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大学・研究所にある論文を検索できる 「アントラサイクリン系抗がん剤投与後の悪性リンパ腫患者における高血圧と左室機能障害との関連」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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アントラサイクリン系抗がん剤投与後の悪性リンパ腫患者における高血圧と左室機能障害との関連

Tanaka, Yusuke 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景】
アントラサイクリン系抗がん剤は、リンパ腫、白血病、乳がんなどの幅広い悪性腫瘍に対して用いられており、現在では分子標的薬が臨床応用されてようになってきたが、それにもかかわらずその有効性から、今なお、化学療法において不可欠な治療薬であり、がんの治癒率の向上や QOL の改善をもたらしている。一方で、アントラサイクリン系抗がん剤は心筋障害を引き起こす重篤な副作用を有し、用量依存性に左室機能障害を発症し、また、蓄積性があるため投与終了後数年経過したあとでも心不全を発症し得る。抗がん剤治療による心機能障害は、がん治療関連心機能障害( CTRCD : Cancer Therapeutics-Related Cardiac Dysfunction)と称される。アントラサイクリン系抗がん剤による CTRCD は不可逆的な心筋障害を引き起こし、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンギオテンシン II 受容体遮断薬、β 遮断薬などの心不全治療に確立された心臓保護薬の効果にも乏しく、予後は不良と報告されている。しかしながら、アントラサイクリン系抗がん剤による心筋障害を早期発見することにより、これらの心保護薬の効果が見込まれることも報告されているため、早期発見、早期治療介入が望ましいとされている。

高血圧は、様々なタイプの心不全において最も重要な危険因子であり、心臓に対する後負荷の増大により心筋の肥大を引き起こし心不全に至る。また、欧州心臓病学会から 2016 年に発表された position paper では、アントラサイクリン系抗がん剤による心毒性のリスク因子がいくつか提示されており、その中でも高血圧症は重要なリスク因子であると報告されている。このように、高血圧症、さらに高血圧によって引き起こされる心肥大は心不全発症の重要なリスク因子であるが、アントラサイクリン系抗がん剤投与後の心機能障害と高血圧症の関連については詳細な検討はなされていない。

よって、本研究の目的は、左室駆出率(LVEF : Left Ventricular Ejection Fraction)の保たれた悪性リンパ腫患者において、アントラサイクリン系抗がん剤投与後の心機能障害と高血圧症、さらには左室肥大との関連を評価することである。

【方法】
対象は、2008 年 6 月から 2019 年 5 月まで、神戸大学医学部附属病院でアントラサイクリン系抗がん剤を使用した化学療法を施行し、化学療法前の LVEFが正常(50%以上)の悪性リンパ腫患者 92 人である(年齢:55±17 歳、女性: 49%、左室駆出率:65±5%)。高血圧の定義は、抗がん剤投与前の収縮期血圧が140mmHg 以上もしくは拡張期血圧が 90mmHg 以上、または降圧剤での治療中であることとした。対象患者の体表面積あたりのドキソルビシン累積投与量は 262.4mg/m2(149.7, 382.6)であった。全例、アントラサイクリン系抗がん剤使用前と投与平均 2 か月後に心エコー図検査を行った。標準的な心エコー図指標はアメリカ心エコー図学会、及びヨーロッパ心血管画像学会のガイドラインに基づいて行った。さらに、潜在的な左室収縮能障害を検出し得る左室長軸方向の心筋収縮能(GLS : Global Longitudinal Strain)は、スペックルトラッキング法を用いて、標準的な左室心尖部 3 断面の 18 領域のピークストレイン値の平均値より算出した。左室肥大の定義は求心性左室肥大とした(相対的壁厚≥0.42かつ左室重量係数が女性≥95g/m2-女性、男性≥115mg/m2)。また、CTRCD の定義は、アメリカ心エコー図学会、及びヨーロッパ心血管画像学会のステートメントに従い、アントラサイクリン系抗がん剤による治療後の LVEF がベースラインよりも 10%低下して 53%を下回ることとした。

【結果】
高血圧群(23例)と非高血圧群(69例)での患者背景の比較では、高血圧群で有意に年齢が高く(68.7±6.8歳 vs. 50.4 ± 17.1歳、p < 0.001)、GLSは有意に低かった(17.6 ± 1.3% vs. 20.0 ± 2.4%、p=0.001)。2群間でのアントラサイクリン系抗がん剤使用後のLVEFの低下については、高血圧群で非高血圧群と比較して相対的なLVEF低下率が有意に大きく(−5.8% [−9.4, −1.3]) vs. (−1.1% [−4.1,
2.5])、P=0.005)、さらに、高血圧群では、CTRCDの発症率において、非高血圧群と比較して高い傾向にあった(17% vs. 6%、p=0.09)。また、アントラサイクリン系抗がん剤使用後のGLSの相対的低下率についても、高血圧群で有意に大きい結果となった(−7.0% [−11.7, −4.5] vs. −1.1% [−3.9, 1.1]、P < 0.001)。アントラサイクリン系抗がん剤投与後のCTRCDの発症に関連する予測因子を多変量解析で検討したところ、高血圧と左室肥大がそれぞれCTRCD発症の独立した予測因子であった。また、逐次投入法による多変量ロジスティック回帰解析では、年齢、性別、糖尿病、放射線治療歴、体表面積あたりのアントラサイクリン累積投与量を入れたモデル(χ2=5.8)に高血圧を加えることで有意にCTRCDの予測精度の上昇を認め(χ2=9.6、p=0.049)、左室肥大の指標を加えることによって、さらにCTRCDの予測精度のさらなる上昇を認めた(χ2=14.8、 p=0.023)。

【考察】
がん治療の飛躍的な進歩によりがん患者のがんによる死亡率は低下する一方で、がん治療後の長期生存者の長期予後に影響する因子として、CTRCD は強く関与し、さらに、高齢化が進むなかで、心血管疾患のリスクとなる生活習慣病を同時に有する患者も増加するため、CTRCD がより高頻度に発生することが予想される。アントラサイクリン系抗がん剤による CTRCD は、抗がん剤投与終了より 1 年以内に発症する症例が 90%以上であるが、抗がん剤投与後数十年経過して発症した例も報告されている。また、アントラサイクリン系抗がん剤による CTRCD は一度発症すると従来の心不全治療に対して抵抗性を示し死亡率は比較的高く、予後不良である。しかしながら、より早期にアンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンギオテンシン II 受容体遮断薬、β 遮断薬などの心保護薬を使用することで、化学療法後の LVEF の低下の予防や予後の改善が期待できる。そのため、CTRCD をより早期に発見し、早期治療介入を行うことが望ましく、心筋障害や晩期の心血管イベントの発症を予防できる可能性がある。

高血圧症は様々な種類の心不全の発症に大きく関与している。高血圧が持続することで心臓に強い負荷がかかり、その結果、心臓のポンプ機能が低下、心不全に至る。また、持続的な高血圧により後負荷が上昇すると心筋は心拍出を保つために左室肥大が起こり、これにより心筋の収縮が低下するため、心機能は低下、心不全を発症する。左室肥大は高血圧の患者に多くみられ、左室肥大の合併は、心臓突然死ならびに心不全死のリスクを増加させると報告されている。

本研究では、LVEF が正常の悪性リンパ腫患者において、高血圧症はアントラサイクリン系抗がん剤治療後の LVEF 低下や CTRCD 発症と関連することを認めた。さらに、高血圧症に合併した左室肥大では、CTRCD の発症に有意な関連性を認めた。よって、今後はアントラサイクリン化学療法前に高血圧症、特に左室肥大を有する患者には、予防的に心保護薬を使用することで CTRCD 発症のリスクを低減できる可能性があり、また、CTRCD の早期発見において、高血圧、さらには左室肥大を合併した患者では特に注意して心機能のフォローを行い心筋障害の評価をより早期に行うことで、早期の治療介入を可能とする。

【結語】
LVEF の保たれた悪性リンパ腫患者において、高血圧、特に左室肥大を合併した症例では、アントラサイクリン系抗がん剤使用後の左室心筋障害と関連することを認めた。このような患者には、注意深いフォローアップと早期の治療介入が必要である。

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