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スニチニブはヒト表皮3次元モデルにおいてKRT6AおよびSERPINB1の発現を減少させる

Yoshida, Ayaka 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景・目的】
 血管新生阻害作用を有するマルチキナーゼ阻害薬は, 近年のがん化学療法において重要な薬剤の一つであるが, 手足皮膚反応をはじめとした特徴的な副作用をもたらすことが知られている.手足皮膚反応は, 手掌部や足底部の過角化を主たる病理像とし, 疼痛による歩行・把持困難などの機能障害を引き起こすことで患者の生活の質(QOL)を著しく低下させる.しかし, 手足皮膚反応の発症はマルチキナーゼ阻害薬治療の有効性と関連するため, 手足皮膚反応の効果的な予防・治療法の確立が患者のQOLのみならず治療の予後を改善するために重要である.
 腎細胞がん治療の第一選択薬であるスニチニブは, 血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)1-3型, 血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)αおよびβ, c-Kit, FMS様チロシンキナーゼ-3, コロニー刺激因子-1受容体を標的としたマルチキナーゼ阻害薬である.スニチニブによる手足皮膚反応の発症頻度は, 保湿効果を有するヘパリン類似物質または尿素含有軟膏による適切な予防を行った場合においても約30%と高頻度である.重度の手足皮膚反応の治療には経験的にステロイド含有軟膏が使用されているが, 十分な根拠はない.
 本研究では, 手足皮膚反応の有効な予防・治療法の開発を目指して, 病態の分子機構の解明を行うため, ヒト角化細胞モデルを用いて, スニチニブがもたらす皮膚科学的・分子生物学的変化に伴い発現変動を認める角化因子の探索を行った.

【方法】
 ヒト表皮3次元モデルにはEPI-200を用いた.真皮層側からスニチニブを処置したEPI-200を用いて, マイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析を行った.さらに, 同様の処置を行ったEPI-200を用いて免疫組織染色を行い, 遺伝子発現変動が認められたタンパク質を確認した.
 単層培養の細胞株を用いた検討には, ヒト正常表皮角化細胞(NHEK細胞)およびヒト不死化正常表皮角化細胞(PSVK1細胞)を用いた.NHEK細胞およびPSVK1細胞におけるスニチニブおよび各種阻害剤処置後のタンパク質発現変動はwestern blot法により評価した.また, PSVK1細胞におけるスニチニブおよびglycogen synthase kinase(GSK)-3p阻害剤処置後のβ-cateninの核内移行は免疫蛍光染色法により評価した.

【結果・考察】
 1μΜスニチニブを5日間処置したヒト表皮3次元モデルを用いてマイクロアレイ解析を行い, 対照と比較して1.5倍以上の発現量の増加または減少を示す173遺伝子を抽出した.その中からGene Ontology Biological Process Termを用いた分子機能に基づく選択と角化異常に関する文献的選択プロセスによりserine protease inhibitor(SERPIN)Bl, keratin(KRT)6A, ΚΚΓ5, SERPIN Kazal-type(SPINK)6をスニチニブによる角化異常に関与する候補因子として選択した.免疫組織染色により, スニチニブを処置したモデルでは, 手足皮膚反応と類似する病理学的形態変化とともにKRT6AおよびSERPINB1の染色面積比が対照と比較して有意に減少することを確認した.一方, KRT5は染色面積比に有意な差を認めず, SPINK6は本研究で用いたEPI-200において検出されなかった.以上より, スニチニブはヒト表皮3次元モデルにおいてSERPINB1およびKRT6Aの発現を減少させることが示された.
 SERPINB1およびKRT6Aは手足皮膚反応と病理像が類似した長島型掌躕角化症およびJadassohn-Lewandowsky型先天性爪甲厚硬症のそれぞれの原因遺伝子であることが報告されている.特に, 基底層および基底上層に局在するKRT6Aは, 角化細胞の正常な増殖, 細胞接着, 遊走ならびに角化細胞の炎症を促進し, 表皮の損傷を回復させるために重要な役割を果たしていることが知られている.
従って, 本研究で観察されたSERPINB1およびKRT6Aの減少は, 表皮の生物学的・病理学的変化を引き起こす可能性が高いと考える.
 次に, 単層培養の細胞株を用いて, スニチニブによる角化関連因子の発現変動を評価した.その結果, 1μΜスニチニブを48時間処置したΝΗΕΚ細胞においては, KRT6A, SERPINB1, KRT5およびSPINK6の発現に有意な変化を認めなかったが, PSVK1細胞においてはΚΚΓ6Αの発現が有意に減少した.スニチニブを処置したPSVK1細胞では, KRT6Aの発現減少と同時にextracellular signal-regulated kinases(ERK)l/2およびp38mitogen-activated protein kinase(MAPK)のリン酸化レベルの低下を認めた.また, スニチニブの有無にかかわらず, MAPK/ERK阻害剤であるU0126ならびにp38 MAPK阻害剤であるSB203580を処置したPSVK1細胞においてもKRT6Aの発現が有意に減少した.さらに, β-cateninの核内移行を介して成長・増殖因子とは異なる経路からERK1/2のリン酸化を亢進させるGSK-3P阻害剤であるSB216763をスニチニブと併用することで, スニチニブによるERK1/2およびp38 MAPKリン酸化レベルの低下ならびにKRT6Aの発現減少は有意に抑制された.
 スニチニブはVEGFRおよびPDGFRのチロシンキナーゼを阻害することが主な作用機序である.そして, ERK1/2およびp38 MAPKは, ともに成長・増殖因子受容体の下流にあるシグナル伝達物質であるため, スニチニブの長期的な曝露は, ERK1/2およびp38 MAPKのリン酸化を抑制する.ERK1/2などのMAPKはKRT6Aの発現を制御していることが知られており, KRT6Aの発現減少がMAPK/ERKおよびp38 MAPKの選択的阻害剤によっても認められたことから, スニチニブによるKRT6Aの発現減少は, ERKやp38 MAPK経路を介したスニチニブの作用機序に基づく現象である可能性が高い.

【結論】
 スニチニブはヒト表皮3次元モデルにおけるKRT6AおよびSERPINB1の発現を減少させることが明らかとなった.さらに, KRT6Aの発現変動はERK1/2およびp38 MAPKシグナル伝達経路を介することが示唆された.KRT6AおよびSERPINB1の発現変動が, スニチニブに起因する手足皮膚反応の病態に寄与している可能性があるため, これら因子の発現変動を抑制することが, 効果的な手足皮膚反応の予防・治療法の開発戦略となり得る.

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