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大学・研究所にある論文を検索できる 「遅延フィードバック制御を用いた直流給電システムの安定化」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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遅延フィードバック制御を用いた直流給電システムの安定化

吉田 晃基 大阪府立大学 DOI:info:doi/10.24729/00017350

2021.04.20

概要

工学分野では,理論的に体系化されている「線形システム」を主な研究対象として扱うことが多い.しかし,我々の周りに存在する大半の実システムは,この線形システムではなく,これを包含する「非線形システム」として表現される.ただし,この非線形システムの扱いを理論的に体系化することは難しく,工学分野では積極的に扱ってこなかった.一方,非線形科学分野では,非線形システムに生じる「多様で豊かな現象」を主な研究対象として扱っている.この非線形科学と工学の学際的な接点の一つとして,非線形システムに生じる「カオス現象」を,工学分野で体系化された「フィードバック制御」によって安定化する研究が挙げられる.この「カオスの制御」は,非線形科学と工学の両分野で注目を集め,様々な制御手法が考案されてきた.その代表的な制御手法として,Pyragasによって提案された「遅延フィードバック制御」がある.この手法は,非線形システムに内在する「不安定周期解」や「不安定平衡点」を安定化することができ,また,次の利点を持つ.制御則は,不安定周期解や不安定平衡点の位置情報を必要としない.安定化が完了すると制御信号は0に収束する.システムパラメータがゆっくりと変化し,平衡点の位置が移動しても,その平衡点を安定化しつつ追従できる.

 米国では1880年代後半に,商用電力システムに直流と交流のどちらを採用するか議論されていた.当時の直流給電システムは送電電圧が低いため損失が大きく,広域に渡る給電が困難であった.一方で,交流給電システムは変圧器による昇圧が容易であったことから,採用に至った.今日では,パワーエレクトロニクスコンバータの登場により,直流給電における昇圧の欠点は克服されている.また近年では,直流の電力を発電,消費,蓄電する機器が増えたことから,直流による電力供給も重要な技術として期待されている.

 直流給電システムの利点には,直流機器の統合の容易さ,システムのサイズとコストの抑制,伝送容量の向上などが挙げられる.その一方で,「定電力負荷」と呼ばれる「非線形特性を有する負荷」が直流給電システムに接続されると,バス電圧は不安定化する可能性がある.身の回りにある多くの直流負荷は,電圧変換のためのスイッチング機器を備えており,定電力負荷として動作する.そのため,定電力負荷による不安定化現象は,直流給電システムが解決すべき重大な課題の一つである.そこで,パワーエレクトロニクス分野では,この課題を解決するために多くの研究がなされている.一方,直流給電システムの安定化問題は,非線形科学の視点から見ると,非線形システムに内在する不安定平衡点の安定化問題に相当することがわかる.すなわち,上記で述べた遅延フィードバック制御は,ユーザーの需要の変動や電源電圧の変動に伴って平衡点(動作点)の位置が移動する直流給電システムの安定化に適していると言える.

 このような学術的背景に基づき,定電力負荷が引き起こす不安定化現象の抑制に,遅延フィードバック制御は有用であることが先行研究で示唆されている.この先行研究では,「直流給電システムの基本回路」に生じる不安定化現象の分岐解析が実施されており,遅延フィードバック制御器が線形安定解析に基づいて設計されている.しかし,これらの解析結果は実機による検証がされていない.また,直流給電システムでは,ユーザー需要の変動に伴って,負荷の消費電力が頻繁に時間変動することが容易に想像できる.しかし,先行研究においてこの消費電力の変動に対するシステムの頑健性は,数値シミュレーションによる簡単な調査しかなされていない.そのため,遅延フィードバック制御を用いた直流給電システムの安定化技術を実現するためには,次の2つの課題を解決する必要がある.(課題1)先行研究によって実施された「不安定化現象の分岐解析」と「遅延フィードバック制御器の線形安定解析に基づく設計」が,パラメータの誤差やノイズによる影響が無視できない「実システム」でも有効であることを実験で確認する必要がある.(課題2)消費電力の変動やその他の外乱に対する頑健性を保証する必要がある.その理由としては,変動や外乱によって回路の状態が動作点から離れると,先行研究の解析結果では,安定性は保証できないことが挙げられる.

 本論文の目的は,上記の課題に取り組むことである.課題1への取組みでは,直流給電システムの基本回路と遅延フィードバック制御器を電気回路で実装し,実験結果と先行研究の解析結果が一致することを確認する.課題2への取組みでは,大きく分けて2つのアプローチを実施する.1つ目のアプローチでは,動作点の位置変動に対する遅延フィードバック制御の「追従性能」に着目する.直流給電システムでは,消費電力の変動に伴って動作点の位置が変化する.この変動のスピードがどの程度緩やかであれば,回路の状態は動作点から離れることなく動作を続けられるのかを明らかにする.2つ目のアプローチでは,動作点の「ベイスン」に着目する.動作点のベイスンとは,時間の経過に伴ってシステムの状態が動作点へと収束する「初期状態の集合」である.その大きさを推定・拡大できれば,システムの外乱に対する頑健性が評価・向上できる.以下に各章の内容を示す.

 第1章では,本論文の研究背景・目的・各章の概略を示した.

 第2章では,直流給電システムの基本回路と遅延フィードバック制御器を電気回路で実装し,実験を行った(課題1).また,消費電力の時間的な変動に対して,遅延フィードバック制御で安定化した動作点の追従性能を実機で確認した(課題2).課題1への取り組みでは,制御を施していない直流給電システムの基本回路に生じる分岐現象を実機で確認した.さらに,動作点の安定化が可能な遅延フィードバックの制御パラメータは,実験と解析で一致することを確認した.課題2への取り組みでは,消費電力の変動スピードが緩やかな場合,回路の状態は動作点を正確に追従でき,変動スピードが速い場合,追従に失敗することを示した.追従可能な変動スピードの上限値は,周波数領域解析に基づいて導出した.課題2への取り組みの結果,負荷の緩やかな変動に対する回路の頑健性が保証できた.しかし,負荷の変動が速い場合や,大きな外乱に対する頑健性は保証できていない.そこで第3章以降では,動作点のベイスンに着目して,遅延フィードバック制御が施された直流給電システムの外乱に対する頑健性を調査した.

 第3章では,ベイスンが大きくなる制御パラメータを調査した(課題2).一般的に,遅延を伴うシステムのベイスンは,初期関数と呼ばれる時間関数の集合である.そのためベイスンの次元は無限大となり,ベイスンの形状を記述することは困難である.そこで第3章では,実システムに起こり得る3種類の外乱に限定し「ベイスンの断片」を導出した.このベイスンの断片を拡大するには,「ホモクリニック分岐」の発生が有効であることを,数値シミュレーションと回路実験で確認した.ただし,第3章の結果は,断片の導出に用いた3種類の外乱に対してのみ,回路の状態が動作点へと収束することを保証する.そこで,第4章では外乱を限定することなく,ベイスンの形状を有限次元空間上に記述することを目指した.

 第4章では,遅延フィードバック制御が施された直流給電システムのベイスンの形状を,数値的に導出した(課題2).遅延フィードバック制御が施されたシステムのベイスンの形状は容易に導出できない.そこで,ベイスンの次元を有限に落とし込む工夫として「Act-and-wait遅延フィードバック制御」を用いた.この制御システムに生じる「不安定な概周期振動解」は動作点のベイスンの境界と一致することを明らかにした.このベイスンの情報を用いると,回路の状態が動作点へ収束するか否かは,ある時刻における回路の状態だけで判断できる.ただし,Act-and-wait遅延フィードバック制御には,通常の遅延フィードバック制御と比較して,安定性に関するデメリットも存在することが先行研究で報告されている.そこで第5章では,通常の遅延フィードバック制御が施された直流給電システムに,いかなる外乱が印加されても,回路の状態が動作点に収束することを目指した.

 第5章では,遅延フィードバック制御が直流給電システムの動作点を大域的に安定化する条件を調査した(課題2).動作点を大域的に安定化できれば,回路の状態は,あらゆる初期状態から動作点へと収束する.そのため,どのような大きさの外乱に対しても安定性が保証できる.具体的には,定電力負荷の数理モデルに動作電圧の制約を考慮して,システムの大域的な振る舞いを数値的に調査した.その結果,大域的な安定化の実現には「周期解のサドルノード分岐」に基づく制御パラメータの設定が有用であることを明らかにした.

 第6章では,各章のアプローチについて,メリットとデメリットを整理した.

 第7章では,本論文の結果をまとめた.

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