせたいのに原子空孔があると黄色く光ってしまったり、電流を流
しても光らなくなったりします。そのため半導体材料でも、優れたデ
バイスを作るためには原子空孔の導入を制御することが重要になっ

ています。
この原子空孔を調べるツールとして陽電子が用いられて
います。陽電子は結晶中に打ち込まれると原子空孔に捕獲される性
質を持ち、そこで対消滅する際に原子空孔の情報をガンマ線として
外部に放出してくれます。
このガンマ線を計測することで材料中の原
子空孔について知ることができます。
 私はKURで陽電子ビームを生成し、それを用いて主に金属・半導
体材料中の原子空孔について研究しています。図は高温超伝導体
7
を分析した例です。実験から得られたスペクト
GdBa2Cu3O(GdBCO)
ルを、第一原理計算から得た各種の単原子空孔がある場合の計算
スペクトルと比較した結果、市販のGdBCO超伝導線材には原子空孔
集合体が存在することがわかりました。
このような原子空孔集合体
の存在が超伝導特性にも影響を与えていることが考えられます。

図1 GdBCO完全結晶の構造と陽電子密度分布(左)、
陽電子消滅ガンマ線エネルギースペクトルの実験値および計算値(右)。

3

放射性同位体の医療応用に向けた研究
粒子線基礎物性研究部門・同位体利用化学研究分野 稲垣 誠  助教

 現在、がんを含めた様々な病気に対する治療
的小型で大強度が得られるレーザーが利用できるようになりまし
や診断に放射性同位体(RI)が用いられていま
た。そこで、本研究ではRI内包フラーレンの生成手段として、大強度
す。RIを治療や診断に用いるためには、RIを体内
の赤外線ファイバーレーザーを用いています。
ファイバーレーザーと
で患部などに集める技術が重要となりますが、
小型のチャンバーからなる装置を用い、チャンバー内に設置した小
そのような仕組みをドラッグデリバリーシステム
さな石英製の容器に炭素を主とする原料を入れ、容器内を希ガスで
(DDS)
と呼びます。RIのDDSを実現する手段とし
満たした状態で容器の外から原料にファイバーレーザーを照射しま
ては、RIを別の分子に保持させ、
その分子に患部
す。
この新規な手法で、実際にフラーレンを生成することに成功して
に集積させる機能を持たせることが考えられま
います。原料にRIを混合させて同様にフラーレンを生成すればRI内
す。RIを保持する分子の候補として、フラーレンが挙げられます(図
包フラーレンを生成できると考えられ、現在その実験を進め、効率的
1)。
フラーレンは炭素原子がサッカーボールのようなかご状に結合
な生成条件を探索しています。
した構造をもつ分子です。
フラーレンの中心部の空洞にRIの原子を
入れる(内包させる)
ことができれば、そのフ
ラーレンを化学的に修飾することでDDSの機
能を持たせることができると考えられます。
 フラーレンには金属原子を内包できること
が分かっており、RIを内包したフラーレンの生
成も一部報告されています。
しかし、従来の方
法は比較的大規模な装置を必要とし、RIによ
る汚染を考えると取り扱いが困難でした。RI内
包フラーレンを研究用途に少量生成するよう
な目的にはより簡便な生成法が求められま
す。そこで、本研究ではRI内包フラーレンを簡
便に生成する手法の開発を目指しています。
図2. レーザー照射の様子
 近年、ファイバーレーザーと呼ばれる比較 図1. RIを内包したフラーレンのイメージ図

実験データを収集するWebシステムの開発と材料開発への応用
安全原子力システムセンター・原子力防災システム研究分野 熊谷 将也 助教

 従来の材料工学は、実験を一つ一つ積み重ね
めたデータで学習させた機械学習モデルを作成し、新規熱電材料を
ることによって新しい材料を開発してきました。
提案する応用研究を進めています。
一方、近年では大規模な材料データを利用した
 2つ目のWebシステムでは、電子実験ノートに注目しています。論
機械学習等によって材料開発を進めるMaterials
文に記載されている情報は、実際に行った多くの試行錯誤的実験の
Informatics (MI)が注目されています。
このMIに
うちのごく一部です。そのため、Starrydata2のように論文から抽出し
よって、開発にかかる時間の短縮や、新規材料の
ても、データの数や多様性に限界があります。そこで私は、失敗デー
発見などが期待されています。
タを含む実験の過程から全てをデータ化する独自の電子実験ノート
 特にMIで利用される材料データは、計算の自
を開発しています。
動化による大規模なデータ生成が可能な第一原理計算データが主
流です。実際に、数十万レコードを超える材料の電子構造や物性な
どがオープンデータとしてすでに公開されています。
一方、現在オープンデータとして公開されている実験
データの数は、数百から千レコード程度がほとんどで
あり、第一原理計算データと比べて発展途上です。そ
こで私は、
「実験データの大規模収集を可能にする2
種類のWebシステム」を独自に開発し、そこで集めた
実験データを利用した実験MIという新たな研究領域
の開拓に取り組んでいます。
 1つ目のWebシステムでは、論文の紙面上の実験
データに注目しています。実験データは、古くから論
文の紙面上のプロット画像として公開されています
が、その多くがデジタルデータとして公開されていま
せん。そこで私は、論文から実験データを効率良く収
集できるWebシステムStarrydata2(図1)を独自に開
発しました。2022年11月現在で、すでに約9,800本の
論文から約54,000試料分の実験データの収集に成功
し、現在も継続してデータを増やしています。また、集
図1. 著者が独自に開発したWebシステムStarrydata2
4

ASKレポート2 定年退職にあたって

「20年を振り返って」
原子力基礎工学研究部門・研究炉安全管理工学研究分野 中島 健 教授

 今からちょうど20年前の2003年4月に、当時の
かなかった記憶があります。ただし、私は単身赴任をしており、週末
原子炉実験所に助教授として着任しました。着
には熊取を離れている機会も多かったため、現場の当直者や近隣在
任翌年の2004年には国立大学の法人化が行わ
住の担当者らには、
ご迷惑をおかけしていたかもしれません。
れ、また2005年には、着任前に勤務していた日
 これまでの間には、安全管理に関していくつかのトラブルが起こっ
本原子力研究所(原研)が核燃料サイクル開発
たりもしましたが、多くの皆さんの支えのお陰で、大きなトラブルに
機構との統合により日本原子力研究開発機構と
至ることなく、KURを維持管理でき、
また、そのことにより地元からも
なりました。
さらに、少し間が空きますが、原子炉
大きな信頼を得てきたことは、安全管理を担当してきた者として、大
実験所は2018年に複合原子力科学研究所に改
きな喜びです。安全管理や地元対応などで、多大な尽力をされてき
名・改組しており、20年という年月の間にいくつか大きな変化があり た関係者の皆様に、厚く御礼申し上げます。
ました。
 昨年度より所長となり、それまでも議論が行われていた研究炉の
 この20年間の大学勤務の中では、研究や教育に関してもいろいろ
今後の在り方について、大学としての正式な見解をとりまとめまし
と経験させてもらいましたが、私にとっては研究用原子炉KURの安
た。その結果、2026年をもってKURの運転を取りやめることとなりま
全管理にかかる業務が、最も大きな割合を占めていたと思います。 した。
これは、当研究所にとって非常に大きな決断であり、
これから
その中でも多くの時間を割いたのは、規制対応であり、当初の規制
の研究所の在り方を大きく変えていくことの契機となっています。原
機関であった文部科学省、その後の原子力規制庁へは、何度足を運
子炉実験を仕事にしたいと思って原研に就職した私にとっても、KUR
んだかわかりません。燃料低濃縮化のための許認可や福島第一原
を止めるということは、非常につらい決断でしたが、先送りできる問
発事故後の新規制基準対応のための許認可では、当初の予定を大
このように当研究所は大きな転換期を迎
題ではないと考えました。
幅に超えて審査等が行われたため、いずれも長期の運転休止となっ えていますが、同時に大学そのものも、
これから大きく変わろうとし
てしまい、利用者の皆様には、多大なご迷惑をおかけしてしまいまし
ています。
この研究所の転換期をむしろチャンスと捉えて、
これから
た。
また、許認可業務以外でも、原子炉運転中や停止中のトラブル等
行われる大学の変革の中で、当研究所が新しい複合原子力科学研
が発生した場合には、昼夜を問わず携帯電話に連絡があるため、研
究の場として大きく発展していくことを期待しています。
究炉部長や中央管理室長をしていた頃は、呼び出し音が鳴るたび
に、何かトラブルが起きたのではないかとハラハラしていました。出
力が小さいとはいえ、運転停止後も冷却が必要なKURでは、非運転
時でも急ぎの対応が必要なこともあり、休日でもあまり心が落ち着

あっという間でした―放射線管理に身を置いて
原子力基礎工学研究部門・放射線管理学分野 五十嵐 康人 教授

 着任したのが2019年1月でしたので、放射線
時はどの業務・用務でも新たなことばかりで目が三角でしたが、今に
管理に、研究に、教育に、さらに後半は研究教育
なると懐かしい気がします。漸くその荷を下ろせることに、多少の安
担当の副所長という全く身に不釣り合いな職務
堵感を覚えます。
ご指導くださったみなさま、業務上お付き合いくだ
もお預かりすることとなり、
日々慌ただしく、本当
さったみなさまに、深く感謝致します。
に駆け抜けたというのが実感です。国立試験研
 さて、
ここから後事を託して記すことにします。複合研では、教員の
究機関に30余年お世話になって卒業し一介の
みなさまの意識として研究と管理が表裏一体ではなく、むしろ二律
「素浪人」人生を感じ始めた頃、公募に手を挙げ
背反に近く感じられます。安全管理は、みなさんの研究も支える共同
たことすら忘却の彼方だった暑い夏、担当の先
利用・共同研究拠点である複合研の維持・発展に不可欠です。
しか
生からお電話頂き面接で複合研を訪れました。応募のときから放射 し、新規制基準適用や品証、RI防護の導入など、厳しく管理を求める
線管理を担うことは充分に覚悟しており、
またみなさまの期待もそこ 施策により業務量が著しく増大、法務に近い書類・記録の作成や処
にあると考えていました。
しかし、放射線管理部長という重責を着任
理・管理など、
より高度な業務内容も増大しているところ、専門人材
直後からお引き受けするとは想像していませんでしたので、
これは
の流出があり育成が急務です。そこで、若手・中堅の管理を中心に業
たいへんだと思いました。そのため、着任当初は緊張感も半端なく、 務に取り組んできた方々の情熱を上手に生かせる仕組みの構築、例
眠れない夜もあるほどでした(本当?と言われそうですが…)。当初
(名称にはこだわりません)など、文字通り
えば、
「専任教授・准教授」
の想像よりも遥かに多くの事項に気を配りながら、
また、技術職員さ
安全管理に「専任」する職階・職制の導入、研究と管理の両方に携わ
んたちや教員のみなさまの士気を挫くことなく如何に安全や安心に
る若手・中堅には厚く研究費を手当(評価は厳しく実施)、
といったメ
たどり着けるか、あれこれと悩んだ日々を過ごしてきました。特に、着 リハリが効いた施策を執れないでしょうか。アイデアはもっとありま
任以降これまでに、放射線管理部に所属する優秀な技術職員が2名、 すが、
「老兵は去り行くのみ」。ただし、もう暫くは複合研のお世話に
また、同じ分野の准教授の方が職場を去られたことは、返す返すも
なり
「老兵は死なず」、広島・長崎の所謂「黒い雨」領域判別の仕事を
残念なことでした。そうではありますが、その後は新人職員の採用の
継続します。老害にならぬよう努めますから、ぜひ、温かい目でみて
ため試験問題を作成したり、面接したり、お陰様で立派な新人職員1 くださるように、お願いを致します。
名を採用できました。 ...

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