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2型糖尿病における血糖変動と左室拡張機能との関連について

Yokota, Shun 神戸大学

2020.03.25

概要

【背景】
慢性心不全患者は欧米のみならず、我が国でも増加の一途を辿っている。慢性心不全患者の中に、左室駆出率が 50%以上と左室収縮機能が保持されている心不全が、40~50%と高頻度に存在することが報告されており、HFpEF(Heart Failure with Preserved Ejection Fraction)と称されている。HFpEF の主体は左室拡張機能障害に起因する心不全であり、左室拡張機能障害の病態は、心筋レベルでの弛緩障害、線維化、肥大などから、心室レベルでの幾何学的形状の変化や不均一性まで多様であり、最終的に左室拡張期圧、左房圧の上昇をきたして心不全症状を呈する。さらに、左室駆出率が 50%未満の左室収縮不全(HFrEF:Heart Failure with Reduced Ejection Fraction)に起因する慢性心不全と比較して、HFpEF の生命予後は変わらないことが証明されている。HFrEF の薬
物治療に関しては、生命予後を改善する大規模臨床試験が多数存在し、欧米ならびに我が国のガイドラインにも明記されている。しかし HFpEF に対する生命予後を改善する薬物は存在せず、また左室拡張機能を改善させる薬物治療に関しても一定のコンセンサスは得られていない。HFpEF は左室拡張機能障害に起因する心不全であるが、HFpEF の病態は極めて複雑であり、その病態を増悪させる様々な因子が存在していることが報告されている。なかでも 2 型糖尿病(T2DM)は HFpEF の重要な増悪因子であり、HFpEF 患者の 20-45%に糖尿病が合併していると報告されている。

一方、糖尿病患者における血糖管理、評価の方法として、持続血糖モニタリング(CGM)を用いた評価が近年注目されている。この装置を使用することにより、血糖自己測定や HbA1c の値では予想できない血糖変動の存在が明らかになる。糖尿病患者では CGM を用いた血糖変動と虚血性心疾患との関連については過去に報告されており、血糖変動の指標は独立した虚血性心疾患の予測因子である。しかしながら、糖尿病患者において、血糖変動と心機能、特に左室拡張機能との関連は明らかではない。

よって、本研究の目的は、左室駆出率が保持された T2DM 患者を対象に CGM を用いて、血糖変動と左室拡張機能の関連を評価することである。

【方法】
2013 年 7 月から 2015 年 9 月まで、神戸大学医学部附属病院に入院し、経胸壁心エコー図検査と CGM による持続血糖モニタリングが施行された無症候性の T2DM 患者 100 例を対象とした。冠動脈疾患の既往がある症例、左室駆出率が低下している症例(50%未満)、開心術または先天性心疾患の既往がある症例、重度の腎機能障害を認める症例(GFR<30mL/min/1.73m²)、コントロール不
良な高血圧症例(>180/100mmHg)、中等度以上の心臓弁膜症を有する症例、心房細動を有する症例は除外した。また、入院中に全例トレッドミル運動もしくは薬剤負荷シンチグラフィを施行し、心筋虚血が指摘された症例は本研究から除外した。T2DM の診断は、世界保健機関の基準に従った。全例入院中に経胸壁心エコー図検査(GE 社製 Vivid E9)と持続血糖モニタリング(Medtronic 社
製 iPro2)を 6 日以内に施行し、72 時間以上の持続血糖測定を行った。血糖変動の指標は、連続して測定された血糖値の標準偏差として産出した。対象患者の連続血糖測定値の標準偏差の平均値(35.9mg/dL)より高値の群を血糖変動高値群と定義した。また、左室拡張機能は米国心エコー図学会のガイドラインに基づき、僧帽弁口血流㏿波形の拡張早期波高(E)と僧帽弁輪運動㏿波形の拡張早期波(e')の比(E/e’)で評価し、E/e’>14 を有意な左室拡張機能障害と定義した。

【結果】
本研究の対象患者の平均年齢は 60±14 歳、45 例(45%)が女性であった。左室駆出率は平均 65.6±4.9%であった。また、血糖変動高値群は 43 例、血糖変動低値群は 57 例であった。

血糖変動高値群と血糖変動低値群での患者背景の比較では、2 群間において年齢、性別分布、HbA1c などには差はなかったが、血糖変動高値群の E/e’は、血糖変動低値群よりも有意に高く(11.3±3.9 vs.9.8±2.8、p = 0.03)、血糖変動高値群で有意に左室拡張機能が悪化していた。左室拡張機能障害(E/e’>14)を規定する因子を多変量解析で検討したところ、年齢だけでなく、血糖変動の指標が左室拡張機能障害の独立した関連因子であった。また、逐次投入法による多変量ロジスティック回帰解析では、年齢、性別、高血圧を入れたモデル(χ2=11.6)に HbA1c を加えることで有意な左室拡張機能障害の規定因子とはならなかったが(χ2=11.8、p=0.67)、血糖変動の指標を加えることで、左室拡張機能障害の有意な規定因子となった(χ2=16.0、p=0.04)。

また、本研究の対象患者を HbA1c の中央値(8.2mg/dL)に基づいて、高 HbA1c 群(8.2mg/dL 以上)および低 HbA1c 群(8.2mg/dL 未満)の 2 群に分類した。高 HbA1c 群と低 HbA1c 群の左室拡張機能(E/e')には有意差は認めなかったが(10.2±3.2 vs.10.7±3.5、p=0.46)、低 HbA1c 群かつ血糖変動高値群の左室拡張機能(E/e')は、高 HbA1c 群かつ血糖変動低下群と比較して有意に悪化しており(11.9±4.3 vs. 9.6±3.0、p=0.04)、血糖変動による左室拡張機能に対する強い関与が裏付けられた。

【考察】
本研究では、左室駆出率が保持された無症候性 T2DM 患者における血糖変動高値群の左室拡張機能は、血糖変動低値群より有意に低下していた。さらに、血糖変動の指標は左室拡張機能障害と強く関連していた。

心不全と糖尿病は互いに強く影響し、一方の発症は予後の悪化ともう一方の疾患の進行の前兆となると考えられており、Framingham Study では、冠動脈疾患と高血圧に関係なく、男性の糖尿病患者では心不全の発症率が 2 倍増加し、女性の糖尿病患者では 5 倍増加していることが報告されている。糖尿病患者において HbA1c の高値は心不全発症率や死亡率の増加と関連している一方で、低血糖により HbA1c が低下している場合は転帰との間に逆説的な関係となることが報告されている。また、高血糖は、微小血管リモデリングや心筋繊維化などの構造変化を引き起こす可能性があり、これは、終末糖化産物産物の蓄積に続発すると推測されている。糖尿病患者において不十分な血糖管理とインスリン感受性の異常は、心不全発症率の増加と相関しており、血糖変動は糖尿病患者における
心不全発症に対する関与が示唆されている。

CGM による血糖変動の評価は、夜間の無自覚な低血糖、朝食後の顕著な高血糖、昼食後の血糖急降下などの存在を明らかにすることができるため、従来の血糖自己測定や HbA1c といった糖尿病管理の指標とは異なる重要性があると考えられる。糖尿病関連の心機能障害の病因は多因子にわたり、左室拡張機能障害として現れる T2DM 患者における HFpEF の発生の重要な要因であると考えられて
いる。また、糖尿病に関連して発症した左室拡張機能障害は、T2DM 患者の経過において初期に観察される左室機能異常と考えられている。

血糖変動と左室拡張機能との関連のメカニズムはまだ完全には解明されていないが、血糖変動が内皮毒性、酸化ストレス、および虚血の促進に役割を果たすことが示唆されている。HFpEF に対する効果的な薬物療法はないため、T2DM 患者における血糖変動の是正は、HFpEF の将来の発症を予防し得ると考えられた。

【結語】
血糖変動は、左室駆出率の保たれた無症候性の 2 型糖尿病患者における左室拡張機能障害の独立した関連因子であった。HFpEF は多様な因子が関与する疾患であり、HbA1c のみならず、血糖変動の是正をターゲットにした糖尿病治療は、将来的な HFpEF の発症を予防するための新たな治療戦略になる。

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