火災時におけるプレストレストコンクリート部材の爆裂挙動と火災後の耐荷性に関する研究
概要
従来,鉄筋コンクリート(以下,RC と略)構造は耐火構造であると考えられてきた.一方,プレストレスコンクリート(以下,PC と略)構造は,RC 構造と同様にコンクリートと鋼材からなる構造であることから,一般に RC 構造と同様に耐火構造であると考えられている.しかし,PC 構造はプレストレスによる拘束応力下のコンクリート構造という特異な点を有しており,火災時の挙動は RC 構造と異なる.従って,PC 構造の耐火性に関しても検討を進めていくことは重要である.PC 構造は RC 構造に比べて爆裂が発生しやすいことなどが古くから知られている.しかし,PC 構造は RC 構造同様に耐火構造であるという認識であったため,PC 構造の耐火性に関する研究はさほど活発に行われていない.そのため,PC 構造の耐火に関する設計法の確立は十分とは言えないのが現状である.そこで,本研究では PC 部材の火災による高温の影響を受けた PC 梁の爆裂挙動および火災後の PC 梁の耐荷特性について実験的に検討を行い,現状の PC 部材の耐火性能評価を行った.また, PC 構造物の耐火設計方法を構築することを目的に,PC 部材の爆裂評価手法の提案,PC 部材の火害後の耐力評価手法の提案を行った. PC 部材の耐火性能評価では,PC 梁の一面加熱試験を実施し,さらに一部の試験体において加熱冷却後の常温時載荷試験を実施した.
本研究では,火災時の PC 部材の爆裂挙動として次のことを確認することができた.高 温環境下に曝された PC 部材に爆裂が生じると,コンクリートの断面欠損が生じ,コンクリートの内部拘束力が開放されると同時にプレストレス力の再分配が生じる.これにより, PC 鋼材ひずみが減少し,導入プレストレス力の損失が起こる.また,この現象は,(1)導入 プレストレス力が大きい,(2)含水率が大きい,(3)コンクリート強度が大きい,(4) 加熱条 件がより厳しい場合ほど,損失量が大きくなる傾向にある.本研究を通して,PC 部材に爆 裂による損傷が生じた場合の導入プレストレス量の損失過程を明らかにすることができた.また,加熱条件により爆裂発生時期,爆裂継続期間中のひずみ挙動などを明らかにするこ とができた.さらには,コンクリート強度,加熱時の材齢や含水率などにより PC 部材の爆 裂による損傷の程度,導入プレストレスの損失の違いを明らかにした.これらが本研究に おける画期的な点である.
火災後の PC 部材の耐荷性として,加熱冷却後の常温時載荷試験より次の知見を得ることができた.PC 部材が火災による高温の影響を受けると,爆裂による断面欠損,加熱によるひび割れの影響,コンクリート剛性の低下などにより,荷重による変形が大きくなる.火災後の PC 部材の引張鉄筋降伏荷重は,爆裂により生じる断面欠損,断面欠損による導入プレストレスの損失などの影響を受け低下する.また,その低下の割合は,爆裂による損傷,コンクリートおよび鋼材の受熱温度が大きいほど,大きく低下する.定着部が健全かつ PC 鋼材の受熱温度が降伏耐力の低下が生じない範囲であれば,終局耐力への影響がほぼないことなどを明らかにした.
PC 部材の爆裂評価手法の提案では,引張ひずみ破壊モデルを用いた PC 部材の爆裂深さの推定式の提案を行った.また,加熱により生じる熱応力(拘束応力)を用い,概略的に爆裂深さの推定を行う方法を提案した.提案式を検証した結果,提案式および提案方法を用いてある程度の精度で PC 部材の爆裂深さの推定が可能であることを示した.さらに,有限要素解析ソフトを使用し,コンクリート内部温度および爆裂深さの経時変化の推定を行った.既往の研究は,コンクリートや PC 鋼材などの各材料に関する高温時挙動はモデル化され取り込まれているが,爆裂に伴う断面欠損の影響などは考慮されていない.そこで,推定には引張ひずみ破壊モデルを用い,爆裂によるコンクリートの断面欠損を,要素を剥離させることにより擬似的にモデル化した.また,飽和水蒸気圧曲線から蒸気圧と温度の関係を破壊条件に組み込んだモデルについても検討を行った.以上が,本提案における画期的な方法である.
PC 部材の火害後の耐力評価手法の提案では,PC 梁部材の降伏耐力および終局耐力の評価手法について提案を行った.PC 梁部材の残存耐力の推定方法として,爆裂に伴うプレストレス減少の影響を考慮し,火害後の PC 梁部材の残存耐力,つまり引張鉄筋降伏時の降伏耐力と終局耐力を算出する方法を提案した.提案方法の検証を行った結果,終局時に PC鋼材の降伏が生じずに曲げ圧縮破壊が生じるような PC 梁部材では,引張鋼材の大きな強度低下が生じない受熱温度の範囲内であれば,プレストレスの減少を考慮することにより,降伏荷重および終局荷重をある程度の精度で推定することが可能であることを本研究の成果として示した.