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大学・研究所にある論文を検索できる 「リゾリン脂質の膜受容体への結合経路および受容体活性化におけるモジュール構造の役割」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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リゾリン脂質の膜受容体への結合経路および受容体活性化におけるモジュール構造の役割

佐山, 美紗 東京大学 DOI:10.15083/0002005148

2022.06.22

概要

【緒言】
 リゾリン脂質は、細胞膜の構成成分であるリン脂質から脂肪酸が酵素的に切り出されることで生じる脂質分子であり、シグナル分子として膜受容体を活性化する。リゾホスファチジルセリン(Lysophosphatidylserine: LysoPS)は親水性部にセリンを有するリゾリン脂質の一種である(図1)。LysoPSは、ヒトで3種のGタンパク質共役型受容体(GPCR)、GPR341, P2Y102, GPR1742を特異的に活性化し、免疫系に関与することが示唆されているが、これら受容体機能の詳細は未だ解明が十分になされていない。そこで、所属研究室では、受容体機能解明のためのツールとして有用な、受容体に対して高い活性および受容体サブタイプ選択性を有するLysoPS誘導体の創生が進められてきた。
 LysoPSの化学構造は、親水性のホスホセリン部位、疎水性の脂肪酸部位、両者を連結するリンカー部位という3つの明確な部分構造(モジュール構造)に分けられる(図1)。それぞれのモジュールは個別に構造展開可能であり、最適化された構造を連結する戦略で多くのLysoPS受容体アゴニストが創生されてきた3。
 また、各々のモジュール構造が受容体にどのように認識されるかを知るため、著者は、GPR34に高い活性を示すアゴニスト1とGPR34の結合モデルを作成した(図2)4。誘導体1はGPCRの膜貫通ヘリックスに囲まれたポケットに結合し、親水性モジュールに対して疎水性モジュールはより細胞内側に位置した。また、誘導体1とGPR34の結合モデルにおいて、疎水性モジュールの末端は膜貫通ヘリックス4、5(TM4, TM5)間に存在した。TM4,TM5間には受容体外の細胞膜領域に対して開いた出入り口が存在し、化合物1のD環はこの出入り口を通って受容体外に突き出て、細胞膜脂質と相互作用すると予想された。GPR34–化合物1結合モデルにおいて、完全に受容体外に位置するD環パラ位に疎水性置換基Rを導入しても、誘導体の受容体結合は妨げられず、GPR34活性は損なわれないと考えられる。実際に2a-CH3のようにノルマルヘキシルオキシ基を導入した誘導体は1と同様の高いGPR34活性を示した。このように、受容体外に位置する疎水性モジュール末端部位(受容体外テール領域)は、誘導体活性を損なうことなく構造展開可能である。すなわち、図1に示した3つのモジュール(親水性モジュール、疎水性モジュール、リンカー)に加えて受容体外テール領域も誘導体の構造展開可能な4つ目のモジュールとみなすことができる。

【目的】
 本研究では、LysoPSのそれぞれのモジュールと受容体との相互作用がリガンドの受容体結合および活性化にどのような役割を果たすのかという疑問にアプローチすべく、(1)受容体外テール領域および、(2)親水性モジュールの展開を行った。

【結果と考察】
(1)受容体外テール領域への膜脂質模倣体の連結によるLysoPS誘導体のGPR34へのMembraneapproachの検証
 脂質リガンドのGPCRへの結合経路として、一旦リガンドが細胞膜に挿入されてから細胞膜上の側方拡散を介して受容体に侵入するMembrane approachが示唆されている。図2に示したGPR34–リガンド結合モデルにおける細胞膜側に向けて開いた結合ポケットは、LysoPS誘導体がMembrane approachにより受容体に結合することを示唆している。そこで本研究では、GPR34への誘導体のMembrane approachを計算科学および実験の両側面から検証することを目的とした。
 まず、分子動力学(MD)シミュレーション中、受容体に結合したリガンドを指定した方向に引き抜くsteered Molecular Dynamicsシミュレーションを行ったところ、受容体に結合した誘導体2a-CH3をTM4,TM5の間を通って細胞膜方向へと引き抜くことができた。このことから、TM4,TM5の間から、逆にリガンドが入っていく経路も分子レベルで確かに可能であると考えられる。
 次に、実験的にMembrane approachを検証すべく、誘導体の受容体外テール領域に膜脂質模倣体として異なる長さのアルコキシアミンを付与することで、疎水性モジュールの細胞膜への挿入を制限した誘導体を設計、合成した。膜脂質サロゲート末端のアミノ基は細胞外の水分子により水和されるため、細胞膜に挿入されにくいと考えられる。そのため、短いアルコキシ鎖を有するサロゲートを連結した2b-NH2は膜脂質に浅く挿入される一方、長いアルコキシ鎖を有するサロゲートを連結した4b-NH2は、GPR34における疎水性モジュール結合ポケットの存在する細胞膜中心付近まで深く挿入可能と考えられる(図3)。実際に、誘導体を細胞膜モデルに挿入して行なったMDシミュレーションから、本予想が妥当であることを確認した。
 TGFα shedding assay2により、受容体活性化の下流で起こるイベントを定量することでヒトGPR34に対する誘導体活性を評価したところ、2b-NH2はほぼGPR34活性を示さなかった一方、4b-NH2は誘導体1と同等の高いGPR34活性を示した。本結果は、4b-NH2が末端アミノ基の水和を維持したままMembrane approachによりGPR34に結合可能であるという予想に合致する。
 4b-NH2はその末端アミノ基をメチル基とした4a-CH3よりも高いGPR34活性を示した。このことから、末端アミノ基が細胞外の水に水和されていること自体が受容体活性を高めるのではないかと考えられる。そこで、末端親水性部位の活性への影響を調べるため、末端アミノ基をアセチル化してプロトン化を抑制した4c-NHAcと、アミノ基を2つにしてジプロトン化を可能とした4d-diNH2を合成、活性評価した。結果、4c-NHAcは4b-NH2より高い活性を示す一方、4d-diNH2は4b-NH2より低い活性を示し、正電荷がない方がGPR34に対し高い活性を示す結果となった。4c-NHAcあるいは4d-diNH2とGPR34との複合体モデルを構築し、MDシミュレーション中での膜脂質サロゲート末端の親水性基の動きを観察したところ、4c-NHAcは正電荷を有する受容体表面にとどまる傾向がある一方、4d-diNH2では正電荷を有するアンモニウムとの反発で逆に離れる傾向が見られた。この結果から、受容体外テール領域の変換により受容体表面との相互作用を獲得することで、誘導体活性を高めることができると考えられ、受容体外テール領域の構造展開の有用性が示された。

(2)親水性部位の受容体活性化へのGPR174への影響
 本研究では、GPR174に対してこれまでにあまり研究がなされてこなかった親水性モジュールのアミノ基の変換の構造要求性を調べることを目的とした。グリセロール部位と脂肪酸を連結するエステル結合をアミドとし、脂肪酸部位にメタ置換ベンゼン環を導入することでGPR174活性および選択性が向上することが先行研究により明らかであったので3、本骨格を用い、カルボキシ基α位に種々の置換基を導入した(図4)。結果、置換基によるアゴニストとアンタゴニストの変換を実現した。
 TGFα shedding assayにより、マウスGPR174に対する化合物活性を評価した。Rに内因性LysoPSと同様にアミノ基を有する誘導体5aは高いGPR174アゴニスト活性を示したが、置換基Rを変えることによりGPR174活性が大幅に減弱あるいは消失した誘導体が得られた。これらの化合物が受容体阻害活性を示すか、レファレンスアゴニストの存在下、化合物濃度を変えた際の受容体活性化を定量した。結果、高濃度においてレファレンスアゴニストによる受容体活性化が阻害され、GPR174アンタゴニストが得られたことがわかった。さらに置換基を展開したところ、受容体活性化のEmaxがRによって変化することがわかり、パーシャルアゴニストを得た。なぜ親水性モジュールカルボニルα位の構造展開によりアゴニスト、アンタゴニストのスイッチが起こるのかという疑問にアプローチするため、GPR174とLysoPS誘導体の複合体モデルを作成した。GPR174の三次元構造は報告されていないため、類縁のリゾリン脂質受容体であるリゾホスファチジン酸受容体(LPA6)結晶構造5を用いたホモロジーモデリングによりGPR174モデルを構築した。アゴニストあるいはアンタゴニストとの複合体モデルを作成したところ、両者で疎水性モジュールの結合位置は一致していた一方、親水性モジュールの相互作用が異なっていた。

【結論】
 本研究では、LysoPS誘導体の構造展開可能部位として、受容体外テール領域および親水性モジュールに着目し、それぞれのリガンドの受容体結合経路および受容体活性化における役割を知るべく研究を進めた。
 受容体外テール領域の変換を計算科学による考察と組み合わせることによって、LysoPS誘導体のGPR34へのMembrane approachを検証するとともに、受容体外テール領域の調節でGPR34について、Membrane approachを促進し、アゴニスト活性を高める構造展開が可能であることを見出した。また、親水性モジュールの変換はGPR174に対して受容体活性化に影響し、アゴニスト、アンタゴニストの変換を可能とすることを見出した。

参考文献

1) Sugo,T.etal.Biochem.Biophys.Res.Commun.2006,341,1078-1087.

2) Inoue,A.etal.Nat.Methods2012,9,1021-1029.

3) Ikubo,M.,Sayama,M.etal.J.Med.Chem.2015,58,4204-4219.

4) Sayama,M.etal.J.Med.Chem.2017,60,6384-6399.

5) Taniguchi,R.,Inoue,A.,Sayama,M.etal.Nature2017,548,356-360.

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