超伝導送電システムに向けた状態監視・診断技術に関する基礎研究
概要
超伝導ケーブルは「電気抵抗ゼロで送電することができる」超伝導の性質を利用したケーブルで、高効率送電や電圧降下削減、変電所の負荷平準化・削減が期待される。一方で、超伝導ケーブルは、超伝導状態を保つために、冷媒を常に流して超伝導材料を一定の温度以下に冷やし続ける必要がある。そこで、超伝導ケーブル冷却における主要な機器である液体窒素循環ポンプや冷凍機などの不具合を事前に検出することを目的とし、超伝導送電システムに向けた状態監視・診断技術に関する基礎研究を行った。具体的には、回転式液体窒素循環ポンプに向けた自動診断法、インバータ制御冷凍機に向けた自動診断法、転がり軸受式液体窒素循環ポンプなどに使用される転がり軸受の複合異常に向けた知的診断法についての研究を行った。
回転式液体窒素循環ポンプに向けた自動診断法では軸受異常から離れた場所での自動診断法について研究を行った。回転式液体窒素循環ポンプでは軸受が極低温部にあることがほとんどであり、極低温部に加速度センサを取り付けるのは困難であるため、軸受から離れた常温部で診断する方法について検討が必要となる。そこで、遺伝的アルゴリズムおよびタブー探索法を用いた簡易診断とハイパスフィルタ後の包絡線スペクトルから算出した軸受診断専用パラメータに決定木を用いる精密診断とを組み合わせた手法を提案し、回転機械設備を模擬した実験装置を用いて得られたデータを用いて閾値・決定木を設定した。また、異なる試番を用いて、設定した閾値・決定木の妥当性を検証し、様々なアルゴリズムを適用することで離れた場所での衝撃系異常が検出可能であることを確認した。さらに、決定木の代わりに可能性理論とファジィ推論を用いた精密診断法も提案し、有用性を確認した。回転式液体窒素循環ポンプに限らず、現場の設備には軸受近傍に加速度センサを取り付けるのが難しい設備もあり、そのような設備にも本手法を適用することが可能である。
インバータ制御冷凍機に向けた自動診断法では超伝導ケーブル冷却で今後主流になるブレイトン冷凍機に着目し、インバータ制御回転機械の自動診断法について研究を行った。インバータ制御回転機械は負荷のよって回転数変化してしまい、回転数が変化すると故障診断のために測定した振動加速度信号は時間と共に大きく性質が変化してしまうため、従来から提案されている故障診断手法のインバータ制御機器への適用は難しい。そこで、インバータ制御機器に対し、DPマッチングを用いて振動加速度センサのデータから自動的に回転数を同定し、その後従来から提案されている診断法を適用する手法を提案した。また、提案した手法を検証するため、回転機械設備を模擬した実験装置を用いた試験を行った。実験装置による検証では、DPマッチングにより100rpmの精度で回転数を同定できることを確認し、また、その後の主成分分析法により正しく正常・異常を判別できることを確認した。本手法はブレイトン冷凍機に限らず、超伝導ケーブル冷却システムにも使用されるチラー(冷却水循環装置、液体窒素循環ポンプや冷凍機の冷却水循環に使用)や一般に利用されているエアコンなど、幅広いインバータ制御回転機に適用することが可能である。
転がり軸受の複合異常に向けた知的診断法では、転がり軸受式液体窒素循環ポンプや冷却水循環ポンプなどに使用される転がり軸受の中期段階の異常にみられる複合異常(複数の傷による異常)の診断法について研究を行った。転がり軸受における単一異常診断に関する理論と方法は確立されており、また軸受複合異常によって引き起こされるパス周波数は理論と実験の両方で同じであることは分かっているが、転がり軸受において複数欠陥を同定する精密診断手法はまだ提案されていない。そこで、本研究では、時間-周波数領域波形分布という特徴抽出手法を提案し、エクストリーム・ラーニング・マシンと連続診断法による知的軸受異常診断手法を提案した。本手法は当然一般の転がり軸受に適用可能である。