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大学・研究所にある論文を検索できる 「局所的炭酸ガス投与による口腔扁平上皮癌の腫瘍免疫抑制因子に対する効果」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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局所的炭酸ガス投与による口腔扁平上皮癌の腫瘍免疫抑制因子に対する効果

八谷, 奈苗 神戸大学

2022.03.25

概要

【緒言】
頭頸部癌において、化学療法は根治的治療や術後追加治療、また再発や転移に対する治療として広く行われている。その中で、化学療法に対する腫瘍の治療抵抗性は臨床において重要な課題となっている。

低酸素状態は化学療法抵抗性を引き起こす要因の一つである。頭頸部扁平上皮癌細胞においても低酸素環境下で薬剤耐性が獲得されることが報告されており、これには低酸素誘導因子(HIF1- α)の関与が知られている。近年、腫瘍が生体の免疫応答を回避する腫瘍免疫抑制機構も腫瘍の治療抵抗性の原因として注目されている。腫瘍免疫抑制は低酸素とも関連しており、低酸素環境や HIF-1αの上昇は、腫瘍微小環境において programmed death-ligand 1, 2(PD-L1、PD-L2)などの腫瘍免疫抑制因子の発現に影響を及ぼすことが報告されている。そこで、腫瘍内の酸素化を改善させるために様々なアプローチが試みられているが、その効果的な治療法は未だ確立されていない。

局所的炭酸ガス療法は、以前より低酸素環境を改善する方法として広く知られている。炭酸ガス(CO2)は局所の血流の増加や、人工的な Bohr 効果を惹起してヘモグロビンからの酸素解離を促進させることにより酸素化を改善する効果がある。われわれは、これまでの研究において CO2の効率的な局所吸収を可能にするCO2 投与方法を開発した。この方法では CO2 吸収促進ゲルを塗布した皮膚にCO2 を当てることにより経皮的に体内へCO2 が吸収される。この方法により健常人に対して CO2 投与を行った研究において、局所の酸素化が改善することが確認されている。また、同様の方法用いて in vivo で口腔扁平上皮癌細胞に CO2 を適用した過去の研究では、腫瘍内の局所的な酸素化を改善することも確認された。

これまでに述べた低酸素環境と腫瘍免疫抑制作用や化学療法抵抗性との関係性から、今回われわれは CO2 投与による低酸素環境改善が腫瘍免疫抑制因子を減少させ、化学療法抵抗性を改善すると仮定した。しかし、腫瘍免疫抑制および化学療法抵抗性に対する CO2 投与の影響や、化学療法との併用による効果は不明である。そこで、本研究では口腔扁平上皮癌に対する局所的 CO2 投与の効果と、化学療法との併用の効果を腫瘍免疫抑制因子(PD-L1、PD-L2 および galectin-9)に注目して調査した。

【材料と方法】
・動物モデル
40 匹の 7 週齢の雄のヌードマウス(BALB/cAJcl-nu/nu)の背部皮下に、HSC-3 細胞(細胞数4×106)を移植し、各 10 匹ずつ 4 群(1.対照群:CO2、シスプラチンの投与を行わない。2. CO2 群:局所的CO2 投与を行う。 3.CDDP 群:シスプラチンを腹腔内投与する。4.併用群:局所的 CO2 投与とシスプラチン腹腔内投与を行う。)に無作為に振り分けた。

・局所的CO2 投与
マウス背部に移植された腫瘍周囲皮膚に CO2 吸収促進ゲルを塗布し、同部を含む範囲をポリエチレンバッグで被覆した。バッグ内に 100% CO2 を送り込み、20 分間経皮的に CO2 投与を行った。

・シスプラチン投与
シスプラチン(ランダ注、日本化薬)を、4 mg / kg の用量で週 2 回、2 週間腹腔内注射した。

・Study Protocol
マウスへ HSC-3 細胞を移植して 14 日後に治療介入を開始した。介入は週に 2 回、2 週間実施した。マウスの体重および腫瘍の体積は、治療終了時まで週に 2 回測定した。 腫瘍体積 V は、 V=π/6×a2×b(a : 腫瘍短径、b: 腫瘍長径)に従って計算して求めた。治療終了 24 時間後に、腫瘍を摘出した。

・Real-time PCR 法
採取組織を-80℃にて凍結保存し、TRIzol 試薬で RNA 抽出を行った。RNA を cDNA へ変換後、リファレンス遺伝子を β-actin とし、SYBR Green によるReal-time PCR 法を行った。

・免疫組織化学的染色法
4μmパラフィン切片を用いて、pH9 Tris / EDTA 溶液等による処理後、4℃ overnight で一次抗体反応を行った。翌日、室温 2 時間にて二次抗体反応を行い,DAB 処理後にスライドを作成した。染色部位は、Hybrid cell count BZ-H3C ソフトウェア (Keyence)を用いて定量化した。

・統計分析
結果は、Kruskal-Wallis 検定と Steel-Dwass 検定により統計分析を行った。 有意性はp <0.05に設定した。

【結果】
・マウス体重
CDDP 群と併用群では、介入終了時のマウスの体重は、対照群と比較して有意に減少した。 一方、CO2 治療群では体重に有意な変化は認めなかった。

・腫瘍体積増加率
介入終了時に、CO2 群、CDDP 群および併用群で、対照群と比較して腫瘍体積増加率の有意な減少が認められた。 併用群は腫瘍体積増加率が最小であった。

・遺伝子発現
PD-L1 の mRNA 発現は、対照群と比較して CO2 群と併用群で有意な低下を認めた。同様に、 PD-L2 と galectin-9 においても CO2 群と併用群で対照群や CDDP 群よりも発現が低下する傾向があった。 しかし、PD-L2 の発現は各群において統計的な有意差は認めなかった。

・免疫組織化学的分析
Real-time PCR 法の結果と同様に、免疫染色でも CO2 群と併用群において、対照群や CDDP 群と比較してPD-L1、PD-L2、および galectin-9 の発現の有意な低下が認められた。

【考察】
本研究では、腫瘍を移植した動物モデルに対して局所的CO2 投与を行うことで PD-L1、PD-L2、および galectin-9 の発現が減少することが示された。また、シスプラチンとCO2 投与を併用した場合にも、これらの腫瘍免疫抑制因子の発現が減少した。

近年、免疫チェックポイント阻害剤は、従来の化学療法に耐性のある癌に影響を与えることが示されており、シスプラチン耐性腫瘍においても腫瘍免疫抑制作用の関与が注目されている。PD- 1 / PD-L1 経路は頭頸部癌における腫瘍免疫抑制の代表的な経路の 1 つである。Programmed cell death 1(PD-1)は細胞傷害性 T 細胞に発現する免疫チェックポイント受容体であり、 PD-L1 と PD-L2 はこれに対するリガンドである。これらは、癌や免疫細胞を含むさまざまな細胞で発現し、 T 細胞の抗腫瘍活性を抑制する。Galectin-9 は免疫チェックポイント分子 Tim-3 のリガンドであり、細胞傷害性T リンパ球の傷害や NK 細胞の活性の抑制により抗腫瘍免疫監視を抑制する。

シスプラチンと腫瘍免疫抑制因子の関係性についてはさまざまな報告があり、多くの研究では化学療法により PD-L1 や PD-L2 の発現が上昇することが示されている。口腔扁平上皮癌細胞に対するシスプラチン投与においても PD-L1、PD-L2 の発現の上昇を示す報告が散見される。一方で、化学療法感受性細胞においてはシスプラチン投与がこれらの発現に影響を与えなかったとする報告もある。本研究では、シスプラチン投与による腫瘍免疫抑制因子発現の有意な変化は示されなかった。細胞株の種類・薬剤投与量・投与方法・評価タイミングより、発現への影響に差が出る可能性も考えられ、今後これらの条件を変更して再検討する必要がある。

また、低酸素環境は腫瘍の免疫回避に影響を与える可能性があり、それに関与するメカニズムがいくつか報告されている。その 1 つであるHIF-1αは、PD-L1 の発現を調節することが知られており、PD-L2 発現にも同様のメカニズムが関与していることが示唆されている。われわれは過去の研究において、局所的 CO2 投与により低酸素誘導因子である HIF-1αの発現が低下することを確認している。本研究では、CO2 群や併用群において PD-L1 や PD-L2 の減少が認められており、局所的CO2 投与による HIF-1αの発現抑制によって、これらの発現の低下がもたらされた可能性が考えられる。しかし、galectin-9 に関しては発現のメカニズムに関する報告がほとんどなく、今回認められた発現低下に関しては今後さらなる検討が必要である。

本研究の結果からは、腫瘍免疫抑制因子の低下には CO2 投与が有効である可能性が示唆された。シスプラチンとの併用による相乗効果については確認できなかったが、併用群においても CO2 群と同様にPD-L1、PD-L2 および galectin-9 の発現の低下を認めており、化学療法と併用した場合でも腫瘍免疫抑制作用を改善できる可能性があると考えられる。局所的 CO2 投与と化学療法の併用は、シスプラチンに対する化学療法抵抗性を低下させる可能性が期待される。

本研究で使用した局所的 CO2 投与法の利点は、局所へ効率的に酸素を供給できる安価で簡便な方法であるという点である。局所的 CO2 投与により腫瘍の免疫抑制作用と治療抵抗性を改善できる場合、患者の予後の改善、生存率の増加、薬剤投与量の減少、腫瘍治療に関連する副作用の減少など、今後多くの効果が期待される。 しかし、実際の臨床への応用を予想した場合、頭頸部領域に気体のCO2 を適用することは困難である。この課題を解決するために、気体を必要とせずCO2の吸収が可能となるペーストを開発している。

【結論】
口腔扁平上皮癌を移植したマウスモデルへの局所的 CO2 投与により、PD-L1、PD-L2 および galectin-9 といった腫瘍免疫抑制因子の発現が低下することを確認した。 これは、局所的 CO2 投与が腫瘍の低酸素環境を改善し、化学療法と併用した場合でも腫瘍の免疫抑制メカニズムを改善する可能性があることを示唆している。 腫瘍免疫抑制と化学療法に対する CO2 投与のメカニズムや臨床効果を確認するには、今後さらなる研究が必要である。

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