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急性脳症における疾患感受性遺伝子の探索と機能解析

柴田, 明子 東京大学 DOI:10.15083/0002007046

2023.03.24

概要

[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名 柴田 明子
急性脳症は小児期に感染症に続発して急性発症する意識障害を主徴とする症候群であ
る。日本を含む東アジアにおける発症数が多いことから、発症には何らかの遺伝要因の関与
が考えられている。本研究では孤発性急性脳症の疾患感受性遺伝子について探索するとと
もに、単一遺伝子病としての急性脳症の原因遺伝子について機能解析を行った。
1.

カルニチン・パルミトイル転移酵素 2(Carnitine Palmitoyltranferase 2: CPT2)
はミトコンドリア内膜に局在し、アシル-CoA の形成を触媒する長鎖脂肪酸β酸化の関
連酵素である。CPT2 遺伝子の熱不安定性多型 rs2229291 について、重症の急性脳症
症候群との関連性の報告はあったが軽症な急性脳症症候群との関連の検討は未だなか
った。我々は軽症な症候群 MERS(可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症)
も含むより大きな急性脳症コホートについて、患者対照関連解析を行った。
rs2229291 は、MERS、AESD(けいれん重積型急性脳症)
、および急性脳症全体と有
意な関連を示した。残りの症候群では対照群との有意差は認められなかった。予後や
インフルエンザウイルスと熱安定性多型との有意な関連は認められなかった。
CPT2 熱不安定性多型は軽症から重症の幅広い重症度の急性脳症症候群の共通した遺
伝的リスク因子であると考えられた。発熱時のミトコンドリア代謝障害が急性脳症の
様々な症候群に共通する根底となる疾患発症機序であることを示唆している。

2.

SCN1A、KCNQ2 はイオンチャネル関連遺伝子であり、それぞれてんかん性脳症の原
因遺伝子として知られている。我々は以前、急性脳症 12 症例に対しててんかん関連遺
伝子のターゲットエクソーム解析を行い、これら 2 遺伝子についてミスセンスバリアン
トを同定した。今回は、けいれん重積型急性脳症(AESD)175 例について SCN1A と
KCNQ2 遺伝子のレアバリアント関連解析を行った。
レアバリアント関連解析の結果、SCN1A は AESD と有意に関連しており、有害バリア
ントのみを対象とするとより有意な関連性を示した。KCNQ2 に関しては、症例群で非
同義レアバリアントは多い傾向にはあったが、有意な関連性は認めなかった。
SCN1A レアバリアントと AESD との間に関連性があることを統計学的に初めて示し
た。SCN1A は AESD の疾患感受性遺伝子であることが明らかとなった。SCN1A とは対
照的に、KCNQ2 と AESD との有意な関連性は認められなかった。生後早期には,GABA
は神経興奮性に働き,KCNQ2 チャネルは抑制系において中心的な役割を果たすが、

AESD が好発する乳児期後期には抑制系において GABA が主体となり KCNQ2 が果た
す役割は相対的に小さくなるためかもしれない。今後の研究では GABA 作動系のこれ
らの発達的変化を考慮に入れる必要がある。
3. 常染色体優性急性壊死性脳症 (ADANE) は、家族性・再発性に ANE 症状を示す疾患だ
が、予後や病巣に関して孤発性急性壊死性脳症と異なる特徴を有する。ヨーロッパ人に
多く、原因遺伝子として RANBP2 が同定されている。RANBP2 の LD は cytochrome c
oxidase copper chaperone (COX11)の hexokinase 1(HK1)に対する阻害作用を抑制すること、
RANBP2 ヘテロノックアウトマウスの中枢神経系では HK1 と ATP が低下することが報
告されている。本研究では、ADANE の RANBP2 変異が COX11 との相互作用に影響を
及ぼすか検討した。また、患者と対照のリンパ芽球を用いて細胞内 ATP 濃度の比較も行
った。
Western Blotting の結果から、COX11/GST-RANBP2 比は変異型では野生型と比べて低
下していた。独立した 3 サンプルで同様の結果が確認され、変異型では COX11 との結
合が有意に低下していた。野生型と変異型で細胞内 ATP 濃度に明らかな差は認めなか
った。本研究では RANBP2 の LD の機能異常により解糖系での COX11 との結合性が低
下していることを確認した。リンパ芽球においては野生型と変異型で ATP 濃度に明ら
かな差が認められなかった理由として、平常時には野生型と変異型でのエネルギー代謝
に明らかな差がないことや、神経系細胞以外では差が出ないことが考えられた。今後の
研究として、酸化ストレス環境下での比較や ADANE の RANBP2 バリアントを導入した
モデル神経細胞における ATP や HK1 の検討も必要である。
以上の 3 つの研究を通し、本論文は急性脳症の疾患感受性遺伝子として、メンデル遺伝
性疾患の原因遺伝子、レアバリアントからコモンバリアントに渡って、また機能としては
エネルギー代謝関連、神経興奮関連と多様な機能の遺伝子が急性脳症の疾患感受性遺伝子
となっていることを明らかとした。
将来的には網羅的な遺伝学的スクリーング検査により、急性脳症の高リスク群を早期発見
し、発症予防や発症時の早期診断・治療が可能となることが期待される。また、疾患感受性
遺伝子の分子生物学的機能を足掛かりとした早期診断のためのバイオマーカーの同定、
個々の患者のもつ遺伝因子からイオンチャネル受容体拮抗薬や代謝補助治療などそれぞれ
の患者に適した治療を施すプレシジョン・メディシンなど多様な場面で臨床現場に活かさ
れると考えられる。そのような研究発展の礎として本研究は重要な貢献をなすと考えられ
る。
よって本論文は博士( 医学 )の学位請求論文として合格と認められる。

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